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消費税率引き上げ後の日本経済 | 日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2014/11/28 No.0237-0950】

配信日:2014年11月28日

消費税率引き上げ後の日本経済

日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は2014年4月の消費税増税により一時的な景気後退に陥った。しかし順調な個人所得拡大と設備投資・輸出の持ち直しにより、秋以降回復に転じる。ただし2015年10月の再増税は先送りされる。


 日本経済は、2014年4月の消費税引き上げにより予想通り一時的な景気後退を余儀なくされており、やや回復に手間取っている。また、安倍政権が自らの政策の成功を過大に宣伝しすぎたことが、逆効果になっていると見ることが出来る。しかし、個人所得が順調に増加を続けていること、設備投資・輸出に持ち直しの兆しが出ていることから、早晩回復に転じることは確実である。さらに、日本経済は2009年4月以降の今回の景気回復局面で、2011年3月の東日本大震災と2012年の中国・欧州向け輸出の減退により、既に2回の短い景気後退を経験しており、短期間の景気後退を挟むことにより、景気回復が過熱化することなく長期化することに繋がっている。

 また4月の消費税増税により2014年第2四半期の成長率は前期比年率▲7.1%と大きく落ち込んだ。特に個人消費が年率▲19.0%と激減したことが景気の先行きに懸念をもたらした。しかし、第2四半期の個人消費は、統計の歪みにより過小評価されており、消費税引き上げによる悪影響は否定出来ないものの、個人消費の実態はそれ程悪くは無い。ここで、日本のGDPの個人消費の推計には、「家計調査(Family Income and Expenditure Survey)」などのアンケート調査が用いられている。しかし最近のアンケート結果はサンプルの偏りにより収入も支出も過小となっている。例えば、乗用車購入に対する支出のアンケート結果は実際の乗用車登録台数の統計と、ほぼ同じ動きを続けていたが、消費税増税前後で大きく乖離しており、アンケート調査結果がかなり弱い。乗用車登録台数は全数調査であり統計としての信頼性が高く、GDPの推計に使われているアンケート調査に歪みが生じていると考えることが出来る。同様の歪みは家電関係の消費にも見られる。

 さらに、乗用車登録台数や薄型テレビ出荷台数・百貨店販売額・チェーンストア販売額などの統計を見ると、消費税増税前の駆込み重要の反動により7月頃にかけてそれなりの落ち込みを余儀なくされていたが、8月以降回復に向かいつつある。特に乗用車登録台数に関しては、2013年度に4.84百万台と駆込み需要により2012年度の4.44百万台を上回った後、ここ数カ月は4.5百万台前後の比較的高い水準を維持しており、消費税引き上げの影響は軽微である。薄型テレビ出荷台数など他の統計にも同様の傾向が見られる。

日本の世帯当たり自動車(新車)支出と乗用車登録台数  またサービス関連の消費には消費税増税の悪影響は殆ど生じていない。例えば、大手旅行業者の国内旅行取扱額は消費税増税後も前年比でプラスとなっており、シティホテルの稼働率も80%前後と80年代末のバブル期並みの水準を維持している。

 また個人消費を支える個人所得の伸びも堅調である。高水準の企業収益と労働需給のタイト化に加えて、日本政府の企業に対する働きかけもあり、賃金上昇率は2%を超えた。さらに失業率は、2014年8月に3.5%となり1997年12月以来の低水準となった。労働人口の減少が続く中で、就業者数は1%弱で増加を続けており、今後も失業率が低下を続けることは確実であり、失業率の低下と共に賃金上昇率は3%以上に高まると見込まれる。確かに消費税増税は個人消費にマイナスを及ぼしているが、消費税増税の負担を上回る個人所得の増加により、2015年にかけて個人消費は堅調な動きを続ける。

