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連載 (全4回) 「ASEANの経済統合と日系企業の動向」 第2回:日系企業の進出状況と製造業におけるサプライチェーン・企業立地の変化 | 株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長 平賀 富一【配信日:2014/5/30 No.0231-0931】

配信日:2014年5月30日

連載 (全4回) 「ASEANの経済統合と日系企業の動向」
第2回:日系企業の進出状況と製造業におけるサプライチェーン・企業立地の変化

株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長
平賀 富一


 日本企業のアセアンへの進出状況については、原加盟国5ヶ国とベトナムが多く、特に原加盟国では進出の歴史が長い会社が多い。一方、韓国はベトナム・カンボジア、中国はミャンマー・カンボジア重視という特徴がある。次いで、製造企業における特徴的なトレンドについて、自動車産業を例にとって、サプライチェーンの構築や生産拠点の配置・再配置の動向を紹介した。


1. 日本企業のアセアンへの進出動向(韓国・中国との比較の視点も踏まえて)
 日本企業のアセアンへの進出状況(表1)を見ると、2014年のデータによれば、合計が6,135社と中国における日系企業数の6,276社とほぼ拮抗している。次いでその域内の国別の企業数を見ると、タイ1,956、シンガポール1,149、インドネシア944、マレーシア841、ベトナム679、フィリピン479、カンボジア・ラオス・ミャンマー(CLM)の3国計87と、アセアンの原加盟国5か国とベトナムが多い。次にこれを2004年以前の進出と2005年以降で対比すると、2004年以前の比率がマレーシアの79.8%からインドネシアの64.3%と原加盟国において長い創業の歴史を有する会社が多い。一方、後発加盟国においてはベトナムの33.1%のように比較的近年になって操業を開始した企業の比率が高い。未だ数は少ないもののカンボジア・ラオス・ミャンマーへの進出国も増加しつつある(2012年末時点の我が国の対外直接投資の残高で、アセアンは1,222.7億ドルと中国の932億ドルを上回っている)。我が国企業のアセアンにおける投資は、既進出の企業による追加投資や域内他国への投資、新規の企業による投資が増加しており、対象国としては、投資先として再び評価が高まっているインドネシア・フィリピンや域内のフロンティアであるCLM諸国が注目されている。また、部品企業やサービス企業も含めた中堅・中小企業の進出も増えている。2000年と2014年のデータで企業数にほとんど変化がないシンガポール、マレーシアでは、企業の入れ替わりの他、生産拠点から地域統括拠点等への進出目的の変化や拠点機能の高度化・高付加価値化が進んでいるものと推量される。

日本企業のアセアンへの進出状況  この点に関し、韓国、中国のアセアンへの投資動向を見ると、韓国は、2010年以降アセアン向けの投資が中国向けの投資を上回っており、日本企業のプレゼンスが相対的に低いベトナム、カンボジアに多くの企業が進出する傾向にある(進出企業数は2013年末時点で約2,800社の由)。特にベトナムでは、前号で述べた同国の輸出金額の1割以上を1社で担うサムスン電子の大規模な携帯電話の生産拠点の設立に加え、LGエレクトロニクス、ポスコ、斗山重工業など有力メーカーの生産拠点の新設、ロッテグループ(デパート、スーパー、外食、ホテル等)、不動産開発など多様な産業分野の企業進出が目立っている。さらに縫製品など労働集約型の軽工業も早くから数多く同国に進出している。中国は、大手企業の地域統括拠点の設置などで投資金額が大きいシンガポールに次いで、資源・エネルギーの確保、インフラ建設などを目的としてミャンマーやカンボジアに多額の投資を行っている。さらに我が国と同様、両国ともに、資源・エネルギー面での魅力に加えて、人口が多く富裕層・中間層の増加による消費市場の拡大が見込まれるインドネシアへの企業進出を積極化している(この点の詳細については次号で紹介予定である)。

