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景気拡大テンポは加速、円高に転換 日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2015/04/30 No.0242-0969】

配信日:2015年4月30日

景気拡大テンポは加速、円高に転換

日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は、輸出に加えて、個人消費・設備投資にも明るさが見えてきた。その中で、行き過ぎた円安の是正が生じる可能性が高い。


 足下で、2015年度の日本経済に関して楽観論が広がっている。2014年末から輸出が持ち直しに転じ、それにつれて生産も急速に増加している。ようやく円安の効果が輸出増加に結びついて来た。さらに春闘における賃金上昇率は昨年の水準を若干であるが上回り、2%台半ばに達する見込みである。原油価格の低下や円安の一巡により、2015年度の消費者物価上昇率は2014年度の3%前後からゼロ近くに低下することが確実であり、実質賃金は2%以上高まり、個人消費は堅調な拡大を続ける。既に、旅行を中心とするサービス消費は順調な拡大に転じており、家電製品の販売も持ち直してきた。この様な動きは今後、乗用車や衣料・食品などに広がる。

日本の鉱工業生産指数  さらに、これまで伸び悩んできた設備投資にも動きが出て来た。経常利益率が過去最高水準を超え、余剰資金も増え続けている中で、慎重な姿勢を崩してこなかった日本企業も、ようやく先送りして来た更新投資や高付加価値投資を本格化させつつある。特に、オフィスビルなどを中心とする建設受注は足下で急増している。2020年の東京オリンピックを控えて東京のインフラが改善することから、東京に大型オフィスビルを建設する動きが活発化しており、外国人観光客の増加を受けてホテルの建設計画も増えている。この様な状況から、2015年度の成長率は2%前後に達することが確実となり、3%近くに達する可能性もある。

日本企業の売上高利益率  その中で円安方向に進んでいた為替レートの動きにも変化が生じつつある。FRBの米国経済に対する見方が慎重になり、政策金利引き上げの開始が6月前後から秋以降に延期されるとの見方が広がって来たことが円安への動きにまずブレーキをかけた。さらに、2014年前半、赤字基調であった日本の経常収支は、足下で10兆円前後の黒字となっている。エネルギー輸入が減少したこと、海外投資収益の受け取りが急増したこと、外国人観光客の増大で旅行収支が黒字化したことが経常収支黒字の増加に繋がっている。さらに、エネルギー輸入の減少は4月前後まで続くこと、輸出増加が今後本格化することから、経常収支黒字は20兆円前後に達し、過去最高水準に近づく。

日本の経常収支  さらにFRBが政策金利引き上げを開始したとしても、米国の長期金利の上昇は小幅なものに留まる。これは、米国の財政赤字が順調な景気拡大に伴う歳入の増加により着実に減少していること、消費者物価上昇率がエネルギー価格低下により低水準を続けることが確実なことによる。一方で日本の長期金利は0.3~0.4%と低下余地ほぼゼロの水準まで下がっている。通常1%の日米長期金利格差拡大は10円前後の円安に繋がると考えられているが、米国の長期金利が来年にかけて1%以上上昇する可能性は低く、日本の経常収支黒字拡大の円高効果が長期金利格差拡大を上回ると予想される。

 さらに、日本銀行が2%のインフレ目標の達成を先送りせざるを得ない状況が強まっている。2014年10月末、黒田日本銀行総裁は、予想外の追加金融緩和に踏み切ったが、その時の採決は5対4の僅差であり、薄氷の追加金融緩和であった。既に日本銀行審議委員の中にも追加金融緩和の副作用に対する懸念が広がっており、同様の意見は広く民間でも共有されている。120円以上の円安は、輸出企業にメリットをもたらすだけであり、安定した内需拡大には逆効果との意見が増えて来た。さらに輸出企業も、円安による利益の水ぶくれが企業体質の悪化に繋がるとの懸念を示し始めた。120円の円安が続くことを前提にすると、国際競争力強化に対する取り組みが緩みかねない。

 加えて行き過ぎた円安は、様々な副作用を生み出しつつある。例えば、2014年から外国人の日本の不動産への投資が急増しており、リーマンショック前のピークに近づきつつある。東京では不動産取引の40%が外国人によるものとの情報もある。また外国人取引の多くは台湾人である。台湾では、不動産価格の高騰を抑制する政策が強化されつつあり、台北の高級マンションの価格が東京の2倍近くに上昇したことから、日本の不動産市場に対する台湾の高所得者層の関心が高まっている。その結果として、東京都心では不動産価格上昇率が10%を超える地域が出て来た。不動産価格の上昇を直ぐに懸念材料とする必要は無いが、行き過ぎた上昇は行き過ぎた下落をもたらす可能性が高い。さらに、超低水準が続いている長期金利の先行きに対する懸念も無視出来ない。2%のインフレターゲットが実現するのであれば、長期金利は2%以上になることが当然である。長期金利の上昇が緩やかに続き数年かけて2%に達すれば良いのだが、その様に上手く行く保証は無い。

 この様な状況を背景にすると、2%のインフレターゲットは、有耶無耶に先送りされ、追加金融緩和は見送られる可能性が高い。そうなれば、追加金融緩和の可能性を前提としていた為替市場参加者は、円レートに対する見方を一挙に変える。これと似た現象は、今年の1月にスイスで生じている。1ユーロ=1.2スイスフランを死守すると宣言していたスイス中央銀行は、突然1.2スイスフランのターゲットを放棄した。その結果、スイスフランは一挙に1ユーロ=1スイスフランまでフラン高が進んだ。この様に、中央銀行の金融政策・為替政策が激変した時は、去年の日本、今年のスイスと、20%前後の為替変動が短期間で生じることが珍しくない。従って今年の秋頃に、日銀が追加金融緩和を見送るとの見方が広がった瞬間に、円高への動きが始まる可能性は高く、金融市場に混乱が生じる恐れが否定出来ない。

 また、景気拡大が加速する中で、人手不足がさらに深刻化することも確実である。これに対して日本政府は、現在海外から受け入れている20万人前後の技能実習生をさらに20万人前後増やすことを目的とした制度の変更を計画している。具体的には、滞在期間を3年から5年に延長すること、送出し国をさらに開拓すること、林業・介護分野での受け入れを新たに認めることが決まっている。ただし、これでは深刻化する人手不足を解消するには不十分である。一方で、ここ1年で高齢者と女性を合わせると80万人近く労働人口は増えており、さらに、高齢者や女性の労働人口を増やす余地は残されている。65歳以上の高齢者の就業率を5%高めることが出来れば150万人以上、女性の就業率を同じく5%高めることが出来れば250万人以上、労働人口を増やすことが出来る。従って高齢者・中年女性の就労を促進することを目的とした政策を展開する方が、外国人単純労働者の活用よりも、悪化する労働不足への対応策としては効果的と考えられる。

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