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第7次朝鮮労働党大会と金正恩体制 関西学院大学 教授 平岩 俊司【配信日:2016/07/29 No.0257-0258-1018】

配信日:2016年7月29日

第7次朝鮮労働党大会と金正恩体制

関西学院大学 教授
平岩 俊司

真の意味での金正恩政権のスタート
 2011年12月の金正日総書記の急逝によって、翌2012年4月にスタートした金正恩政権は、その後人事面で不安定な状況が続き、後見人と目された義理の叔父、張成沢の粛清によって、体制の安定度を不安視する向きも多かった。その後も軍を中心に頻繁に人事異動が伝えられ、韓国からは多くの軍人の粛清についての情報もあり、金正恩体制の安定度については依然として評価が定まらなかった。
 そうした意味で本年(2016年)5月、実に36年ぶりに開催された第7次朝鮮労働党大会では北朝鮮が目指す金正恩体制の真の姿が明らかにされた、と言っていいだろう。金正恩は新設ポスト党委員長につき、朝鮮労働党を金正恩自身の党に作り替え、党大会に続いて開催された最高人民会議では、金正日時代の先軍政治の象徴的組織とも言える国防委員会を国務委員会に組織替えして、自ら国務委員長として政権のトップの座に位置した。金正日時代と自らの4年間の体制を危機管理体制として位置づけ、36年ぶりの党大会を危機管理体制の終焉と位置づけ、北朝鮮が平時の体制に戻ったことを印象づけたのである。党大会では金正恩が背広姿で登場したことに注目が集まり、北朝鮮の初代最高指導者であり祖父である金日成の姿を模した、とされたが、金正恩の背広姿は平時の最高指導者を印象づけたいという北朝鮮側の思いも込められていたのではないだろうか。第7次党大会は金正恩体制の総仕上げ、としての大会と位置づけられることになるだろう。

36年ぶりの党大会の意味
 既述の通り、金正日時代の先軍政治とは、まさに北朝鮮の体制を維持することさえ難しい状況下の危機管理体制であった。36年前の1980年に開催された第6次朝鮮労働党大会は、先代の金正日が、初代の最高指導者である金日成の後継者として公式にデビューした党大会であった。しかし、1980年代後半から始まる冷戦の終焉現象によって、北朝鮮は体制維持の難しさと向き合わざるを得なくなった。とりわけ、中国の天安門に集まった民衆を中国人民解放軍が排除して多くの犠牲者が生まれてしまったいわゆる天安門事件と、ルーマニアの独裁者であったチャウシェスク大統領が民衆によって政権の座から引きずりおろされ、ついには処刑されてしまった事態、この二つの事例から、金日成、金正日は、政治変動の最後の局面では物理的強制力を独占する軍の動向が政治変動の動向を決める、との思いを強くしたのだろう。それゆえそれまで党中心に進められてきた金日成から金正日への権力継承事業は、一気に軍中心に移っていく。金正日は、最高司令官、国防委員会委員長という金日成の地位を譲り受けて軍の首位となり、金正日が軍と一体化して政権を運営する先軍政治がスタートする。金正日は、党の中の党と言われる党組織指導部を通して軍をコントロールしたため、党が軍を指導する、という本来の形をかろうじて残すことにはなったが、実際には党組織は形骸化し、党大会のみならず党中央委員会すら開催できない状態が続いた。さらに冷戦の終焉を背景に、韓国がソ連、中国と国交正常化したことにより、北朝鮮の立場からすれば、はたしてソ連、中国が核の傘を提供してくれるかどうかが疑わしくなってくる。北朝鮮のみが一方的に米国の核の脅威にさらされる状態に追い込まれた、というのが北朝鮮の情勢認識であり、まさに体制の危機を痛感させられる事態であったといってよい。

