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サミットを振返り、現代世界の社会経済を見る 日中管理学院(JCMS)アジア交流塾塾長 井出 亜夫【配信日:2016/06/30 No.0256-1012】

配信日:2016年6月30日

サミットを振返り、現代世界の社会経済を見る

日中管理学院(JCMS)アジア交流塾塾長
井出 亜夫


(はじめに)
 伊勢志摩サミットが終了し、オバマ大統領の広島訪問が実現した。今年は、1975年仏ランブイエにおいてサミットが開始され32年目、ランブイエサミット開催時の世界情勢の背景とその後の国際政治、経済、社会の進展をたどり、将来の展望を考察してみたい。


1. ランブイエサミット開催の背景
 ニクソンショックと呼ばれるドルと金の交換制停止、変動相場制度への移行により米国の圧倒的優位の下で展開されてきた戦後のGATT・IMF体制は変化を余儀なくされた。
 アラブ産油国を中心とする自国の天然資源恒久主権の主張を背景とした石油ショックの発生により国際エネルギー需給に大きな変化が発生、その直接の契機はアラブ・イスラエル間の政治紛争であった。
 アジア・アフリカ諸国の独立、UNCTAD主導の下、国連開発の10年が叫ばれたが、先進工業社会中心の世界経済体制は続いていた。
 一方に中ソ論争、ニクソン訪中という新しい事態は起こったが、1968年プラハの春は弾圧され、冷戦体制は継続していた。

2. ランブイエサミット宣言(1975年11月7日)と日本の立場
 仏大統領ジスカール・デスタンのイニシャティブの下で、仏、独、伊、日、英、米の6か国(カナダは第2回以降参加)首脳は、パリ郊外ランブイエにおいて、3日間の首脳会議を開催し、世界の経済情勢、経済諸問題、これらの人間的、社会的及び政治的意味合い並びにこれらの問題を解決するための諸構想について、意見交換を行った。民主的社会の成功は、世界各地の民主主義強化に緊要であり、工業社会の繁栄確保と経済の成長と安定は、工業社会全体及び開発途上国の繁栄を助長する。相互依存関係が深まる世界において、宣言の諸目的を達成するために十分な役割を果たすとともに経済の発展段階、資源賦存度、政治的、社会的制度の枠をこえ、すべての国々の一層密接な国際協力と建設的対話のために努力を強化する。このため、インフレ克服、失業の防止と経済回復、世界貿易、通貨、エネルギー問題、途上国との協調関係等につき協議し宣言を発した。
 自民党ホームページでは、世界経済が当面する諸課題について主要先進国が初めて集まった首脳会議であり、三木総理の演説「日本は先進国の一員としてだけでなくアジアの代表として参加、民主主義と自由を守るため不退転の決意で臨む、南北問題が今世紀の最大課題と表明」を紹介し、既に、西独を抜き西側第二の経済大国となり、GATT東京ラウンドを提唱した日本は、この会議において名実ともに主要国の一員となったとしている。

3. 「成長の限界」論の登場と第二次オイルショック
 一方においてローマクラブが「成長の限界」を指摘し、他方イラン革命を契機とする第2次オイルショックを経て、持続可能な開発概念による地球環境問題(リオサミット 1992年)が開催された。ここで採択された「アジェンダ21」による持続的開発目標は、今日2030年の持続的開発目標として進展し、他方、地球温暖化・気候変動問題は、1997年京都議定書を経て、今日パリ協定(長期目標として、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑える。さらに「1.5度未満」を目指す。)として展開されている。

4. 冷戦の終結とグローバル経済の進展
1) ベルリンの壁崩壊(1989年)は冷戦の終結を告げ、市場経済システムによるグローバル経済の進展は、多くの人々に経済成長のチャンスをあたえ、中国をはじめとする発展途上国の成長により、G7とともにG20への広がりが現実となった。

2) グローバル化による国民国家を超えた新しい動きは、マーストリヒト条約、リスボン条約によりEUの拡大(加盟28か国)、深化(ユーロの誕生、欧州議会、欧州理事会、欧州大統領)として進展し、難民・移民問題、英国離脱議論等を抱えつつも、世界史に新しいページを開いている。
 他方、反共政治連合として出発したアセアンは、ヴェトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスを加え、進展脱皮し、アセアン経済共同体、アセアン憲章の採択として展開されている。

