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連載 中央アジアと日本 第5回 タジキスタン―内戦から復興するシルクロードと水の山岳国家― | 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問) 稲垣 文昭【配信日:2013/08/30 No.0222-0902】

配信日:2013年8月30日

連載 中央アジアと日本 第5回
タジキスタン
—内戦から復興するシルクロードと水の山岳国家—

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問)
稲垣 文昭


 内戦から順調な復興を遂げるタジキスタンの更なる発展の為には、経済・安全保障両面における対露依存、水力発電を巡るウズベキスタンとの対立など解決すべき課題が多い。


中央アジア唯一のイラン系民族タジク人
イスモイル・ソモニ像

イスモイル・ソモニ像

 タジキスタンの国土の実に93%を山岳地帯が占める。その東部には「世界の屋根」と呼ばれるパミール高原が広がり、10世紀に栄えたサーマーン朝の君主(アミール)に由来する旧ソ連の最高峰「イスモイル・ソモニ峰(7495m)」がそびえている。その君主の名は通貨の名称「ソモニ」にも用いられ、その勇姿は最高会議ビル(国会)の向かいに立つ大きな銅像に確認できる。つまり、イスマイル・ソモニはタジク民族が誇る英雄であり国民統合の象徴である。
 そして、イラン系のサーマーン朝を国民統合の象徴とすることから分かるとおり、タジク民族はカザフ、キルギス、ウズベク、トルクメンなどのトルコ系とは異なりイラン系である(但し、支配的なイスラーム卿宗派はイランとは異なりスンニ派)。その祖先は、紀元前から中央アジアに居住し、仏教の伝来など日本とは縁の深い「シルクロード」などユーラシアの交易要衝路を形成したイラン系農耕民族ソグド人やバクトリア人である。

中央アジアで唯一の内戦経験国
 タジキスタンは中央アジアで唯一内戦(1992~2000年)に陥った国家でもある。死者5万人、難民25万人の犠牲者を出した同内戦終結には日本もかかわっている。1998年7月に国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官の任務中に武装勢力に殺害された秋野豊・元筑波大学助教授が取組んでいたのが難民帰還など国民和解のための信頼醸成であった。
 なお、タジキスタン内戦は地域対立であった。ソ連時代のタジキスタンの統治構造は歴代共産党第一書記を排出してきた北部スグド州を南部クロブ州(現ハトロン州東部)が支える形であった。そのスグド=クロブ体制に、中部ガルムと東部パミール高原のゴルノ・バタフシャン自治州による野党連合が挑戦したのが内戦の構図である。内戦は、1997年6月に結ばれた和平協定に基づき、政府の主要ポストの3分の1が野党側に明け渡されたこともあり終結した。ただし、ロブ州出身のエモマリ・ラフモンが1994年以来大統領を務めることから分かるとおり、内戦を経て統治構造はクロブ州を頂点とする形に変化した。また、本年11月に大統領選挙が予定されている。ラフモン大統領の二期目の再選が確実視されているが、政権の長期化に対する不満の解消が重要な課題となると思われる。

順調な復興とタジキスタンの産業—出稼ぎ労働者依存の経済?
 財政の半分をソ連中央政府からの補助金に依存していたタジキスタン経済はソ連解体と内戦によりほぼ破壊されたが、内戦終結後のタジキスタンの経済成長率を2003年と2012年のGDPで比較すると約15億5千万米ドルから4倍強の69億9千万米ドルへと順調に成長している。ドゥシャンベ市内だけを見渡しても内戦の傷跡は見受けられない状態である。 
 タジキスタンの主要輸出産業はアルミニウム(61.5%)と綿花(16.7%)である(括弧内は2010年の数値)。主な貿易相手国は、ロシア、中国、カザフスタン、トルコの4ヵ国であるが、輸出は中国とトルコが約7割を占めている。輸入は石油製品やアルミナといった原料が中心であり、相手国としてはロシアとカザフスタンが約5割を占めている。なおGDPの約5割は海外出稼ぎ労働者の送金が占め、その9割はロシアからである。それ故に、タジキスタン経済はロシア経済の景気動向の影響を直接的に受けることとなる。また、タジキスタン政府にとっては自国民保護のために良好な対露関係が不可欠となる。そのため、ロシアが推進する関税同盟加盟は重要な外交課題の一つである。だが、タジキスタンは2013年3月に159番目のWTO加盟国となったため、関税同盟加盟交渉は難航すると予想される。

