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岩手県沿岸被災地域における観光産業の復興と大学の役割 | 岩手県立大学総合政策学部 教授 吉野 英岐【配信日:2014/2/28 No.0228-0921】

配信日:2014年2月28日

岩手県沿岸被災地域における観光産業の復興と大学の役割

岩手県立大学総合政策学部 教授
吉野 英岐


 東日本大震災は東北の被災3県の観光産業に大きな打撃を与え、被災後は観光入込客数、観光消費金額とも20%以上減少した。被災から3年近くが経過し、岩手県の沿岸被災地域ではグループ補助金を活用した宿泊施設の再建が進み、震災ガイドツアーも始まっている。こうした状況に対し、岩手県立学は支援と研究の両面で、観光復興に役割を果たしつつある。


1. 震災による観光への影響
 東日本大震災は東北地方の観光産業にとっても大きな打撃となっている。宿泊施設の損壊、交通網の寸断、原発事故による放射性物質の降下によるさまざまな制限措置や風評被害などで、観光目的の来訪者が大幅に減少した。
 観光庁の共通基準による岩手県、宮城県、福島県の被災3県の観光入込客数(宿泊と日帰りの合計)と観光消費金額(同)は、2010年度の54813千人回、5166億9700万円から、2011年度には42368千人回、4028億2900万円と20%以上も減少した。2012年度は50865千人回、5087億5900万円と増加したが、まだまだ震災前の状況まで回復してはいない。特に岩手県では日帰り観光客が減少し、2010年の観光入込客数と観光消費額をそれぞれ100とすると、2011年は90.0と83.6、2012年は73.8と66.9と減少が進んでいる。2013年はNHKの「あまちゃん」効果で観光客が急増したが、長期的にはまだまだ課題も多い。
 被災地では発災から3年近くが経過し、現地を訪れるボランティアの数は一時に比べて減少している。これからは観光産業の復興にむけて、東北地方のさまざまな資源を活かして、訪れる方々にとって東北の魅力の再発見や震災への記憶を紡いでいけるような環境の整備が必要である。本稿では、岩手県沿岸被災地域の観光産業の復興に関わる動向として、宿泊施設の再建など施設面の整備と、震災ガイドツアーなどの新しいプログラムへの取り組み状況を紹介しつつ、被災県の公立大学である岩手県立学が取り組む支援や研究の一端を示しながら、観光復興に果たす大学の役割を述べる。

2. 宿泊施設の再建・再開
 沿岸地域の宿泊施設の多くは津波により被災し、営業休止状態に追い込まれた。津波の被害を受けなかった高台の宿泊施設は被災者の受け入れや、敷地を仮設住宅の建設用地として提供するなど、避難者への対応に追われた。震災から半年後あたりから、国のグループ補助金を用いて、ビジネスホテルや観光ホテルの営業再開が図られるようになった。
 グループ補助金とは中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業による補助金で、東日本大震災後の2011年6月から国の補正予算を用いて新たに作られた復興支援政策である。対象は地域の基幹産業、経済規模の大きい企業群、サプライチェーン、地域の商店街を形成する中小企業で、企業等がグループを設立して復興事業計画を作成し、その計画が県から認定を受けた場合に、施設・設備の復旧・整備に対して国が1/2、県が1/4を補助するものである。2011年の1次募集(6月募集・8月採択)ら2013年の9次募集(9月募集・11月採択)まで、北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県の562グループに、4,231億円(うち国費約2,820億円)を交付決定している。現在は第10次公募(2013年12月募集)の審査が進められている。
 岩手県の沿岸地域の宿泊施設はこのグループ補助金および民間のファンドも含む各種の支援策を活用して、再建を果たした例が多い。2012年1月には旅館宝来館(釜石市)、同年11月には陸中海岸グランドホテル(同)、ホテル羅賀荘(田野畑村)が営業を再開した。13年8月に波板観光ホテル(大槌町)が三陸花ホテルはまぎくという名称で営業を再開した。同年11月にはキャピタルホテル1000(陸前高田市)が、高台に移転新築し営業を再開した。宿泊施設の再開は地域にとって大きな希望であり、今後は食材提供、リネンサプライなど宿泊関連産業の復興や地元の雇用の増進が進んでいくことが見込まれる。

