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東北における自動車関連産業の将来展望 | 東北学院大学 経営学部 教授 折橋 伸哉【配信日:2014/6/30 No.0232-0933】

配信日:2014年6月30日

東北における自動車関連産業の将来展望

東北学院大学 経営学部 教授
折橋 伸哉


 東北の自動車関連産業が東北経済復興の起爆剤となってくれるのではないかという期待が、東日本大震災後一層高まっているが、決して一筋縄ではいかない。本稿では、東北の自動車関連産業集積の実態を概観し、東北の持つ可能性と立ち塞がっている諸障害を踏まえたうえで、東北の自動車関連産業発展への方策および課題を述べる。


 「トヨタ自動車の日本国内第三の拠点化」という千載一遇のチャンスを、東北経済の復興につなげられる否かは、自動車の構成部品や使用する生産設備の生産をどれだけ東北地方内で担うことができるかにかかっている。完成品の最終組立を行うことによって一定の雇用が生まれても、より多くの付加価値を東北地方内で生み出せないと経済効果は限定的なものに留まるからである。

■集積の実態
 東北地方の自動車部品産業の集積は極めて乏しいのが実態である。
 自動車組立工場は元来無かったが、1960年代以降に一次部品メーカー(以下、一次)が、数は多くはないが各県に立地していた。これらは、関東に本拠を置く日産や本田の系列または独立系で、トヨタ系の進出は無かった。その後、関東自工岩手工場が1993年に稼働を開始したが、同工場向けの生産だけではほとんどの場合採算がとれないため、トヨタ系の進出は当初多くはなかった。その後、岩手工場のライン増設、セントラル自動車の移転によって、域内の自動車組立能力は年産約50万台に達した。しかし、かつて各社が九州に進出した際とは違って、自動車産業では「地産地消」への動きがグローバル規模で加速し、かつ日本国内市場が縮小傾向であるため、今後日本国内での自動車生産の拡大は見込み難い。従って、一次の中部地方などの既存工場に供給余力が豊富にあり、進出ペースは九州進出時よりも自ずと鈍くなっている。運賃や在庫負担は掛かるものの、国内なので関税や非関税障壁はないので、既存工場で生産した上で運んだ方がよいからである。
 加えて、二次以下の層も薄い。東北への進出は従来ほとんどなかった上、自動車産業の要求水準(QCD共に)を満たす部品を安定的に納入できるだけの実力を持った地場も少ない。先述した古参の一次に育てられた地場の集積が少しはあるが、ほとんどが依然国内外の他社との取引のみで、「第三の拠点化」とは結びついていない。
 したがって、全般的に緩衝在庫の積み増しは必要不可欠で、東北の生産拠点の比較劣位の一因となっている。
 但し、竹下・川端(2013)が指摘している通り、一旦域外に出荷された後、集成部品などに組み込まれてトヨタ東日本の各工場に戻ってきているケースが少なからずある。村山(2013)も指摘している通り、優れた加工技術を持った小規模地場が少数だが存在しており、二次あるいは三次として自動車産業に食い込んでいる。また、例外的な存在ではあるが、ホンダ系一次のケーヒン傘下で力をつけてきた岩機ダイカスト工業(宮城県山元町)は、その自動車産業での経験を活かしてトヨタ東北(現・トヨタ東日本)との取引を3年越しで獲得したのを皮切りに、ダイカスト技術の活用で機械加工レスにすることで既存部品の大幅なコスト削減を実現し、トヨタ本体からも受注を獲得するまでになった。医療分野や電気電子分野からも受注し、業容の拡大を続けている。

