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長期化した景気低迷を抜け出す日本経済 日鉄住金総研(株)チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2016/07/29 No.0257-0258-1015】

配信日:2016年7月29日

長期化した景気低迷を抜け出す日本経済

日鉄住金総研(株)チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は、2015年初めから資源国向け輸出急減と消費マインドの悪化により低迷を余儀なくされた。2016年後半には輸出の持ち直しと消費マインドの好転により緩やかな回復に向かう。


(輸出失速と投資不調)
 日本経済は、2015年春からほぼ1年間、景気低迷が続いており2015年末から2016年春にかけては軽い景気後退と言える状態であった。輸出減少が景気低迷の主たる原因であるが、個人消費の不振が低迷長期化をもたらした。

 まず輸出数量指数の動きを見てみると、2015年度の輸出数量指数は前年度比▲2.7%の減少となった。また四半期別には、2015年第2四半期に前期比年率▲11.7%、第3四半期▲7.7%と2四半期連続で大きな減少を余儀なくされた後、第4四半期1.9%増、2016年第1四半期0.6%増と伸び悩みが続いた。地域別にみると、2015年度の輸出数量指数は、前年度比でロシア向け▲38.2%、アフリカ向け▲20.7%、中南米向け▲9.4%と資源国向けが大きく落ち込んでおり、一次産品価格急落を受けた資源関連投資の世界的な激減が日本の輸出に明らかにマイナスに働いている。さらに、米国向けの▲4.6%の落ち込みも米国における資源関連投資減少の影響を受けており、中国向けの▲2.7%の減少は中国経済の拡大テンポスローダウンを反映している。商品別にみると、資源関連投資と関連の深い一般機械が▲6.5%と落ち込みが大きい。

日本の中南米・ロシア向け輸出数量指数  2015年初めの状況を振り返ると、円安が2014年末にさらに進んだこと(対ドルレート2014年8月102.9円、12月119.4円)、米国を初めとした先進国が緩やかな回復を維持していたことから、2015年度の輸出数量は数%の増加が確実と見込まれていたことから、輸出数量の落ち込みは2015年度の日本経済にとっては、思いがけないマイナスであった。

 この様な輸出の不振を受けて、製造業を中心として設備投資も伸び悩んだ。2015年度のGDPベースの実質設備投資伸び率は、前年度比2.0%と低めの伸びに止まった。また様々な要因による建設投資の不振も設備投資にマイナスに働いている。建設投資の代表的な指標である非居住用建築着工床面積は、2014年度の52.6百万㎡から2015年度は50.2百万㎡に▲4.6%減少した。一方で住宅を含む民間建築受注は2014年度の8.9兆円から2015年度は9.6兆円に7.9%増加している。

日本の非居住用建築物着工床面積  この様に、受注が新たな建築着工に結びついていない背景としては第1に、建築受注の大型化による準備期間の長期化が指摘されている。大型オフィスビルは、受注から着工まで1年以上かかることは珍しくない。第2に、建築労務者不足が指摘されている。東日本大震災関連の公共投資増加により建築労務者が公共投資にシフトしていることに加え、2000年代初めに600万人前後だった建設労務者が、足元では500万人前後に減少しており、増加した受注を消化することが困難になっている。第3に、建設費の上昇が続いていたことも、受注した工事のスタートにブレーキをかけていた。

(冷え込んだ消費マインド)
 加えて、個人消費も停滞感が強まっている。2015年度の雇用者所得は、非正規労働者中心とは言え就業者が増加したこと、緩やかながら賃金も上昇に転じたことから、1.7%増加している。一方で、名目個人消費は前年度比で▲0.5%と落ち込んだ。消費の伸びが所得の伸びを下回っていることは、消費者マインドの悪化による消費性向の低下を示唆している。その要因としては第1に、食品価格の上昇が指摘出来る。食品スーパーの実際の売上動向から作成された食品価格指数は、2015年半ばからプラスに転じ2016年初めには1%を超えた。2014年度中は、消費税引き上げもあり価格引き上げを控えていた食品メーカーが、円安などによるコストアップを15年度に入り価格に転嫁してきたことから、購入単価が上昇した。多くの消費者にとって食品価格の上昇は、節約志向を高めるきっかけとなる。

