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日本の自動車メーカー、ベトナムの工場閉鎖も =「ASEAN経済共同体」年末発足、関税ゼロで= ―タイ、インドネシアから輸入・販売― 時事総合研究所 客員研究員 山川裕隆【配信日:2015/02/27 No.0240-0960】

配信日:2015年2月27日

日本の自動車メーカー、ベトナムの工場閉鎖も
=「ASEAN経済共同体」年末発足、関税ゼロで=
―タイ、インドネシアから輸入・販売―

時事通信社 時事総合研究所 客員研究員
山川 裕隆


 ASEAN経済共同体が今年末に発足する。関税が域内で撤廃されることから、ベトナムに進出している日本の自動車メーカーの中には、同国の工場を閉鎖し、自動車生産の盛んなタイやインドネシアから輸入する動きも出てきそうだ。関税が域内でゼロになると、両国から輸入する完成車がベトナムで生産する自動車よりも安いからだ。


 東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体が今年末に発足する。ASEANは10カ国で約6億人を擁する巨大市場で、モノやサービス、投資、人の移動が自由化される。特に注目されるのは、域内の関税が撤廃されることだ。自動車の関税については18年に域内でゼロになることから、域内に何カ所も生産拠点は必要ない。自動車の勝ち組、負け組が域内でより鮮明になることは必至で、最も状況が厳しくなりそうなのがベトナムだ。同国で高いコストをかけて自動車を製造しなくても、生産の盛んなタイやインドネシアから完成車を輸入して販売できるためで、今後1~2年の間にベトナムの工場を閉鎖する日本の自動車メーカーが出てきそうだ。

◇新車販売台数、昨年15万台余
 ASEAN域内で自動車生産の盛んな国はタイとインドネシアだ。タイは「アジアのデトロイト」と言われるほど、日本の自動車メーカーが中心となって生産を拡大している。同国の2012年の自動車生産台数は245万台で過去最高を記録し、世界9位と初めてトップ10入りした。同年の新車販売台数は過去最高の143万台だったが、景気低迷などで2013年と昨年は減少した。
 インドネシアはここ数年、自動車生産が急増し、国内販売も増えている。同国では、メキシコと並んで日本の自動車部品メーカーの進出ラッシュが続いている。1人当たりの国内総生産(GDP)が3000ドルを超えると自動車の販売が増加するといわれているが、まさにインドネシアはそうした時代に入った。昨年の同国の新車販売台数は前年に比べ1万台少ない121万台だったが、タイ(88万台)を抜き域内トップの座に躍り出た。
 一方、ベトナムの昨年の新車販売台数は前年より約4万台増加し、15万7810台になったが、タイやインドネシアに比べ大きく水をあけられている。ベトナムの人口は9000万人を超え、国民の所得も増加しているが、新車販売は伸び悩んでいる。同国で最も販売台数の多いトヨタ自動車でも年間約4万台にすぎない。他の日本メーカーは同1万台に達せず、業績は厳しいようだ。

◇商工省と財務省が対立
 なぜ、ベトナムでは新車販売台数がタイやインドネシアに比べ極端に少ないのか。政府などの政策が定まっていないことが大きな要因だ。工業化を進めるために自動車産業を育成するのかと思えば、自動車関連の税収増を目指して関連税をアップしたり、渋滞緩和や事故防止で総量規制に乗り出したりする。特に、自動車産業を振興させたい商工省と自動車関連税を引き上げて税収確保に努めたい財務省が対立していることが、新車販売拡大のブレーキになっている。
 もう一つの要因は、運輸省が自動車の普及に消極的なことだ。ホーチミンとハノイの両都市ではバイクがあふれており、そのすき間を自動車が走行している。道路などインフラが不十分な上、信号機や駐車場が少ない状況下で自動車が急増したら、さらに渋滞がひどくなるからだ。約8年前からほぼ毎年、両市を訪れているが横断するのに苦労する。

◇安い完成車が流入
 ASEAN経済共同体発足で自動車の関税は2018年には撤廃され、ベトナムにはタイやインドネシアから安い完成車が急増しそうだ。18年直前には、安い輸入車を待つ買い控えも予想される。このため、日本の自動車メーカー各社は、ベトナム政府に対して抜本的な対策を取るよう強く求めている。しかし、政府の腰は重く、同国の工業化戦略の重点産業6業種(電気・電子、農業機械、食品加工、造船、環境・省エネ、自動車・部品)で、具体的な行動計画ができていないのは「自動車・部品」だけだ。
 ベトナムで自動車を生産している日本メーカーは異口同音に、「ベトナムの自動車市場は今後拡大するので、同国で生産を続けたい」としながらも、「政府が一刻も早く具体的な自動車計画を示さないと、投資などの判断もできない」と切実に訴えている。また、日本メーカーのある幹部は「自動車の関税が撤廃される18年以降、タイやインドネシアから雪崩を打って自動車がベトナムに入ってくることが予想される。そうした中で、年に数千台の車を作っていてはとてもやっていけない。インフラの整備や税制面などから自動車の需要を喚起してほしい」と要望している。さらに、別の幹部は「ベトナム政府のこれまでの自動車政策ははっきりしない。政府の具体的な自動車計画が遅れれば遅れるほど、ベトナムで生産を続けることが困難になる」と強調している。ベトナムに進出している日本の自動車メーカー各社は同国で生産を続けるべきか、それともやめるべきか岐路に立っている。

◇早急に地下鉄整備を
 最近、注目を集めているミャンマーには月約1万台の日本の中古車が入っている。年間約12万台で、ベトナムの新車販売台数とほとんど変わらない。ベトナム政府は具体的な自動車政策はもちろん、地下鉄や道路など都市インフラ整備を早急に進めるべきだ。グエン・タン・ズン首相ができるだけ早く決断して、迅速に実行することが求められる。18年にはASEANで自動車の関税がゼロとなるわけで、ベトナムにとって残された時間は少ない。いずれにしても、同国での生産をやめ、タイやインドネシアからベトナムに輸入して販売する日本の自動車メーカーが出ることは避けられないのではないか。
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