2. アセアンにおける製造企業のサプライチェーン・企業立地のトレンド
 近年のアセアンにおける製造企業の動向における特徴的なトレンドについて、産業の裾野の広さから現地の経済発展に大きく寄与し、また日系企業が約8割のシェアを有し主導的ポジションにある自動車産業を例にとって、サプライチェーンの構築や生産拠点の配置・再配置のポイントについて以下に考察する。

 表2のとおり、タイは246万台とアセアン地域で最多の生産台数を誇り「アジアのデトロイト」と言われている。同国においては、日系企業のみならず欧米系企業、その他のアジアやタイの地場企業も含めて部品、素材メーカー等から最終組み立てに至る数多くの企業が集積し、そのことが更なる集積を呼んでいるといえる。この点に関し、タイ国投資委員会(BOI)の資料によれば、タイの自動車産業は、3つの階層構造にあり、(1)組立業者(外国企業・合弁企業の自動車14社、二輪7社、労働者10万人)、(2)ティア1サプライアー(外資合弁とタイ資本の部品大手企業635社、25万人)、(3)ティア2・3等(現地中小企業1,700社、17万5千人)となっている。また自動車関連産業の発展は、輸送業、金融・保険業やその他サービス業といった数多くの企業の成長や雇用の増大化の促進要因となっている。またタイにおける生産拠点は、同国およびアセアンが有するFTA網も活用して国外への輸出拠点としての役割の重要性も増している。このような環境下で、日本の主要自動車関連メーカー各社による設備の増強に加えて、中国の上海汽車・東風汽車、米国のフォード・GM、ボッシュ(独)などが工場を設置している。直近では、大洪水のリスク回避の観点から、新たな新規投資の立地が従来のバンコク周辺地域から東部地域にシフトする傾向も見られる。さらにカンボジア・ラオス・ミャンマーといったタイの周辺国には、タイに拠点を置く企業が、同国における労働コストの上昇や労働者の確保難といった課題への対処を主目的に、労働集約的な業務を分散化する「タイプラスワン」という戦略的な取組みも見られている(ミネベア、矢崎総業、日本電産、住友電装、トヨタ紡織など)。今後、周辺諸国の製品輸送を円滑にする、東西、南北、南部の各経済回廊の道路・橋・港湾などの物流インフラの整備が上記の立地分散化の動きを促進するものと思われる。このように、タイへの集積というキーワードで捉えられる企業立地の動きが見られる一方で、同国内の別の地域や周辺諸国への拠点の地理的な分散という側面も見られることが特徴的である。

 さらに、人口が多く消費市場としての魅力が増しているインドネシアにも、日系企業のみならずGM(米)、吉利汽車(中国)、フォルクスワーゲン(独)など自動車メーカー各社の投資が増加しており、同国はアセアンでタイに次ぐ生産台数となっている。このように、アセアンの自動車市場においてはタイとインドネシアが二大生産拠点となり、域内の他国は、両国の拠点への部品等の供給元になるという国際分業化が進んでいる。

 以上、自動車産業を例にとってサプライチェーンや企業立地のトレンドを見た。企業においては、従来のように各国の拠点がそれぞれ独立性の強い点としての存在から、アセアンやアジア地域を面として捉え、統合された戦略の下に、各国の拠点や取引先を有機的に活用し、相互の情報や知識・経験・ノウハウを利用しての効率化や標準化、リスクの分散化などを行うダイナミックな分業・連携体制が整備されつつあり、この流れは、2015年のアジア経済共同体(AEC)のスタートや、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定などによる制度的統合の進展によってより高度で洗練された構造に進化するものと考えられる。それをより実のあるものとするためには、単に、コスト削減や標準化による経済合理性や効率性追求の面を重視するだけでなく、各国の消費者の多様なニーズ・嗜好等を捉えたデザイン・機能・特性をもった製品をタイムリーに投入できる(現地適応化)体制の整備が同時に重要なものになろう。
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