営業を再開した旅館宝来館

営業を再開した旅館宝来館

営業を再開したホテル羅賀荘

営業を再開したホテル羅賀荘

3. 震災ガイドツアーの取り組み
 施設整備が国に企業ファンドの大規模な財政支援策によって早期から継続的に進められてきた一方で、震災ガイドなどのプログラムは地域から内発的に企画され、実施され始めた例が多い。岩手県沿岸地域では震災から1年が過ぎたことから、沿岸各地では震災語り部や震災ガイドをおいて、乗用車1台程度の小規模なツアーから大型観光バスでの来訪者まで、さまざまな規模の来訪者に対応してきた。被災地での手作りのプログラムであることから、案内の内容や料金体系は多様な形態がみられるのが特徴である。
 釜石市では世界遺産候補に登録された橋野高炉跡などを案内するボランティアによる観光ガイド会が震災以前からあった。震災により活動を一時休止していたが、会の活動を再開し、新たに被災地をめぐるコースを用意し会員による解説を始めるようになった。
 田野畑村のNPO法人「体験村・たのはたネットワーク」(2008年発足)は、震災前からサッパ船を利用した海上ツアーを実施してきたが、震災後は被災した住民がツアー参加者に体験を語りながら、地域を回る大津波語り部&ガイドツアーを導入した。「岩手日報」(2014年1月22日付)によれば、震災後大きく落ち込んだ受入観光客数は、2013年は年間で約1万2千人に達した。この数字は震災前の2010年度の2倍にあたるものである。
 宮古市では宮古観光協会がガイドツアーである「学ぶ防災」のプログラムに取り組み、多くの参加者を集めている。このツアーは総延長が2.433mで万里の長城とも称されながらも津波で破損した田老地区の巨大堤防や、津波に直撃され2階まで鉄骨がむき出しになった「たろう観光ホテル」をガイドが案内し、津波の映像を交えながら震災の恐ろしさと教訓を伝えている。2012年4月から14年12月までの参加者は約5万人に達し、同ホテルは国費を投入する震災遺構保存の第一号として保存活用されることが決まった。
 山田町では被災した地元の商店主らが震災後に新生やまだ商店街協同組合を結成し、グループ補助金を申請する組織づくりをすすめる一方で、商店主による震災ガイドや語り部タクシーによるツアーに取り組んでいる。また飲食店で食事をとる観光客に店主が自らの被災体験を語る語り部飲食店も用意されている。このほか岩泉町、大船渡市、陸前高田市などでもさまざまな形で震災ガイドツアーが行われている。

釜石観光ボランティアガイドと説明ボード

釜石観光ボランティアガイドと説明ボード

体験村たのはたネットワークの大津波語り部&ガイドツアー

体験村たのはたネットワークの大津波語り部&ガイドツアー


宮古観光協会の学ぶ防災ツアー

宮古観光協会の学ぶ防災ツアー

新生やまだ商店街協同組合の語り部飲食店

新生やまだ商店街協同組合の語り部飲食店

4. 大学の支援・研究体制と役割
 4学部2短期大学部からなる岩手県立大学では、教職員と学生が震災直後から緊急支援に取り組んできた。2011年4月には災害復興支援センターを設置し、大学として復興支援体制を確立するとともに、同4月に設立された地域政策研究センター内に震災復興研究部門を設置し、支援と研究の両面から地域貢献を進める体制を構築した。震災復興研究部門では2011~12年度に15課題、さらに地域協働研究部門の震災関連研究として、12年度に20課題、13年度に19課題に取り組んでいる。本稿の元になっている観光復興に関する研究課題も震災復興研究部門の一環として取り組んだものである。
 現在では宿泊施設の復旧が進み、震災ガイドツアーへの関心が高まるにつれて、被災地での観光戦略を本格的に練りあげていく段階にきている。そこで2013年11月に岩手県立大学は宮古市および宮古観光協会と宮古市観光産学公連携基本協定を締結し、大学生のモニターツアーなどを実施した。今後は本学の強みである情報通信技術や地域調査手法を活用した研究プログラム、公開講座の開催、宮古市と釜石市に設置した岩手県立大学復興サポートオフィスの活用、さらには各種学会の大会開催の誘致など、教職員の専門知識と将来の地域を担う学生の新しい発想を地域に提供することで、産学公が連携した観光復興を一層進めてく予定である。
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