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真の「風評」被害対策へ福島大学の取り組み | 福島大学経済経営学類 准教授、うつくしまふくしま未来支援センター 産業復興支援部門長 小山 良太【配信日:2013/11/29 No.0225-0910】

配信日:2013年11月29日

真の「風評」被害対策へ福島大学の取り組み

福島大学経済経営学類 准教授
うつくしまふくしま未来支援センター 産業復興支援部門長
小山 良太


 「風評」被害を防ぐためには、「安心してください」「全然です」ではなく、前提条件として安心の理由と安全の根拠が必要である。それは福島県だけの問題ではなく汚染地域を網羅する検査態勢の構築とそれを国レベルで認証する仕組みにある。


1. 「風評」被害問題の現状
 2011年3月11日の東日本大震災から2年8ヵ月が経過した。福島県は津波・地震に加えて、原子力災害とその延長上にある「風評」問題に晒され続けている。風評被害という言葉を文字通り解釈すると、「本当は安全にも関わらず噂を信じて買わない消費者が被災地の農家に被害を与えている」「実際には安全であるにも関わらず噂を信じた行動を通じて被災地の生産者に対して不利益を与える」という意味になる。果たしてそうだろうか。消費者も含め放射能汚染対策の不備に翻弄される者すべてが本来被害者ではなかったか。
 放射能汚染の問題を「生産者」対「消費者」の問題に矮小化することは間違っている。「風評」被害という言葉では、被害者は生産者であり、加害者は消費者ということになる。食や健康をめぐって様々な見解が示される基準値問題と限定されたサンプル調査に、消費者だけでなく生産者も不安を感じている。突然の原発事故・放射能汚染で例年通りの営農計画を断絶された生産者は完全な被害者であり、その後の対策における不作為により翻弄されている消費者も被害者である。
 現在、課題となっている食品と放射能に関する「風評」被害問題は、一方的に安心してくださいと情報を押し付けることではなく、消費者が安心できる「理由」と安全を担保する「根拠」を提示することでしか解決できない。安全の根拠は、(1)営農環境における放射能汚染実態、(2)農産物への放射性物質の移行メカニズムの解明とそれに合わせた吸収抑制対策(吸わせない営農)の実施状況、(3)リスクに応じた検査態勢の確立と認証制度を基に構築することが必要である。なぜなら、消費者の26.1%が放射性物質検査の実施自体を認知していないという現実がある(消費者庁調査)。放射能汚染対策と検査態勢の体系化が求められている。

2. 福島県農業の損害と福島大学の取り組み
 原発事故以前(2010年)の福島県の農業粗生産額は約2,330億円であり、販売農家は約7万戸であった。原発事故後(2011年)の農業粗生産額は1,851億円と479億円の減少となっている。ただし農業にかかわる損害賠償額が625億円(JA福島中央会、2012年5月時点)にのぼることから、年間では1000億円程度の損失があったと推計される。フローの産出額のみでこの被害規模である。
 さらに、農村内部には、地域の営農を支える様々な資源、組織、人間関係が構築されてきた。このような農村内部の関係性(社会関係資本)により、日本の農業は維持・形成されてきたのである。
 今回の原子力災害の最大の問題は、放射能汚染により農産物が売れないといった経営面に限った事柄ではなく、生産基盤である農地、ひいてはそれを維持する農村という共同体それ自体も大きく毀損したことである。福島県では、地域の担い手や集落での営農方式などが受けた損害からどのように地域農業を再生させるのかが大きな課題となっている。
 このような状況に対応するために福島県唯一の国立大学である福島大学では、うつくしまふくしま未来支援センターを設立(2011年5月)した。同センター産業復興支援部門の取り組みの第1は、「汚染実態の把握」であり、JA新ふくしま(福島市・川俣町が管内)、福島県生協連及び日本生協連との合同プロジェクトとして、産消提携で放射線量分布マップを作成する「土壌スクリーニングプロジェクト」を実施している。全国から延べ130人のボランティア測定員を動員し、福島市内の水田で約40%、果樹園地で約100%の計測を終え、汚染マップを作成した(2013年9月)。
 第2は、「生産段階での対応」であり、いくつかの地点が特定避難勧奨地点に指定された伊達市霊山小国地区において水稲試験栽培を実施した。ここでは稲の汚染メカニズムを解明し、ここで得られた効果的な吸収抑制対策は、実際の政策として採用され、汚染米の減少に寄与している。
 第3は、風評被害対策であり、汚染マップ、試験栽培で得られた科学的なデータと専門家の助言をもとに、真の安全性を確認できる体制をどのように構築すべきか検討している。その一環が、大学生が実態調査に基づき安全性を解説する「復興マルシェ」の取り組みである。

