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技術流出等「営業秘密の漏えい問題」についての一考察 | 日中管理学院アジア交流塾塾長(JCMS) 国際善隣協会監事 井出 亜夫【配信日:2015/11/30 No.0249-0991】

配信日:2015年11月30日

技術流出等「営業秘密の漏えい問題」についての一考察

日中管理学院(JCMS)アジア交流塾塾長 国際善隣協会監事
井出 亜夫


 技術は、万人によって求められ、その利用は総じて万人に恩恵をもたらしてきた。法令上規定された「営業秘密保護」は、厳しく順守されるべきであるが、一般的な技術の伝播、供与を的確に展開することは、世界史における日本の役割りともいえよう。


(1)グローバル経済の進展と「営業秘密」問題
 「高性能鋼板の営業秘密事件」を巡る新日本製鐵(現新日鐵住金)と韓国製鉄メーカーポスコの係争は、民事訴訟による両社の和解が成立したが、本件は、今日における技術・情報の伝播、流出に係る「営業秘密漏えい」問題とその背後で進展するグローバル経済社会の様々な問題を我々に投げかけている。
 そもそも戦後の経済社会は、GATT、IMF体制とよばれた自由貿易体制の下、貿易取引と資本取引の自由化を求めたものであった。貿易面では、GATTからWTOへの移行により、また、IMFは、変動相場制への移行、リーマンショック等により、変質を遂げつつ今日に至っている。冷戦終結を契機に「市場経済システム」はグローバル化し、加えて情報通信手段の発展は、財、マネーの自由な移動だけでなく、ヒトや技術・情報の移動・交流を大幅に促進し、国境の壁をも大きく低下させている。
 このようにグローバル経済社会の進展は、国民国家の存在、枠組みを改めて問いただすと同時に、反面、企業間競争の激化と各国産業政策の強化をももたらし、国際的な新しい規律と枠組みをも求めている。
 岩波新書は、赤版1000点に際し、「グローバル資本主義の浸透は、現代社会においては変化が常態となり、速さと新しさに価値が与えられてきた。消費社会の変化と情報技術の革命は、種々の境界を無くし、人々の生活やコミュニケーションの様式を根底から変容させてきた。」としている。

(2)不正競争防止等の法整備と国際的動向
 国際経済社会においては、公正な競争の確保を図るため、独禁法の制定、科学技術発明に対し権利を保護する特許制度の確立等、さらにはこれらを確保する国際条約の締結(WTO協定の一部となったTRIPS-知財保護協定-はその最近の実例)が図られてきたが、不正競争防止問題は、貿易・通貨の国際ルールに比べその妥当性、明確性、実効性において様々な問題を抱えている。
 不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、国民経済の健全な発展に寄与することを法目的としている。今次不正競争防止法、同指針の改訂は、米国(経済スパイ法)、 韓国(不競法、産業技術流出防止法)、ドイツ(不正競争防止法)等の取組みに比べ対応が遅れていた側面を国際的水準にするとともに、特に「営業秘密」の内容を明確にし、公正な市場競争の実現を図る意図で検討されたと理解される。

1. 「営業秘密」の具体的内容を次のように説明。
 i)秘密として管理されていること(秘密管理性) その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置、人的管理(情報管理規程、守秘契約)、 組織的管理(情報管理体制)がなされていること。
 ii)有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性) 脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を法律上の保護の範囲から除外し、それ以外の情報であれば有用性が認められることが多い。現実に利用されていなくても良く、失敗した実験データというようなネガティブ・インフォメーションにも有用性が認められ得る。
 iii)公然と知られていないこと(非公知性) 合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。公知情報の組合せであっても、その組合せの容易性やコストに鑑み非公知性が認められ得る。

2. 抑止力の向上のための 処罰範囲の整備、法定刑の引上げ、 侵害品の譲渡・輸出入の禁止、 賠償請求等の容易化、生産技術等の不当な使用について民事訴訟上の立証責任を転換、告訴の必要性を無くす(親告罪の設定)を定めている。

(3)わが国近代化の過程における技術移転、技術習得、技術供与問題
 日本を代表する技術企業日立製作所の創業小屋には、同社の創業者小平浪平が、米国から輸入したモーターを分解・研究し、国産初のモーター製作の成功を喜ぶ史実が紹介されている。また、トヨタ自動車創業に当っても、GMのシボレーを分解、研究し、1936年トヨタの1号車が完成されたことが知られている。これらの事例は、今日リバース・エンジニアリングとよばれるものの典型例であろう。
 一方、戦後の火力発電・原子力発電に当って、日本の電力会社は、一号機は、GE、WH等から輸入し、2号機以下は、これを参考に時に先方の協力も得つつ、国内メーカーが製作、電力会社も通産省もこれをサポートしてきた。さらに時代を遡れば、明治殖産興業の時期、お雇い外人招聘による技術導入、多数の留学生の欧米派遣が、近代国家建設を強く意図する政府主導のもとに行われてきた。
 こうした史実を振返ってみると、技術は、万人によって求められ、その利用は総じて万人に恩恵をもたらしてきた。特に、明治維新以来殖産興業をかかげ、近代国家建設に邁進したわが国においてそれが著しく、現在、近代国家建設を目指す発展途上国がその途を求めることは十分に理解できる。従って、法令上規定された「営業秘密保護」や「特許権の尊重」は、当然のことながら順守、実行されるべきであるが、これに違反しない技術の伝播、供与はグローバルな事業活動の中で的確に展開されるべきであろう。
 わが国が、近代化の過程において経験した様々な成功、失敗、克服の歴史は、近代化を志向する発展途上諸国にとり有用な情報となり、これを共有することは、世界史における日本の役割りということが出来よう。既に発展途上各国において、先進国企業、企業経験者の活躍が多数展開されている。
 なお、今次の法整備の過程で、民事・刑事両面で営業秘密保護が強化されることにより、 転職の自由が阻害されることになるのではないかという懸念が一部にあったが、営業秘密の範囲を企業固有の情報(非公知性)であって、一般的な情報と合理的に区分されて秘密管理されたもの(秘密管理性)のみが営業秘密として保護されることを明確化したものであり、一般論としては、技能や記憶そのものは営業秘密とはなりがたいことが明らかにされていることも銘記すべきであろう。
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