安全保障問題—アフガニスタンと駐留ロシア軍—
 タジキスタンの安全保障上の一番の懸念は、1,344㎞の国境を接するアフガニスタン問題である。とくに2014年のISAF撤退後のアフガニスタンの安定化が焦眉の課題である。そして、タジキスタンの安全保障の最重要プレーヤーが駐留ロシア軍である。1945年にタジキスタンに配備された「第201狙撃師団」に始まるタジキスタン駐留ロシア軍「第201軍事基地」は、要員7,000名を数えるロシア最大の国外基地でもある。2005年にタジク軍に移譲するまでタジク=アフガン国境を管理していた同部隊の駐留期限は2014年であったが、約1年の交渉を経て2012年10月に両国首脳が2042年までの駐留延長で合意した。
 但し、2013年5月にロシア議会が同協定を批准したにもかかわらず、タジキスタン議会は批准を遅らせている。これは、タジキスタンがロシアに対しタジク軍近代化への支援やタジク経済を支えるタジク人出稼ぎ労働者の地位保全などを求めているためである。経済上ロシアに依存しながらもタジキスタンが強気に出る背景には、タジキスタン領内にある露宇宙軍宇宙監視施設「OKNO」の存在がある。OKNOはロシアの安全保障の要となる施設であるため、ロシアにとってもタジキスタンの不安定化は見過ごせる問題ではない。タジキスタンはこのロシアの安全保障上の要としての立場を、経済的利益の拡大のために対露交渉の道具としているのである。

水資源を巡るウズベキスタンとの確執と油田の発見
ヌレクダム

現時点でタジキスタン最大の「ヌレクダム(発電容量:3,000MW)」

 山岳国家タジキスタンは中央アジアの水源の55%を占め、その包蔵水力による可能発電量は日本の約4倍(52,825kWh)である。タジキスタンはエネルギー確保のために、水力発電所の増強を進めているが、下流域国であるウズベキスタンの激しい反対に直面している。とくにソ連時代に計画された世界一の高さ(335m)となる「ログンダム(発電容量3,600MW)」建設を巡って両国は激しく対立している。
 自国向けの水量の減少を懸念するウズベキスタンは、送電網切断、貨物列車足止め、天然ガス価格の値上げと供給停止などの圧力をかけている。だが、同ダムは、世銀などが支援する「CASA1000」プログラムの主要電源でもある。タジキスタン(とキルギス)の水力発電所からアフガニスタンとパキスタンに安価な電力を供給することを目的とした同プログラムは、ログンダムがアフガニスタン情勢にも密接に関係していることを示している。現在は、下流域への影響を含め世銀がFS調査を実施中であり、タジキスタンが建設を一時凍結している状態である。
 他方、2012年7月に英テティス石油がハトロン州において、埋蔵量275億bbl相当の石油・天然ガス鉱床を発見した。2013年6月には、中国向けのガスパイプライン敷設を計画する中国CNPCと仏トタルが資本参加した。化石燃料が不十分なタジキスタンにおいて同鉱床の開発が順調に進めば、タジク=ウズベク関係だけではなく中央アジア地域巡る力学にも変化がもたらし得るため注意して見て行く必要がある。

日本との関係-和平支援から経済支援・進出へ―
 日本は、秋野UNMOT政務官の事件もありタジキスタン和平支援パッケージを1998年から実施、3回の民主化セミナーを含めると同国の和平と民主化に資する研修員を5年間で500名を受入れた。また、2011年までに文化・草の根を含む約200億円の無償資金、44億円の技術支援を供与し、運輸インフラや地方開発に積極的に取組んできており現地でも高い評価を受けている。
 残念ながら他の中央アジア諸国とはことなり投資環境ネットワークは未だ設立していないが、日本企業も進出している。天草根からグリチルリチンを製造する宏輝株式会社が、タジキスタンの抱負な天草に着目し2011年9月に合弁会社Avalinを設立した。和平支援から経済支援へと発展した日本のタジキスタンへの係り方が投資へと発展するために、投資環境ネットワークの早期の設立が期待される。

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