■東北の可能性と立ち塞がる壁
 東北にサプライヤーが新たに育つ素地は皆無では決してない。岩手の南部鉄器など伝統的な鋳物産業があるし、優れた生産技術を持った地場企業もある。加えて、電子工学など工学系では世界レベルに達している東北大学のほか、岩手大学や山形大学などもそれぞれ強い分野を持っている。さらに、1960年代以降の半導体・電機産業の進出に伴って徐々に育ってきた地場の電子部品メーカーもある。もっとも、進出企業の多くは研究開発部門など中核機能を関東や近畿などに残したまま、量産工場のみを東北に設けた、いわば「頭抜き」の進出だったため、傘下の地場にも肝心の開発・エンジニアリング能力が育っていないなどの弊害をもたらしている。
 しかし、その自動車産業への展開は、なかなか思うようには進んでいない。空洞化が徐々に進み、多くの電子部品メーカーが苦境に陥っているのにもかかわらず、である。なぜ活かされないのかというと、従来彼らが属してきた産業と自動車産業とでは要求される条件が全く違うからである。第一に、自動車産業では概ね数年のモデルチェンジサイクルの間での投資回収を考えるのだが、サイクルがより短い半導体産業や電機産業に身を置いてきた彼らは、依然として短期間での投資回収を志向する傾向が強い。第二に、半導体産業や電機産業では一定の不良率は所与である一方、自動車産業では不良品は人命に直結するため、「完全品質」が要求される。第三に、自動車部品生産にはより大型の生産設備・建屋を要することが多く、既存の設備・建屋を流用できないことがしばしばである。こういった産業特性の違いから自動車産業への挑戦に二の足を踏んできたのである。
 なお、自動車メーカー各社は近年、「メガ・プラットフォーム戦略」を進めており、部品の共通化をさらに進めている。(目代・岩城、2013)同時に進んでいる自動車の電子化は、電子部品メーカーにとってチャンスとなりうる反面、部品の共通化の進行は発注ロットの大型化および受注チャンスの減少を意味し、グローバル調達も進んできていることもあって、競争環境は一層厳しさを増しており、これも大きな障害になってきている。

■発展への方策と課題
 ここでは、東北で生み出される自動車生産に係る付加価値を増すための取り組みと、それを担う人材の育成とに分けて記す。まず、前者について述べたい。
 第一に、一次を積極的に誘致する。というのは、自動車メーカーと直接取引できるようになるためには、自動車の集成部品について、生産技術だけでなく製品技術についても高度な開発・提案能力が必要であるため、東北の地場が一次に食い込むのは当面はかなり難しいためである。
 第二に、二次、三次、さらにそれ以下をも含めたサポーティングインダストリーの構築を図っていく。一次に出てきてもらうためにもこれは欠かせない。まずは、貸与図メーカーとしてQCDが安定した製品を生産し、能力構築・信頼関係樹立を目指す。そして、徐々に製品技術の開発能力も構築していき、更に上を目指していくといった方向性になる。もっとも、その道のりは自ずと長く険しいものになろう。それを許容するだけの時間的および経営体力面の余裕が地場にあるのかには、かなり疑問符が付く。現に安定収益をあげている事業を抱えていて、自動車部品生産に継続的に先行投資できるだけの余力があることが、新規参入の条件になるのかもしれない。
 なお、以上は、自動車産業未経験の地場企業が参入する場合を考えたものだが、短・中期的に現実的な方策は、先述の非トヨタ系の既進出一次およびその協力地場、そして自動車向け小部品の生産を既に担っている地場に奮起してもらい、トヨタ東日本やトヨタ系一次の進出工場との取引成立を、ということかもしれない。また、トヨタ東日本の戦略的意思決定次第ではあるが、同社の内製率の上昇も経済波及効果という点でプラスに働くだろう。
 人材育成でも多くの課題がある。私は、階層別に以下の4点に整理しており、簡潔に紹介しておく。
 第一に、現場作業員の質・量両面の確保をどう進めるか。少子高齢化に、首都圏などへの流出が重なり、供給余力は決して大きくない。加えて、若者の製造業離れといった就業意識の問題もある。となると、知名度に乏しい二次以下では、良質な人材の確保が思うに任せず、成長の足かせとなりうる。
 第二に、現場中核人材の不足。設立後まだ年数の経っていない生産拠点においては致し方ない面はあるが、円滑な現場運営には優秀な現場作業長の存在は欠かせず、その育成は焦眉の急である。
 第三に、相次ぐ東北地方への工場進出に応えられるだけの、エンジニアの育成体制が整っていない。
 第四に、地場企業経営者の意識改革の必要性も決して見逃せない。自動車産業の産業特性をよく理解し、参入のメリットに強い魅力を感じる経営者の開拓が、担い手企業の裾野を広げていく上では欠かせない。

参考文献
折橋伸哉・目代武史・村山貴俊『東北地方と自動車産業―トヨタ第三の拠点をめぐって―』創成社、2013年所収の各章。
竹下裕美・川端望「東北地方における自動車部品調達の構造―現地調達の進展・制約条件・展望―」、『赤門マネジメント・レビュー』、12巻10号、2013年、669ページから697ページ。
目代武史・岩城富士大「新たな車両開発アプローチの模索―VW MQB、日産CMF、マツダCA、トヨタTNGA―」、『赤門マネジメント・レビュー』、12巻9号、2013年、613ページから652ページ。
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