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安倍政権と2020年 | 一般社団法人 共同通信社 編集委員 論説委員 渡部 道雄【配信日:2013/11/29 No.0225-0909】

配信日:2013年11月29日

安倍政権と2020年

一般社団法人 共同通信社 編集委員 論説委員
渡部 道雄


 安倍首相は2020年の東京五輪招致に成功したが、2020年は安倍政権にとって重要な政策の到達目標年にもなっている。


 安倍晋三首相にとって2020年は何かと大きな区切りになっている。日本列島が沸き返った第32回夏季オリンピック・パラリンピック大会の東京開催は2020年。東京電力福島第1原発では1号~3号機の溶け落ちた核燃料取り出しという廃炉が同年にスタートする。安倍首相、消費税率引き上げ決断したが、国と地方のプライマリーバランス(財政の基礎的収支)の黒字化は2020年度が目標。アベノミクスの3本目の矢である成長戦略では医療、農業といった「岩盤規制」分野の改革達成目標も2020年である。2020年まであと7年。長いようで、あっという間に来そうだ。果たして目標年次までに達成できるか考察した。

 まず東京五輪である。「極めて大きな経済効果がある。五輪決定を機会に日本発展に結び付けていきたい」。菅義偉官房長官は記者会見で、五輪を日本再生の起爆剤にしたいとの期待感を表明した。国立競技場は8万人収容の「五輪スタジアム」に改築され、2万人収容の「五輪水泳センター」が新設される。バスケットボールとバドミントンを行う「夢の島ユースプラザ」やバレーボール会場の「有明アリーナ」も誕生。1000億円超を掛けて選手村も作られる。晴海の選手村から「五輪スタジアム」までの途中には「マッカーサー道路」(環状2号)が新設され、汐留から虎ノ門までトンネルで移動できるようになる予定だ。だが、早くも建設資材の高騰や建設作業員不足などが顕在化してきた。東北からは「東京での五輪関連事業に建設業者が集まり、被災地への目がそらされるのではないか非常に心配」(野田武則・岩手県釜石市長)と懸念が出た。東電福島第1原発事故で除染作業をしている関係者からは「労働単価が高い東京に人手を取られる」との悲鳴も。

 安倍政権は国家強靱化計画を打ち上げ、五輪までに老朽化が著しい高速道路、橋梁などの補強作業に力を入れる方針だが、公共事業予算のぶん取り合戦が激しさを増している。「あれじゃあ昔の自民党だな」と民主党幹部。その代表格が二階俊博総務会長代行だろう。二階氏は東日本大震災発生後に国土強靱化基本法案を国会に提出したほどで、「二階氏抜きには強靱化は語れない」(財務省幹部)と言われるほどのキーパーソンになってきた。自民の先祖帰りには国民からも批判が高まろう。

 福島第1原発からの汚染水について、安倍首相は五輪招致のプレゼンテーションで「状況はコントロールされている」と言い切った。だが放射性物質の海洋への流出が止まっていないのは国民の常識で、海外からの批判も強まるばかり。汚染水の封じ込めと第1原発1号機~3号機の廃炉を予定通り進めないと日本は信用が失墜しかねない。しかし、水素爆破した福島原発1号~3号機は、溶け落ちた核燃料と燃料皮膜金属が固まった状態(燃料デブリ)と呼ばれる。燃料デブリは現在も熱を発し、水で冷やされているが、非常に高い放射線量で近づくのは不可能。実態がどうなっているか分からず、どうやって、いつ取りが出すかは手探り状態だ。原子炉廃炉作業を2020年に、「燃料取り出しから始めたい」と政府は言っているが、その工程は全く見通しが立っていない。廃炉も汚染水対策も東電任せは限界に来ており、政府が先頭に立って国内外の専門家の英知を結集して解決に当たる時期に来ている。

 財政再建の方はどうか。日本の今年6月末時点での「国の借金」は1008兆円と初めて1000兆円を超えた。国民1人792万円も借金を抱えている計算になる。対国内総生産(GDP)比200%を上回り先進国中最悪。日本は昨年6月のG20・ロスカボスサミットで「2020年度のプライマリーバランスの目標達成させる約束を再確認する」と国際公約した。しかし、財政の第一人者である井堀利宏・東京大学大学院教授は「消費税は来年の8%への引き上げに続き、2015年10月に10%への引き上げが予定されている。しかし、それでも2020年にプライマリーバランスを黒字にするのは無理。財政再建へのめどは付かず、消費税はもう一段の引き上げが必要だとの議論が出てくるだろう。その場合、2016年以降に議論しているのでは遅過ぎだ」と断言する。子や孫に借金を残さないためにも、消費税引き上げには反対ではない。が、井堀教授の指摘が正しいとすれば、いったい消費税は何%まで引き上げなければ借金は無くならないのか―。気が遠くなりそうだ。

 最後に業界を守るための規制ががんじがらめの医療、農業を見てみよう。安倍首相は成長戦略の重要分野に医療を掲げ、「最新の医療技術を利用しようとすると全額自己負担になる混合診療」を2020年までに解禁する方針を示した。しかし、日本医師会などは「国民が受けられる医療に格差が生じる」と反対姿勢を強める。そのため混合診療の全面解禁までの道のりは遠そうだ。一方農業はどうか。政府は年間4500億円の農水産物の輸出を2020年に1兆円に倍増させると威勢のいい目標を打ち立てた。しかし、現在の輸出品は、農水産物といってもたばこ、真珠、水産加工品などがほとんど。コメとか野菜、くだもの、黒毛和牛など本格輸出したい品目は少ない。農水省はこれまでも農水産物の輸出に力を入れてきたが、ほとんど増加しなかった歴史がある。いったいどうやって政府は輸出を伸ばすのか。数字だけが踊っていると言っては言い過ぎだろうか。もう一つ、農政では、農業従事者の高齢化、耕作放棄地の増加などの深刻化を受け「農地の集約化」に乗り出す方針を打ち出した。都道府県に、農地を集めて意欲的な農家に貸し出す「農地中間管理機構」を設置する。政府は、都道府県に積極的に農地集約に参画してもらうため機構の運営費の一部を都道府県に負担してもらう方針だが、財政難に苦しむ自治体は強く反発しているため、新制度発足までは曲折も予想される。さらには農地の集めたとしても貸出先が見つからない場合、機構は農地の「塩漬け」組織になりかねない。貸出先が見つからなければ、だらだらと国費投入は続く可能性が大きく、将来、国政の〝地雷〟となりかねない要素を含んでいる。

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