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震災復興、観光で加速を =風化と風評で揺れる被災地= 時事通信社仙台支社 編集部編集委員 小早川 靖【配信日:2016/09/30 No.0259-1020】

配信日:2016年9月30日

震災復興、観光で加速を
=風化と風評で揺れる被災地=

時事通信社仙台支社 編集部編集委員
小早川 靖


 東日本大震災から5年半。疲弊する経済の立て直しは重要な課題だ。世間の関心が薄れる「風化」と原発事故で根強く残る「風評」の中、東北各地は復興加速に向け観光に力を入れている。


◇最優先は被災者の生活再建
 政府が定めた「集中復興期間」が終わり、「復興・創生期間」がスタート、大津波に襲われた沿岸部を中心に復興事業が続く。プレハブの仮設住宅に住むなど避難者がいまだに15万人近くに上り、被災者の生活再建が最優先である状況には変わりない。
 インフラ面での復旧・復興は進んできている。鉄道や道路はJR常磐線や三陸沿岸道路など一部を除くと復旧工事が終了。津波により農地が冠水した農業、施設が壊滅した水産加工業も営業の再開が進展している。
 ただ、町づくりや避難者への対応には時間が掛かっている。復興庁によると、災害公営住宅の建設は予定戸数の6割程度にとどまり、高台移転は5割にも満たない。仮設住宅に住む人が依然多く、被災者への心身ケアや新しい住宅地区のコミュニティーづくりが重要なテーマになっている。原発事故が重なった福島県は帰還困難区域を抱え、険しい道のりが続く。

◇今年(2016年)を「東北観光復興元年」に
 被災者の生活が安定するには、インフラ整備に加え、経済の活性化が必要だ。復興需要に伴う工事はピークを越え、国や地方自治体による巨額な建設投資は今後、期待しにくい。継続的な地域の活性化には、交流人口の拡大、観光客の増加を考える必要がある。政府は、今年を「東北観光復興元年」と位置付け、予算面を含めバックアップ。豊かな地域資源を積極的に活用すれば観光を復興の柱の1つに据えることは可能だろう。
 観光客の現状を見ると、宮城県の場合、入り込み数が昨年、震災前の99%まで回復した。東北の中心都市、仙台市では前年を約13%上回る2229万人となり、過去最高を記録。半面、仙台から離れている石巻・気仙沼地域は震災前の66%にとどまり、大きな差が開いている。
 気仙沼市内のホテル運営会社は「震災から3年ぐらいまでは、被災地を訪れる人も多かったが、その後は減ってきた」と打ち明ける。津波の大きな傷跡が残っていた沿岸部は、被災した建物が壊されたり、新たな建物が建設されたりして、変化が激しい。
 気仙沼では、内陸部に打ち上げられた漁船を震災遺構として残すか取り壊すか、一時大論争になったが、結局撤去された。「今となっては震災遺構があることが観光のきっかけになり得たと思う。震災から5年が過ぎ、風化もしてきた」(前述のホテル運営会社)との意見も聞かれる。

沿岸部で続く復旧・復興関連工事(宮城県名取市)

沿岸部で続く復旧・復興関連工事(宮城県名取市)

◇仙台空港民営化に期待
 東北の観光振興で関係者が期待するのが仙台空港だ。今年(2016)7月に国管理空港として初めて民営化され、東急グループを中心とした新会社が運営を担っている。民間の知恵を空港運営にどう生かすか注目される。
 民営化当日には石井啓一国土交通相らを招き、式典が開かれた。石井国交相は「全国に先駆けて行われる大変重要なプロジェクトだ。仙台空港を拠点に経済効果が広く東北全域に波及し、東北地方の活性化や震災からの復興の加速につながることを期待している」とあいさつ。空港民営化を主導してきた村井嘉浩宮城県知事は「交流人口の飛躍的な増加に向けて東北が大空に飛び立つ、まさにテイクオフの年だ」と話した。
 空港の民営化では、特に訪日外国人旅行者(インバウンド)の取り込みが重要となる。年間2000万人を超えるインバウンドで国内が沸く中、東北は取り残されている。東北6県の外国人宿泊数は震災前の水準をようやく回復した程度。仙台市も過去最高となったものの、10万人を少し上回るレベルだ。東北ブランドが浸透していないことに加え、原発事故に伴う風評被害がいまだに色濃く残っている。

仙台空港民営化を記念し開かれたレセプション(仙台市)

仙台空港民営化を記念し開かれたレセプション(仙台市)

◇スター観光地の発掘を
 東北の観光地は、他のエリアに劣っているわけではない。世界文化遺産・平泉(岩手県)、日本三景・松島(宮城県)といった日本を代表する観光地に加え、世界自然遺産の白神山地(青森・秋田両県)やリアス式の三陸海岸(岩手県中心)といった豊かな自然、温泉、夏祭りなど魅力のあるコンテンツがそろっている。豊かな海山の幸を生かした郷土料理もある。
 地理的に見ても、東京から比較的近い。東北の玄関口に当たる仙台までは東北新幹線で最短約1時間半、京都や大阪より早く着く。
 ただ、一つ一つの観光地は魅力があっても、東京・京都・大阪のゴールデントライアングルに比べると集積率が低く、小粒な面も否めない。そこで、カギを握ってくるのが周遊観光だ。今年(2016年)4月には東北6県の知事が集まりシンポジウムを開催、手を取り合って東北をPRした。観光関係者は、東北のゲートウエイ、仙台空港から入国した外国人を山形、岩手など東北各地へ送り込むイメージを持っている。
 また、「冬のスター観光地」の発掘も課題だ。外国人に人気の北海道では、「ニセコ」というブランドが多くの外国人を惹きつけている。東北も積雪地帯で北海道に負けていない。「総花的」に全てを一律にPRするのではなく、まずはスター観光地を育て、そこから各地の観光地を訪れる方法が効率的と言える。

津波で被害を受けた女川港エリアに2015年末オープンしたテナント型商店街「シーパルピア女川」(宮城県女川町)

津波で被害を受けた女川港エリアに2015年末オープンしたテナント型商店街「シーパルピア女川」(宮城県女川町)

◇被災地観光は復興の一助
 一方で、被災地との関わり方も重要なテーマだ。被災地の観光に関しては、被災者の心情に配慮し慎重な意見があるのは確か。しかし、高齢化が進み経済力が衰退していく地域にとって、観光客は大切な資金源にもなる。震災から時間が経てば経つほど、風化が進む。被災地では震災被害を伝える「語り部ツアー」も行われているが、利用者は伸び悩んでいる。
 今年(2016年)8月には、岩手、宮城、福島各県が、被災地へ集客しようと、同じく地震で大きな被害を出した熊本県と足並みをそろえ、今はやりのゲーム「ポケモンGO(ゴー)」の活用の検討を始めた。村井宮城県知事は「被災地を歩き、現状を知ってもらうきっかけになればいい」と期待を寄せている。
 復興と風化と風評が複雑に絡み合い、被災地は岐路を迎えている。純粋においしい食事や温泉を楽しむのもよし、大きく変わる沿岸部で被災者を思いやるのもよし、被災地を訪れるだけでも復興への一助になるはずだ。

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