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農業法人で東北の農村に活力を ~東日本大震災から3年半、(有)伊豆沼農産の取組み~ | ジェトロ東北地域統括センター長 兼 仙台貿易情報センター所長 寺田 佳宏【配信日:2014/10/31 No.0236-0947】

配信日:2014年10月31日

農業法人で東北の農村に活力を
~東日本大震災から3年半、(有)伊豆沼農産の取組み~

ジェトロ東北地域統括センター長 兼 仙台貿易情報センター所長
寺田 佳宏


 仙台の北約60km、水鳥の生息地として国の天然記念物に指定されている伊豆沼の近くに位置する有限会社 伊豆沼農産の伊藤社長に震災から復興、東北の農業の将来像等についてお話を伺いました。
<伊豆沼農産の主要事業>農業(養豚、ブルーベリー、米)、ハム・ソーセージ・豚肉の加工販売、レストラン、直売所経営など
http://www.izunuma.co.jp/


1. 大震災の影響
 伊豆沼農産は観測史上最大といわれた震度7を記録した栗原市から直線距離わずか5km。田が割れ、建物は損壊し、直営レストランの食器などは壊滅した。電力も水道も供給が止まり、豚肉やハム・ソーセージなど高額な在庫商品のダメージが危惧される中、特に傷みの早い生肉については伊藤社長自らハンドルを握って沿岸被災地で無料配布した。冷蔵庫用に自家発電機を調達することはできたが、燃料の調達には困難が続いた。年間1,000頭を出荷する養豚用飼料はこれまで石巻から調達していた。しかし沿岸の飼料工場は津波で供給が止まり、茨城県や愛知県、兵庫県や九州にまで供給先を求めなくてはならなかった。また、同社が利用していたと畜場が3週間に亙って業務が再開されなかった上、物流の乱れ等によって出荷できない状態が続いた。
 それでも沿岸被災地の被害の深刻さとは比べられないと語る伊藤社長は、被災直後から全国の農業法人仲間の協力を得て石巻はじめ気仙沼から山元町など特に深刻な被害にあった自治体に50トン近い米を無料で配って廻ったと言う。

被災直後のレストラン内

被災直後のレストラン内

支援物資の積み込み(右が伊藤社長)

支援物資の積み込み(右が伊藤社長)

2. 被災からの復興
 経営の中心である養豚舎やハム工場の機械類などに大きなダメージは無く、何より従業員は全員無事だった。ハム工場の重要な機械には損害が無く、短期間で再開できる目処を立てることができた。同社製品の直売所店内は酷い状態になったが、建物はひび割れが入った程度の被害に留まり、1週間後には近隣住民の生活支援の意味からも細々とした業務を再開し、自社製品の他に平時なら扱わない食品や生活用品の販売を始めた。1ヵ月後には正式に営業を再開することができた。
 同社の大きな資産である豚につき、一時は放射能汚染が疑われたが検査の結果問題がないことが確認された。飼料の調達には苦労が続いたが、一頭の豚も犠牲にすることなく被災後の困難を乗り越えることができた。
 稲田については被災した時期が3月始めで、まだ水を張っていなかったことが幸いした。ひび割れた畦などを修復し、例年と同じ5月下旬には作付けを行い、放射能検査を経て無事出荷することができた。また、ブルーベリーの畑は無傷で済んだ。
 震災後3ヶ月を経て物流等も復旧が進み、豚肉やハムなどの商品出荷を本格的に再開することができた。2011年は全国から支援もかねた注文が相次ぎ、出荷できない期間が3ヶ月間続いたにもかかわらず、前年並みの売上額を維持することができた。

3. 農業経営の難しさと農業法人の利点
 伊豆沼農産は法人として5ヘクタールの水田、30アールのブルーベリー畑を持つ他、年間1,000頭の豚を出荷している。ハム・ソーセージと豚肉の売り上げが同社収入の大部分を占める一方、稲作の売り上げはその180分の1に過ぎず、遥かに面積の小さいブルーベリーにも及ばない。利益で言えばその差は更に大きくなる。

伊豆沼ハムのギフトセット

伊豆沼ハムのギフトセット

稲田

稲田

 伊藤社長は、国際化への動きが避けられない中で稲作だけの農業経営を行う事は難しく、これからの農業は法人の役割が益々大きくなると語る。法人であることにより、同社は収益率の高いハム・ソーセージ部門を持ち、直営店やレストランでも付加価値の高い商品やサービスを提供することができている。
工場でのソーセージ作り

工場でのソーセージ作り

また、卸売りやネット販売による利益は重要な収益の柱になっている。経営の安定のため、今は香港だけに留まっている輸出をジェトロの支援を活用するなどしてアジア各国に向けて大きく拡大し、将来は売り上げ額の10%程度に持ってゆきたいと考えている。
 都会でのサラリーマン生活を捨てて農村に移り住んで営農を始めても、大多数の人が厳しい農業経営の現実に直面して再び都会に戻ってゆくというが、伊豆沼農産は法人化したことにより、以下の様な様々なメリットを得られているという。
(1) 社会保険などの福利厚生
(2) 週5日勤務、有給休暇などの労働環境
(3) 法人としての社会的な信用力
(4) 設備投資、機械化(効率化)のための資金調達
(5) 常に進化し続ける最新の農業技術へのキャッチアップ
(6) 優れた人材の雇用

4. これからの農業、農村の繁栄のために
 東北に限らず、農業の担い手の高齢化が進む一方で後継者や新規参入して定着できる人は少なく、10年を経ずに現在中心となっている高齢の営農者が姿を消せば農業そのものの存続が危うくなるのでは、と伊藤社長は危惧する。それだけに前記した農業法人の役割が益々重要になると語る。
 昭和30年代の農村には村ごとに其々独自の文化があり、地産地消があたりまえに行われていた。そんな時代を振り返る「懐かしさを未来に求めるプロジェクト」を、2011年から始めているという。
 村ごとに何がその地で最適な産業のあり方なのかを考え、都市から村に人を呼び込みたい。本当に美味しいものは遠くに運んだら味が落ちてしまうから、新鮮なうちに獲れたその場所ですぐに食べて欲しい。その村の自然、畑を見て、耕作者の話に耳を傾けて食べていただければ、食の価値は2倍3倍となって食が文化になる。都市近郊ではなく、都市から離れた農村にこそ、そうした価値がある筈だと。

直営レストラン「くんぺる」

直営レストラン「くんぺる」

同社製のハム

同社製のハム

 農業の先行きが苦しいからこそ、農業法人が村の中心となって地域を鼓舞して牽引してゆくべきだし、そうできるのではないか、と語る伊藤社長の話には説得力があった。
 農業の担い手が誰であるにせよ、50年、100年の後にも、日本の美しい農村風景が受け継がれてゆくことを願わない人はいないだろう。

国指定天然記念物の伊豆沼

国指定天然記念物の伊豆沼

伊藤社長(直営レストラン前にて)

伊藤社長(直営レストラン前にて)

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