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シリーズ:日本の力 ― グローバル化する中小企業 (No.2) 中小モノづくり企業の海外展開 ― ベトナムでの試み ザ・サポートべトナム有限会社 社長 井上 伸哉【配信日:2016/011/30 No.0261-1028】

配信日:2016年11月30日

シリーズ:日本の力—グローバル化する中小企業 (No.2)
中小モノづくり企業の海外展開—ベトナムでの試み

ザ・サポートべトナム有限会社 社長
井上 伸哉


 中小モノづくり企業がベトナムに進出する理由と現在べトナムドンナイ省で進行中の企業結集の意味について紹介します。


「なぜベトナムなのか」
 わが国の中小モノづくり企業は、大手セットメーカーの海外移転、為替の乱高下、後継者不足、新興国の追い上げなどの理由で、八方塞がりの状況の中に取り残されています。そうした中、意欲ある中小モノづくり企業は、海外展開に生き残りの光を見出そうとしています。私たちも2012年から本格的に関西を中心に中小モノづくり企業のべトナム進出を支援しています。
 モデルにしたのは1997年に進出した富士インパルスベトナムです。日本の富士インパルスは小型のインパルスシール機のトップメーカー。現在では、富士インパルスベトナムの売上は250万ドル、社員も約100名に成長し、日本人滞在者は置かず経営はベトナム人が行なっています。日本では経験のない鈑金などの新規事業にも乗り出し、成功しています。富士インパルスベトナムの20年を観察すると、重要なことは人的資源だと認識させられ、中小モノづくり企業の海外展開の鍵は「人」だと確信しました。実際にベトナムへ進出を考える中小モノづくり企業の3割くらいは、3年間のべトナム人実習生を受入、実習生を中心に据えてべトナムの事業を考えています。2016年度のベトナム人実習生は、年間1万人を超えそうです。ほとんどの実習生は、全国の中小モノづくり企業に雇用され、わが国のモノづくりの底辺を支えています。ベトナム人は、日本人と類似した心情を持ち、共感できる点が数多くあります。実習生制度などを通して心情的に共感し合い、相互の信頼関係を築いているのだと推測します。
 中小モノづくり企業にとっても経営戦略は重要です。しかしながら、教科書的な経営戦略の実践は、中小モノづくり企業にとって非現実的です。最大の理由は、制約された経営資源です。特に人的資源の不足は致命的です。中小モノづくり企業は、経営戦略の中核に心情的に共感できる人材を据えざるを得ないのです。だからこそベトナムなのです。ベトナムは、心情的共感に基づく海外戦略を実践するための最適地と言うことができます。

「中小モノづくり企業の海外展開の駆動力」
 日本のモノづくりの強みは、製品の設計、工法、材料及びQCDに関して共通の判断基準を持ってモノづくりの恊働を推進するところにあります。当然モノづくりでは、製品の図面が共通認識のベースになるのですが、モノづくりプロセスの中で改善、改良などの創意工夫を継続的に発揮するためには、図面だけでは伝わりきらない様々な局面で、モノづくりに対する共通の問題意識を共有しなければなりません。こうした日本のモノづくり企業が保持している共通基盤を「モノづくりの知のデータベース」と呼びたいと思います。
 ベトナムに進出している日本企業から「部品製造を日本企業に依頼すると安心できる」という話がよく出てきます。これは単に技術力の有無ではなく、モノづくり全般にわたって日本企業の方が現地の企業より優位性を持っているということです。日本企業は、図面と材料、工法がわかれば、品質、コスト、納期(QCD)を先回りして考えてくれます。しかし、現地企業に依頼すると一から十まで説明と指導が必要になり、「手間と費用がかかってかなわない」という話になります。
 日本企業のモノづくりの知のデータベースは、意図的に形成されたものではなく長年にわたってモノづくりに携わっている中で結果的に形成されたものです。しかし、一度形成された知のデータベースは、それを共有する企業が必要なとき必要な技術、技能、ノウハウを取り出して使うことのできる便利な代物です。
 また。具体的には、
・ 核となる固有技術を活用する方法の理解
・ 技術の各企業間での共有と活用
・ モノづくりにおける企業間の柔軟なチームワークの発揮
・ 現場の知の有効活用
・ 絶え間ないカイゼンを促進する環境
などがモノづくりの知のデータベースの形成要素です。しかし、構成要素はこれに留まるものではなく、暗黙的な知識も含めて他の沢山の要素によって構成されています。だからこそ、日本企業の強みとなりうるのです。モノづくりの知のデータベースは、日本においては空気のようなものです。ところが海外に進出すると、その欠乏感を強く実感することになります。意識的にモノづくりの知のデータベースを活用しようという意図を持ち、戦略的に知のデータベースの駆動力である心情的に共感できる人材の育成が求められています。
 中小モノづくり企業の海外展開促進のためには、次の3つがポイントになると考えます。
 第1は、日本企業が集結してモノづくりを行なう環境を創り出すことです。私たちが拠点を置くドンナイ省にも240社を超えるモノづくり企業が進出しています。しかし、それぞれの企業の情報は限定され、結集して協力しようにも動き出せない状況にあります。
 第2は、仕事を通したベトナム人の教育と育成です。モノづくりに関して、私たち日本人にとって常識的なことも、ベトナム人にとっては常識でないことがたくさんあります。幸いなことにベトナム人は、日本企業に羨望の念を持っており、学ぼうとする姿勢があります。
 第3は、モノづくりに関する継続的な意識づけです。生産性に関する5S、カイゼンという施策でさえベトナムではなかなか生産現場に根づいていきません。5Sや改善を根づかせる効果的な方法は、モノづくりの知のデータベースの共有化を押し進めることに他なりません。

モノづくりの「知」のデータベースとモノづくりネットワーク  現在、私たちの拠点であるドンナイ省、及び近隣の省に進出している日本企業の中で、私たちの活動に賛意を示してくれる企業が30社強あります。しかし、企業結集と言うには、質量ともに物足りない状況です。鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、鈑金、プレス加工、熱処理、表面処理、金型、鋼材加工、インジェクションといった企業が集結し、分業により、一貫生産体制が組めることが理想です。近い将来、ドンナイ省に100社以上の中小モノづくり企業を結集したいと考えています。そうすることで、知のデータベースが活性化し、中小モノづくり企業のべトナムでの成長が期待できると確信しています。

参考文献:「ベトナムで新しいモノづくりは実現できるのか」
     井上伸哉著 日刊工業新聞社

レンタル工場群「Kansai Supporting Industry Complex」

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An Phuoc工業団地

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