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「対話先進国の実現」に向けた胎動~動きだした株主総会プロセス改革~ 経済産業省 経済産業政策局 企業会計室 花村 大樹【配信日:2016/09/30 No.0259-1021】

配信日:2016年9月30日

「対話先進国の実現」に向けた胎動~動きだした株主総会プロセス改革~

経済産業省 経済産業政策局 企業会計室
花村 大樹


 企業と機関投資家の「建設的な対話」を通じたコーポレートガバナンス改革の強化は、アベノミクス第3の矢たる「成長戦略」の最重要課題である。
 本稿では、最新データに基づき、企業による対話促進に向けた取組が着実に進展している状況について紹介した上で、今後に対する期待を述べる。


1. はじめに
 第4次産業革命を見据え、産業の新陳代謝を加速し、未来に向けた投資を増やしていくためには、企業の果敢な経営判断や、人材、設備、研究開発等イノベーションへの投資を後押しする仕組みの強化が必要である。
 そのような問題意識の下、日本企業の「稼ぐ力」の回復に向け、安倍政権下の成長戦略は、コーポレートガバナンス改革及びインベストメントチェーンの高度化を施策の柱として掲げており、2014年2月には日本版スチュワードシップ・コード、2015年6月にはコーポレートガバナンス・コードといった2つのコードが策定されている。また、既に多くの企業において2人以上の社外取締役を導入する等の動きがみられるが、今後は、この改革を「形式」から「実質」へと深化させていくことが重要だ。
 株主総会プロセスの見直しの議論もこれらの取組の一環として行われている。企業が中長期的な企業価値を創造していくには、リスクマネー・成長資金の出し手である投資家と質の高い対話を行える環境整備が重要だ。そこで、経済産業省では、昨年11月に「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」を設置し、今年4月に対話促進に向けた提言を報告書としてとりまとめている。
 本稿では、最新データに基づき、企業による対話促進に向けた取組が着実に進展している状況について紹介した上で、今後に対する期待を述べる。
 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の個人的な見解である。

2. 株主総会招集通知等の早期提供や英文開示の進展
(1)早期(発送前)Web開示
 日本では、株主総会の招集通知等の発送は書面によって行われるのが原則となっている。このため、招集通知等の原稿ができてから株主に届くまでの間に、印刷・封入・郵送等の期間がかかってしまっている。そのような中、株主による議案検討期間を確保すべく、招集通知等を発送する前の段階でウェブサイト等に自主的に開示するという「早期Web開示」の取組みが注目を集めている。
 実際、早期Web開示に取り組む企業の数は大きく拡大しており、2016年6月に株主総会を開催した上場会社2,340社のうち、早期Web開示企業は1,605社(68.6%)と、前年の769社(32.7%)と比較して大幅に増加した(図表1)。また、招集通知の発送又は開示のタイミングについてみると、6月総会の上場会社全体の約6割(1388社)が、総会開催日から3週間以上前に、早期発送もしくは早期Web開示を行っている。このうち、336社は、総会日の4週間以上前に招集通知情報を発送もしくは開示している(図表2)。
 こうした取組の進展は、実質3日といわれる機関投資家等による議案検討期間を拡大しうるものとして有益である。

図表 1 早期Web開示実施企業数の推移(6月総会) 図表 2 早期Web開示日又は招集通知発送日から株主総会開催日までの日数(6月総会)
(2)英文招集通知の開示
 海外機関投資家からのニーズの高まりを受けて、英文招集通知の開示企業数も増加している。2016年6月に株主総会を開催した上場会社2,340社のうち、英文招集通知を開示した企業は634社(27.1%)と、前年の399社(17.0%)と比較して大きく増加した(図表3)。また、英文招集通知を開示した企業の7割(460社)が、招集通知を発送する前にWeb開示している。
 このように、招集通知等の情報提供面で株主に配慮する取組が急速に拡がりつつある。