3) グローバル化によるこうした国民国家を超えた動きは、新しい歴史の進展として期待をもたせるものであり、人類社会の将来に希望を与えるものであるが、それが直線的展望となるシナリオを未だ描けないのが今日の現状である。
 また、各国の相対性、人類社会の相互依存関係の進展は、グローバル社会の進展として至るところに現れているが、リーマン危機に見られたように、新しい危機の増幅をもたらす可能性をも秘めている。

5. 情報化社会の発展と科学技術の発展
1) 情報技術の進展は、ランブイエサミット当時「工業社会」として認識されていた社会を第4次産業革命の名の下、情報社会として世界全体を巻き込み、経済はもとより政治社会体制の変更をももたらす状況となっている。

2) アラブの春に代表される情報化の進展は、政治の民主化をもたらすものと期待されたが、現実の世界の進展はその期待通りに進まず、また、情報化と科学技術の利用、普及による内戦、テロ行為のリスクを高め、事態の複雑さを示している。

6. 格差の拡大
1) 市場経済システムの不備と社会の公器としての企業
 昨年来の世界的ベストセラー「トマ・ピケティ 21世紀の資本」は、既存の市場経済システムが格差と不平等をもたらすことを歴史的・体系的に実証し、ビル・ゲーツ(購買力対応し、真のニーズに対応しない市場経済の問題)、フィリップ・コトラー(物質至上主義に走るマーケット)、宇沢弘文(社会的共通資本の概念)、マイケル・サンデル(リベタリアンからコミュニタリアンへ)等の発言、指摘を裏付けている。

2) 市場経済の担い手、社会の公器である企業のあるべき姿、責任に対して、どう臨むか。ここにも新たなヴァリュー・シフトの動きがみられるが、市場経済は、この動きと期待に沿うことができるか、21世紀の市場経済システムの命運がかかっている。この動きの中で国際標準化機構は、単に企業に限らず現代社会におけるあらゆる組織の社会的責任として「社会的責任(ISO26000の社会的責任ガイダンス規格)」を提言、決定した。

7. オバマ大統領の広島訪問と核廃絶と世界の秩序
1) オバマ大統領の広島訪問は、核廃絶に向かって新しい起点を開くものである。「禁断の実である核兵器」を人類は如何に廃絶に向かって具体的取り組みができるだろうか。バートランド・ラッセルが、「原子力時代に生きる」において、あらゆる戦争はもうできないとして核廃絶運動を唱えてから久しい。軍人であったアメリカ大統領アイゼンハワーがアメリカ国民に対する離任演説で、軍複合体の存在を警告したが、抑止力のために核の必要性を説く論者の背後に、各国における産軍複合体に類する既得権者が存在する。私たちは、社会におけるその隠れた存在をどう説得、克服するか、世界全体の軍縮、安全保障も含めて、考えていかなければならない。これは、貧困からの解放、成長の限界、地球環境問題とも大きくかかわる問題であろう。世界のGDPの数パーセントがこれにかかわっていることを明記すべきでる。

2) ヘンリー・キッシンジャーは、近著「世界の秩序」の中で、複雑化する国際政治・社会情勢の中で、国際機関、非国家機関の役割・活動を認めつつも、基本的にはウェストファリア条約以来続いている国民国家(基的的枠組みとしての主権と内政不干渉)の枠を超えた安全保障体制に依存することは、まだ、できないとしている。カントが、1795年「世界永遠」の中で常備軍の廃止と民主的諸国家連合体制による平和を唱えて久しいが、日本国憲法はその系譜をひく人類的遺産と考えるべきではないか。

8. 今秋予定されているG20
 伊勢志摩サミットは、世界情勢に関する大方の現状認識を共にした宣言とともに多数の付属文書の採択をしたが、オバマ大統領の広島訪問という副産物除いては、世界の政治経済社会に画期的インパクトを与えるものとはならなかった。リアリズムを踏まえつつも理想主義を如何に実現するか、現代に生きる我々に掛かっている歴史的責務であろう。今秋2016年9月に予定されているG20(中国杭州にて開催)会合において、中韓露国等の参加の中でG7を超える新しい進展がみられるか、その中で、既存概念を超えた「成熟国家日本の役割」が果たせるかが問われている。
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