 第2に、年金支給水準の低下が高齢者層に意識される様になって来た。実質ベースの年金支給水準は、将来の年金財政の健全化を図るために徐々に引き下げることが予定されていた。しかし、名目ベースの年金支給水準の引き下げは出来るだけ行わないとの方針が同時に決められていた為、デフレが続く日本では名目ベースの年金は据え置かれることが多かった。これが、2013・14・15年の3年間連続で消費者物価上昇率がプラスとなったことから、実質ベースの年金支給水準の引き下げが一挙に進んだ。当然のことながら、高齢者層は実質年金支給水準の低下に応じて、消費を抑えることとなった。

 第3に、株価低迷による高額消費の抑制も個人消費にはマイナスである。株価は、2012年末から上昇に転じ、2015年4月に2万円の大台を回復した。しかし、8月以降は円高と国際金融市場の不安定化などにより下落に転じ、2016年に入ると15,000~17,000円のレンジで推移している。株価上昇によるキャピタルゲインは、百貨店などの高額商品の売上増加に繋がったが、株価が下落に転じた2015年夏以降、高額商品の売上は減少している。

 第4に、マイナス金利の導入が消費者マインドを冷やしている恐れが強い。日本銀行は目標とする2%の物価上昇が遠ざかる中で、2016年1月にマイナス金利政策をスタートさせた。その結果、10年物国債金利が▲0.2%になるなど、金利水準はさらに低下した。金融資産の多くを預金で運用している日本の消費者は深刻な投資対象不足に直面することとなり、利息収入の減少を余儀なくされた。日本銀行は、マイナス金利の導入により預金から株式や実物資産へのシフトが進むことを期待しているが、消費者は利息収入の減少を補う為に消費を抑制している可能性が高い。

日本の家計貯蓄率 (持ち直す日本の景気)
 この様に足下の日本経済は停滞が続いているが、2016年後半から2017年にかけて緩やかな回復に向かう。その要因としては第1に、輸出の持ち直しを指摘出来る。既に急速な減少を続けていたロシア・中南米向け輸出は底這いに転じており、米国向けも回復しつつある。今後中近東向け輸出は減少を続けるが、他の地域の持ち直しでカバーは可能である。さらに自動車輸出は、メーカーの国内回帰により今後10%前後増加することが確実である。

 第2に、個人消費も低迷を脱する。引き続き人手不足は深刻であり、企業は雇用拡大と賃金の緩やかな引き上げを続けざるを得ない。さらに、食品価格の引き上げは一巡しつつあり、一次産品価格下落と円高の恩恵はしばらく続く。マイナス金利と年金支給水準の引き下げは当面避けられないが、プラス材料が増えるにつれて消費者マインドの改善が期待出来る。また、消費税引き上げの先送りが2016年5月末に決められたことは、日本の財政にとっては好ましいことではないが、個人消費にはプラスである。

日本の新規求職・求人数  第3に、建設投資の増加がようやく実現する。大型のオフィスビル建設が準備段階から建設段階に移ること、東北大震災関連の公共投資が一巡したこと、減り続けていた医療・流通関連の工事が底打ちしたこと、建設費の上昇が止まり工事を素直にスタートすることが可能になったこと、をその背景として指摘出来る。

 この様な要因により、引き続き中国経済には要注意であるが、2016年後半から2017年にかけて日本経済はそれなりの成長を維持する。また2016年6月23日に実施された国民投票により英国のEUからの離脱が選択されたが、今後の英国・EU間の交渉は紆余曲折が予想され、英国がEUに残る可能性も残されている。さらに、英国民が離脱を選択した背景としては、a)財政統合抜きの政治統合が進むEUの先行きに対する不安、b)市場メカニズム重視の経済政策がもたらした英国民間の格差拡大に対する不満、が挙げられる。英国のEU離脱により英国・EUの需要が大きく縮小するとは考えにくく、短期的には日本・世界経済に与える影響は軽微と見込まれるが、EUの先行きへの不安や世界的な格差拡大は、中長期的に経済・社会にマイナスに働くことは確実である。(2016.06.29)

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