図表 3 英文招集通知開示企業の推移(6月総会) 3. 議決権の電子行使プラットフォームへの参加
 株主に配慮した企業の取組としてもう一点注目される動きとしては、議決権電子行使プラットフォームへの参加企業数の増加が挙げられる。
 日本でも、株式会社ICJが運用する機関投資家向けにウェブ上で電子的に議決権行使ができるプラットフォームがある(以下「PF」という)。このPFを内外の機関投資家が利用すれば、総会日の前日まで議案を検討することができるようになり、その議案検討期間拡大効果は+1~2週間程度と指摘されている。また、機関投資家からみれば、議決権行使の再指図が容易になる等のメリットもある。
 これらのメリットを株主にもたらすPFへの参加企業数が、2016年6月末時点では、昨年に比べて約200社増の757社と大きく増加している(時価総額ベースでは85.5%をカバー)(図表4)。これにより、既にPFを利用している海外在住の機関投資家を中心に、総会議案を検討する時間的余裕が生まれていると考えられる。

図表 4 議決権電子行使プラットフォームに参加する上場会社数の推移 4. 株主総会関連スケジュールの見直しの動き
 さらに、株主総会スケジュールを見直すことで、株主との対話を充実させようという企業経営サイドの動きも見られる。
 日本の上場会社の株主総会関連スケジュールをみると、決算日から総会日までが3ヶ月以内と欧米諸国(平均4~5ヶ月)と比較して短いため、機関投資家による議案検討期間や企業による情報開示の準備期間が十分とは言い難い状況にある。これらの期間を確保する方策として、例えば3月決算企業が7月に株主総会を開催するといった方策が検討されつつある。
 まず、経済同友会は、2015年12月、『企業と投資家の対話に関する意見』を公表し、「国際的に比較しても遜色のない議案検討期間を設けるには、(中略)例えば、一つの選択肢として、議決権行使基準日を決算日以降に定め、その3箇月以内に株主総会を開催することが考えられる」として「企業、及び株主総会プロセスにおける様々な関係者の意識改革から始め、スケジュールの見直しに着手する」との考えを表明している。
 また、現在、全国株懇連合会においては、本年秋のとりまとめを目指し、決算日以外の日を基準日とする場合の実務対応上の課題等について整理すべく議論・検討を重ねている。これらの検討結果も踏まえつつ、実際に総会日程を見直す取組が広まることが期待される。

5. 機関投資家等の株主総会への出席ガイドライン
 実質株主たる機関投資家等が株主総会に参加する途も拓かれつつある。
 2015年11月、全国株懇連合会は、『グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン』を策定し、名義上の株主となっていない海外機関投資家が株主総会に出席する手続き等について、整理・明確化を行った。本ガイドラインは英訳版も作成され国内外に広く周知されており、ACGA(※)をはじめとする海外機関投資家からも「非常によくできているので、参考にさせていただく」といった意見も聞かれるなど、好意的な反応が寄せられている。実際、海外機関投資家が株主総会を傍聴することとなった事例や、海外機関投資家が総会に出席した上で議決権の代理行使をした事例も出ている。さらに、全国株懇連合会は、2016年4月、機関投資家が名義株主の代理人として総会に出席することを定款で認める場合の『モデル定款』も策定・公表する等の取組を進めている。

おわりに
 以上、見てきたように、企業による対話促進に向けた取組は着実に進展しつつある。また、本年4月、「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」は、企業や関係者により対話充実に向けた取組が更に進むよう、(1)招集通知の電子提供、(2)議決権行使の電子化、(3)総会日程の見直し等に関する提言をとりまとめたところである。これらの提言はいずれも、情報開示を充実させ、株主の議案検討期間を確保することで、企業と株主・投資家との建設的な対話を促すことを目的として提示されている。
 一方で、株主総会プロセスは、法的要請に対応した実務の積み重ねにより構築されてきているため、長年の慣習が根強く残っている面もある。そうした慣習を変えるには時間も労力もかかるだろうが、国際的にも遜色ない「対話先進国」たる環境が構築されるよう、今後、関係者による取組が一層進展することを期待したい。
 企業が、成長資金を提供する株主・投資家と積極的な対話を行い、経営方針等に活かしていくことで、中長期的価値を創造していくこと。そして、その価値が投資家、ひいては広く国民に還元されていくこと。そのような価値創造の好循環を実現していくことが期待される。


(※) Asian Corporate Governance Association:アジア市場に投資を行っている欧米・アジアの機関投資家等で構成される団体。アジア諸国のコーポレート・ガバナンスに関する提言等を行っている。
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