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被災地における産学・異業種連携による新商品開発の試み | 石巻専修大学経営学部 教授 石原 慎士【配信日:2014/1/31 No.0227-0917】

配信日:2013年12月27日

被災地における産学・異業種連携による新商品開発の試み

石巻専修大学経営学部 教授
石原 慎士


 東日本大震災後、石巻市の食品製造業は生産稼働率が高まらない状態が続き、販路開拓が喫緊の課題となっている。本稿では、石巻市の産学・異業種が相互に連携しながら着手した商品開発の取り組みついて紹介する。


1. 宮城県石巻市における産業復興の状況
 宮城県石巻市の地域産業は、東日本大震災によって壊滅的な被害を受けた。とくに、漁港周辺に集積していた水産加工業者や沿岸部に立地していた食品製造業者は、津波による被害とともに敷地の地盤が大きく沈下したため、盛り土による嵩上げ工事を行ってから生産設備の復旧作業にあたることになった。石巻市における水産加工業を含めた食品製造業の事業所数、従業者数は、それぞれ製造業全体の4割近くを占めている。水産加工業の復旧・復興は、地域の産業構造を維持していくためにも重要な課題となっている。

震災後の石巻漁港周辺(海側)

震災後の石巻漁港周辺(海側)

震災後の石巻漁港周辺(魚町)

震災後の石巻漁港周辺(魚町)

 被災した食品製造業者の多くは、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業補助金(グループ化補助金)を受給し、自社の生産設備の復旧にあたることになった。しかし、生産設備が復旧し、自社商品の製造を再開しても、取引先や販路を失った影響で生産稼働率が高まらない企業が多く見られる。筆者らが石巻市および気仙沼市の経済団体・金融機関(気仙沼商工会議所、石巻商工会議所、気仙沼信用金庫、石巻信用金庫)とともに設立した三陸産業再生ネットワークで実施した調査(2013年3月)によると、石巻市の回答企業(n=124)の9割以上が「生産設備の復旧を終えている」・「一部復旧している」と回答しているにも関わらず、「生産稼働率が低下している」と回答した企業は85%も存在していた。また、「生産稼働率が50%に満たない」と回答した企業は、29.6%占めていることが判明した。売上状況についても、「震災前と比較して減少した」と回答した企業は85.3%も存在し、「販売活動が順調ではない」と回答した企業は60.5%占めていることが判った。

2. 商店街グルメの開発
 近年、アジア諸国において水産加工品の生産が活発化し、大手量販店のプライベートブランドとしてラインナップされる傾向が見られる。海外の産地からアジア諸国に水産物が輸送され、現地で一次的な加工が施されてから日本に輸入されるといったケースも一般化しつつある。今後、国際競争がますます激化することを想定すると、量的な優位性を追求するだけでは価格競争に巻き込まれてしまう危険性も否めない。水産資源が減少し、市場が縮小している状況を考慮すると、質的な優位性を追求しつつ、自社ブランド商品の開発・生産に注力していくべきである。
商品化に向けた会議(試食)

商品化に向けた会議(試食)

 筆者の研究室では、2011年秋から、石巻市の北部に位置する飯野川商店街(旧桃生郡河北町)の関係者らと連携し、商店街グルメの開発に着手することにした。そして、商店街グルメの第一弾として、食堂各店で伝統的に用いられてきた「サバだし」を地域の食文化と位置づけながら、「石巻・飯野川発サバだしラーメン」を開発することになった。商店街グルメを開発することになった背景には、「地元の被災者を元気づける」、「地域外からの誘客をはかる」、「水産都市石巻の産業復興に寄与する」といった想いがあった。ラーメンの開発に際しては、高付加価値を形成するために水産加工会社から排出されるサバのあら(頭部・中骨)からスープをつくり、トッピングには石巻市で水揚げされるサバを使うことを共通のコンセプトとして位置づけた。
 開発作業の結果、「サバだしラーメン」は飯野川商店街の食堂4事業者(5店舗)で提供されることになった。現在、食堂各店では「塩味」、「醤油味」といったスープに「つみれ」、「さつま揚げ」、「竜田揚げ」といったオリジナルのトッピングが載せられたラーメンやつけ麺が提供されている。震災前まで、商店街の食堂は地元客の利用が多かったが、今ではラーメンを食すことが来街の目的となり、地域外のお客様にもご愛顧いただけるようになった。