日本の失業率と賃金指数上昇率  個人消費に加えて、これまで回復が遅れ気味であった設備投資・輸出にも本格的な拡大の兆しが現れている。まず、日本政策投資銀行の大企業の設備投資に対するアンケート調査では、2014年度の設備投資は前年度比で15.1%増と、1989年度の17.5%以来の高い伸びが見込まれている。高水準の企業収益を背景に先送りされていた製造業の維持補修投資が顕在化すると共に、好調な個人消費関連企業の投資が伸びると見込まれている。この様な企業の姿勢は、機械受注にはまだ現れていないが、建設受注は順調に増加している。特に、Electric Commerceの増大と即日配送の拡大による倉庫需要の増加、高齢者の増加による病院・介護施設建築の拡大が目立っている。さらに、遅れている製造業の機械関係の設備投資も次に述べる輸出の持ち直しが明確になれば、増勢に転じる。

 輸出は、2012年半ば以降の円安にも関わらず殆ど増えていない。その要因としては、a)中国を初めとする新興国経済の拡大テンポがスローダウンしていること、b)日本企業が海外生産の拡大を積極的に進めてきたこと、c)移転価格税制の影響により契約価格の変更が難しいことから円安にも関わらず輸出契約価格が下がっていないこと、が指摘出来る。しかし足元の輸出関連の受注は着実に増加しており、秋以降日本の輸出が増加に向かうことはほぼ確実である。この背景としては第1に、依然として新興国の経済情勢は不透明であるものの、人手不足や生産設備高度化ニーズの高まりにより、日本製の工作機械・ロボットなどへの需要が増加してきたことが挙げられる。第2に、日本企業の海外生産拡大も一巡しつつあり、輸出から現地生産への転換も今後スローダウンする。特に、自動車に関しては北米・アジアでの新工場建設が一巡し、輸出の減少に今後歯止めがかかる可能性が高い。第3に、円安の効果もようやく顕在化してくる。その典型が船舶である。船舶は、リーマンショック後の船舶需給の悪化により需要が急減し、円安のメリットを享受することが出来なかった。しかし、燃料コストの高止まりを背景に、燃費改善を目的として船舶の航行スピードを30%前後低下させることが一般化し、船舶需給は正常化した。その結果、更新需要が顕在化してきたことで、燃費の良い船舶を中心として日本の造船メーカーへの受注が増加している。引き続き世界経済の拡大テンポは緩やかなものに留まると予想されるが、以上の様な要因により輸出も増加に転じ、輸出関連の生産増加により製造業の投資も拡大に向かう。

日本の機械受注(外需)  なお2015年10月に予定されている次の消費税増税は延期されることが確実になった。これは日本経済が2014年4月の消費税増税の悪影響から徐々に脱しつつある中で、消費税増税が先送りされたことは日本経済にとっては、好ましいことではない。第1に先送りが1回で終わるとは限らない。過去最高の企業収益と3%台の低失業率で消費税増税を先送りするのでは、余程景気が良くならない限り消費税増税は出来ないことになる。第2に、消費税増税は今後の社会保障支出拡大に備えたものであり、短期的な景気動向を重視して、中長期の財政健全化を放棄することは日本経済にとってマイナスである。第3に、増税の先送りは超低水準に留まっている長期金利の暴騰をもたらす可能性がある。日本の10年国債金利は、日本銀行の年間50兆円の国債購入もあり足下では0.5%前後の超低水準で推移している。ただし、長期金利が超低水準で推移している背景としては、増税により日本の財政赤字が今後順調に減少するとのマーケットの見方も見逃すことが出来ない。従って、安易に増税の先送りを決めれば、長期金利が急騰する恐れがある。1%の長期金利上昇は、債券価格下落を通じて金融機関に5.6兆円の含み損を発生させる。特に中小金融機関に損失は集中すると見込まれており、日本経済への悪影響は様々な経路を通じて発生する。中長期的に健全な経済成長を維持するには、2015年10月に再び消費税増税を実施することが望ましかったが、政治的判断が優先され延期される方向となったことは残念である。
(2014年11月18日)
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