3. 福島大学生主催の復興マルシェの取り組み
 地産地消が福島県で受け入れられていないもとで、農作物を県外に移出することは難しい。福島県内では生産者や住民(消費者)が県産農産物を食べない、福島県の学校給食では県産農産物を使用していないといった状況がある。にもかかわらず、福島県産農産物を首都圏等の被災地以外の学校給食やスーパー等に販売したいと思ったとしても、福島県外の住民(消費者、保護者)の理解を得ることは難しい。まずは情緒的な「安心」や「応援」ではなく、現地で地産地消が出来るような真の「安全性」が確認できるような検査態勢を構築することが必要である。
 そこで、復興マルシェでは、地産地消を行う上での信頼関係の回復の場を提供することを目的とした。
 2011年は、8月の札幌(北大マルシェ)、仙台マルシェへ参加し、自主検査により安全性の確認できたモモの販売を行った。これは、学生と放射能の専門家とがタッグを組み、放射性物質検査の解説付きでの販売実験である。対面販売の手間はかかるが手ごたえを感じた。そこで、10月には福島駅前まちなか広場で、18店の直売所を集めマルシェを開催した。約1800人が参加し、売り上げは2日で150万円を超えた。これを受け、2012年は仮設住宅が隣接する福島市北部地域のJAビル駐車場を借り7月の七夕マルシェ、10月の秋マルシェ(まちなか広場)を開催し、前年同様の成果をあげた。
 2013年は、夏の夜マルシェとして、8月30・31日の2日間マルシェを開催し、約2500人、約170万円を売り上げた。本年の特徴は、生産者(1次産業)7店舗、加工業者(2次産業)5店舗、地元の飲食店(3次産業)5店舗でマルシェを構成し、生産者の農産物を加工業者が加工し、それを地元飲食店が調理し提供するという農・工・消連携の流れをマルシェ内で体現できるように設定した点である。この一連の生産・加工・流通行程のそれぞれで放射能検査態勢、安全性を確認できる体制を目で見てわかるようにプレゼンした。その一つが放射能測定デモンストレーションであり、マルシェの場で販売農産物の測定を実施し、結果を専門家が解説するという取り組みである。
 また、ファーマーズドキュメント、ファーマーズカフェというイベントでは、漁業者、果樹農家、飯館村から避難し、福島市内で農業を再開した「かーちゃんの力」のメンバーなど、除染や吸収抑制対策など安全対策の取り組みや現場の苦労を直接、来場者に聞いてもらう機会を提供した。
 このような取り組みを継続して行うことで、情緒的な安心を押し付ける対策から安全性を見て触れて確認できる場の提供という真の風評被害対策へと変化させてきている。この活動のポイントは、放射能や農業・食料の専門家、被災地の学生、農家、消費者がバラバラに活動するのはなく、安全性をきちんと確認し安心の材料を提供するという目的の下に連携して対応してきたという点である。マルシェという対面で安全性を確認するという参加の場を通して、一歩づつではあるが原子力災害から食と農の再生につなげたいと願っている。

復興マルシェ

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