3. 異業種連携による家庭用商品の開発
 その後、筆者らは地域産業の復興に向けて、地域の異業種が相互に連携しながら地域性を生かした商品を開発していく必要性に鑑み、家庭用商品版となる「サバだしラーメン」の開発を提案した。商品開発に際しては、飯野川商店街の関係者に加え、石巻市で小麦を生産する農業生産者(農事組合法人舟形アグリ)、製麺業を営む企業(有限会社島金商店)、水産加工会社(山徳平塚水産株式会社)に対して事業参画を促し、2012年9月から開発作業に着手することになった。なお、島金商店と山徳平塚水産は、震災後に生産設備を喪失し、グループ化補助金を受給して生産設備を復旧させた企業である。
濃縮スープの開発作業

濃縮スープの開発作業

 濃縮スープの開発に際しては、食堂メニュー版のコンセプトを踏襲し、山徳平塚水産が排出するサバのあらを活用しながら原料を製造した。また、麺の開発に際しては、舟形アグリが生産する「ゆきちから」という小麦品種に、スープの製造後に残るサバの骨を高温焼成したカルシウム(微粒子)を配合した。このような対応は、かつてラーメンの製麺時に卵殻焼成カルシウムを配合していたという知見からヒントを得たものであり、結果的に化学的に生成されるかん水を半分に減らすことができた。家庭用商品版の開発にあたっては、マーケットインの発想に基づく開発プロセスを重視し、試食会や試験販売会を開催しながら消費者の感想や意見を探った。
 約1年間にわたる開発作業の結果、石巻市の食料自給率が極めて高い商品が完成し、2013年9月2日から市内のスーパーマーケットや道の駅などで販売を開始した。価格は、2食入りで400円前後と大手メーカーやプライベートブランドの商品と比較してやや割高であるが、発売してから3ヶ月の間に想定していた4倍の数量を生産し、販売している。最近では、地域性や商品が持つオリジナリティに関心を示す取引先が増えており、関東地方の大手百貨店や食品販売店に加え、首都圏の給食事業者との商談も進んでいる。

サバだしラーメン家庭用商品版

サバだしラーメン家庭用商品版

麺に練り込むサバの中骨

麺に練り込むサバの中骨


震災後の水産加工会社の内部(山徳平塚水産)

震災後の水産加工会社の内部(山徳平塚水産)

復旧後の水産加工会社(山徳平塚水産)

復旧後の水産加工会社(山徳平塚水産)

サバだしラーメンポスター

サバだしラーメンポスター

4. 地域産業の活性化に向けた産学・異業種連携のあり方
 家庭用商品版として開発した麺は、飯野川商店街の食堂でも取り扱うようになり、商品版の発売後に食堂の来客数が増加するといった相乗効果も確認できるようになった。農商工連携のように、地域の異業種が相互に連携するスキームづくりについては、以前からその必要性が指摘されていたが、中には原料の供給・受給に終始している事例も散見された。今後の地域産業の活性化に際しては、地域の事業者が戦略的かつ有機的に連携しつつ、それぞれの経営資源を生かしたビジネスを創造していくべきである。地域の大学や研究機関についても、地域貢献や技術相談といった支援にとどまらず、主体的に事業に参画していく姿勢を持つべきである。まもなく、震災から3年の歳月が経過しようとしている。被災地の大学に勤務する筆者らは、今後も被災企業とともに実践的な活動を継続しながら具体的な成果を追求していきたいと考えている。
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