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東日本大震災から3年が経過した東北沿岸部の復興を担う水産加工業の現状と、復興・再生に向けた取組み | 宮城大学 地域連携センター、JST復興促進センター仙台事務所PO、東経連ビジネスセンター事業化コーディネータ・リーダー 教授 鈴木 康夫【配信日:2014/09/30 No.0235-0943】

配信日:2014年9月30日

東日本大震災から3年が経過した東北沿岸部の復興を担う水産加工業の現状と、
復興・再生に向けた取組み

宮城大学 地域連携センター 教授
JST復興促進センター仙台事務所PO
東経連ビジネスセンター事業化コーディネータ・リーダー
鈴木 康夫


 震災から最早3年が経過した今でも、特に被災の象徴である水産加工業に従事していた人々は、復旧に懸命の努力を注いでいる。しかしながら「旧」に復するだけなら、右肩下がりの時代を再び甘受しなければならないことは明白である。被災した東北沿岸部が未来型産業のモデル地域として生まれ変わるためには、復しつゝ「新」を興すことが不可欠である。復しつゝ「新」を興すことはまさしく「挑戦」である。


1. 被災地の今
 震災3年目の時期に、水産庁・全国水産加工業協同組合連合会が岩手・宮城・福島の3県の水産加工業における震災からの復興状況について調べた(H26.2.28~3.12)。【図1】8割以上生産能力が回復(施設等の復旧)した事業者は3県で41%に至ったが、8割以上売上げが回復した事業者はこれを下回って28%。特に小規模な加工業者ほど売上げの回復が遅れている【図2】。
 復興の問題点として挙げられているのが、人材不足、販路確保と風評被害が3割を占め、失ってから3年経過した販路を回復するのは困難で厳しい状況に直面している事業者も少なくない【図3】。
 政府のグループ補助金、7/8補助、無償の事業用仮設施設提供等により、加工施設等は概ね8割方復旧したものゝ、嘗てのような従業員の確保が儘ならない状況にあり、建築制限規制によって今でも再建し得ない施設・事業所が見受けられる一方では、運良く国の復興支援事業を受けてハード施設・設備が整備されても従来の取り引きが再現できず、低稼働率を強いられているのが実態だ。もうひとつ、今から大きく立ちはだかって来る課題が固定費の増大であろう。人件費、減価償却、金利、水道光熱費..。大型化された工場でこれらの経費を吸収し、利益計上ができるであろうか。生産ペースを維持させたいがために、高騰する浜値の中での仕事買い…。スーパーなどの安値で販売していては、震災前の悪しき慣習に逆戻りになってしまうのが懸念される。

2. 今求めている&求められていることは
 一方、数少ない事例ではあるが販路確保に成功した事業者もある。被災後3年で事業規模が被災前を超えた事業者もいる。新商品での新販路の開拓や通販・小売店事業拡大等への業態シフト、生産性の大幅向上等に積極果敢に取組んでいる事業者である。
 東北沿岸部には優れた水産資源がある。しかも水産加工業には積極的な若い経営者も少なくない。当に今、自社にしか作れない付加価値商材、プロセスの開発、売り方革新が鍵になっているのである。
 現在、あちらこちらに避難している被災者を含めて、再び生活の意欲を掻き立てる地域に再生するには産業力の再構築が第一のポイントになる。では東北沿岸地域に活力を生み出す産業とは何か。水産資源に恵まれたこの地域の活力は、水産加工業が担うのが相応しいのである。
 東北沿岸部が未来型産業のモデル地域として生まれ変わるには…「新」を興す…、イノベーションに挑戦することしかない。イノベーションこそが未来創造なのである。
 現在の延長としての未来ではない東北沿岸部産業の挑戦的なビジョン…、被災地は今まさに全国の知恵を結集して、新たな、勝てる水産加工業の創造が求められている。

3. 復興・再生に向けた取り組み
 現在、新たな水産加工業の創造に係る政府系のプロジェクト、全国の知恵(研究者)を活用して水産加工に「新」を興す研究開発事業や取組みが様々な場面で為されており、既に研究終盤戦を迎えている事例もある。
  因みに筆者が関る(独)科学技術振興機構でも、大学などで取り組んでいる革新的な技術を活用した「復興促進プログラム」を展開し、水産加工業に特化した「水産加工サプライチェーン復興に向けた革新的基盤技術の創出」や産学マッチング促進事業において、東北沿岸部の復興を担う水産加工業の未来に向けた精力的な研究開発が現在進められているところである【表1】 (196KB)

4. 今こそ求められる「いざ東北」コーディネータ(Standup guy coordinator)の力と役割
 とは云うものの、 [図3]に被災した水産加工業界の課題が示されているように、業界にはヒト・モノ・カネ・時間の余裕が皆無に等しい。まして自社にしか作れない付加価値商材やプロセス開発・売り方革新に取り組む、挑戦する余力があまりに乏しいのである。どんなに全国に知恵があっても、研究者が如何に精力的に技術開発を進めても、被災した水産加工業界にはそれを検証・具体化すべき余力が無い。「研究との乖離」が著しく、また研究の進捗状況を注視できる「目利き人材」の不足が壁となって立ち塞がっているのである。 
 参考にすべきは、昭和40年~60年の僅か20年の間に新潟市内食品加工業の出荷額は他産業に比べて圧倒的に増加し、その雇用が2.0倍(全産業平均は1.1倍)にも拡大した実例がある(新潟市都市政策研究所報告,2009)。明らかに「イノベーション(需要side、供給sideのダブルイノベーション)」×「県立試験研究機関」の力(報告書では「オープン経営」と称している。)がそれを生み出した賜物である。研究者と,これを実際にビジネスに結びつける企業の間を結びつけるという難しい役割が功を奏したのであろう。
 一昨年10月、地元経済団体である(社)東北経済連合会(東経連ビジネスセンターでは販売・セールス支援や産学連携支援など80名のスペシャリスト軍団(コーディネータ)を抱える)が、(独)科学技術振興機構が実施する「復興促進プログラム」の事業化にあたり、両者の持つネットワーク、ノウハウなどの活用を通じて、東日本大震災からの創造的な産業復興に貢献するための協力協定を締結した。
 現在進められている多様な研究開発プロジェクトにおける研究者サイドと,これを実用化するサイドの間には、当然、根源的な価値感の相違がある。だが、この異なる世界にブリッジを掛けなければならないのである。コーディネータが不可欠なのである。それも量的効果等への洞察力のみならず、「被災した東北沿岸部が未来型産業のモデル地域として生まれ変わる。この地域に活力を生み出すのは水産加工業が担う。」といった気概とオープン経営意識を持ち合わせたコーディネータが要る。コーディネータ同志が東北沿岸部の水産加工業の未来再生にベクトルを合せ、結束し、「いざ鎌倉」ならず「いざ東北」の心の準備を備えたコーディネータの活躍が大切であり、この度の民間で構成される(社)東北経済連合会による協力協定に期待するところが大きい。
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