核放棄の難しさ
 危機管理体制としての金正日体制とそれを引き継いだ金正恩体制の4年間、北朝鮮にとっては、米国からの脅威に対抗するために、核、ミサイルの能力を向上させ、米国に対する打撃力を手に入れることこそが最重要課題であったといってよいが、こうした状況下、金正日から金正恩への後継事業が開始される。金正日は若い後継者に権力を継承するに際して、自らの先軍政治をそのまま引き継ぐのではなく、組織としての党が軍をコントロールして政権運営をおこなう、という本来の北朝鮮の姿の中に最高指導者としての金正恩を位置づけようとした。7次党大会はそうした動きの総仕上げとして位置づけられるだろう。
 金正日時代、さらにはその後4年間の金正恩政権は、国際社会の強い反対にも関わらず事実上の弾道ミサイル発射実験、核実験を繰り返し、すでにそうした打撃力を手に入れたと主張している。北朝鮮のみが米国の核の脅威にさらされていた状況は解消され、体制の危機は終わった、とするのが北朝鮮の立場であろう。党大会で金正恩は北朝鮮を、「責任ある核保有国であり、核の先制使用はしない」としながら、核拡散防止の義務を誠実に履行し、非核化された世界実現のため努力する、とし、党中央委員会事業総括決定書では、「北朝鮮を『東方の核大国』として輝かせる」という、まことに身勝手な理屈を披瀝した。その後も、中距離弾道ミサイル(いわゆるムスダン)の発射実験を繰り返し、「太平洋作戦地帯内の米国を全面的、現実的に攻撃できる確実な能力」を手に入れたと主張する。依然として北朝鮮の核ミサイル能力については懐疑的な見方が一般的だが、着実に能力を上げていることは間違いないし、国際社会が望むような形での北朝鮮の核放棄が望めないことは間違いない。
 
経済状況の改善を目指して
 ところで、米国による核の脅威のみならず、経済的不調も北朝鮮にとっては危機の要因の一つであったと言ってよい。冷戦の終焉に伴う社会主義陣営の崩壊によって社会主義陣営間の友好価格による取引はなくなり、さらには天候不順も重なって、北朝鮮経済は危機的状況に追い込まれ、深刻な食糧不足まで発生した。多くの餓死者が出たとの報道もあったが、金正日政権そして金正恩政権の4年でそうした状況は一定程度解消され、7次党大会では、通常の社会主義国がそうであるよう多年度の経済計画である国家経済発展5カ年戦略(2016~20年)が採択された。党大会で金正恩はミサイル発射実験の成功を前提として、核と経済の並進路線を恒久的な路線としながら、北朝鮮を科学技術強国と位置付け、宇宙開発についてはさらなる衛星打ち上げを続けることを強調する一方、「先端水準に達した分野がある一方、著しく遅れている分野」として課題をみとめた。北朝鮮は、核実験、ミサイル発射実験に対する国連決議に基づき、経済制裁の対象とされているが、不思議なことに、韓国銀行の分析によればここ数年、わずかではあるが右肩上がりの経済成長を遂げているという。多くの専門家によれば、いわゆる改革開放的政策によって経済状況が改善されることはあるものの、これ以上の経済成長を望むのであれば、対外関係の調整を前提として、外国の資本、技術が必要不可欠という。

国際社会の対応と金正恩政権
 それを見越してか、党大会で金正恩は米国、韓国に対して対話提案を行った。しかし、韓国、米国はそれに応じる気配はない。米国は対話に応じないのみならず、金正恩自身を人権問題で制裁対象とした。また、韓国も対話を拒否して朴 槿恵(パク・クネ)大統領がアフリカ諸国を訪問して北朝鮮との取引の停止を求めるなど、北朝鮮包囲網を形成すべく余念がない。さらに米韓は中国の強い反発にもかかわらず韓国へのサード(THAAD)ミサイル(Terminal High Altitude Area Defense missile:ターミナル段階高高度防衛ミサイル)を導入することとなった。北朝鮮の反発は間違いないが、中国、ロシアも米韓の動きに警戒観を隠さない。場合によっては、冷戦時代のように日米韓と中ロ・北朝鮮の対立が再現される危険性もある。こうした状況下、北朝鮮は日本に対して対話を提案してくるかも知れない。日本は、2014年のストックホルム合意に基づいて北朝鮮が拉致問題の再調査を開始したことに伴って独自制裁の一部を解除したが、その後、再調査は日本側が望む形で進まない状況が続いていた。そこに4度目の核実験が強行され、あらためて独自制裁を科し、当然北朝鮮はこれに反発した。ただ日朝双方ともストックホルム合意は依然として有効、との立場であり、核、ミサイル問題が動き出せばストックホルム合意を軸に日朝関係が動く可能性はあるが、日本側としては核、ミサイル問題に資する形で日朝関係の進展を考えることになるだろう。
 平時の体制としての金正恩政権を印象づけようとする北朝鮮と、北朝鮮の核放棄を求める国際社会の認識のズレは埋めがたいほど大きい。金正恩は第7次朝鮮労働党大会を「革命の偉業を完成させるための戦いで新たな分水嶺となる、勝利と栄光の大会」と位置づけたが、はたして北朝鮮が望むような平時の体制として金正恩政権は政権運営が出来るのか、あるいはふたたび危機管理体制に回帰せざるを得ないのか、まさに分水嶺にあるといってよい。
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