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シリーズ:「インバウンド観光推進」(No.3) 熊本地震の風評被害払拭のため中国、韓国、タイなど五ヵ国を対象に広報活動を展開 ~九州の魅力発信事業-One Kyushu Projectの実践~ (一社)九州観光推進機構 九州観光広報センター 副センター長 兼 海外担当 若林 宗男【配信日:2017/01/31 No.0262-0263-1030】

配信日:2017年1月31日

シリーズ:「インバウンド観光推進」(No.3)
熊本地震の風評被害払拭のため中国、韓国、タイなど五ヵ国を対象に広報活動を展開 ~九州の魅力発信事業-One Kyushu Projectの実践~

(一社) 九州観光推進機構 九州観光広報センター 副センター長 兼 海外担当
若林 宗男


 2016年4月の熊本地震は、熊本県だけでなく、九州全体の観光客の足を止めた。風評を覆すべく、海外の消費者に向けて九州の魅力発信事業-One Kyushu Projectを展開した。


 2016年4月。14日と16日の二度にわたり大きな地震が熊本県と大分県を襲った。最大震度は7を超え、8,300戸余りの住宅が全壊した。熊本城の石垣が崩れ、阿蘇神社の楼門が潰れ、阿蘇大橋が崩落した。交通網にも大きな被害が出た。懸命の復旧作業により、高速道路と九州新幹線は早期に回復したが、国道57号線と豊肥本線は今も不通のままだ(2017年1月現在)。
 このような物理的な被害の一方、震災によって大きな被害を受けたのが、観光産業である。
図1九州における直接入国外国人数(2016年上半期) 熊本地震で大きな影響を受けた九州の観光
表1九州各県のGW後9月末までの先行予約状況  熊本地震の直後から、熊本県や大分県だけではなく九州全県で旅館・ホテルのキャンセルが続いた。空の玄関である福岡空港も陸の玄関口である小倉駅も博多駅も震災の影響はなかったが、キャンセルは止まらなかった。いわゆる風評被害である。
 メディアが震災を取り上げる時、写真やビデオにより被害のあった現場を映し出す。それは仕方のないことかもしれないが、それを見た人は心理的な影響を受けるのだ。「こんなに被害が出ているなら、今回の旅は取り止めようか」というのが一般的である。「復興で忙しくて営業も大変だろうから、今行くのは遠慮しておこう」という気持ちも起きる。九州全体では被害がなかった観光地の方が圧倒的に多く、それらの観光地では一人でも多くの観光客に来てもらいたいのに、こういう気分からキャンセルが増えたのである。

 震災後に九州全体で発生したキャンセルは、九州の観光地が相互に依存している事実を突き付けた。表は、ゴールデンウィーク後の5月22日時点での九州各県における9月までの先行予約申込状況であるが、被災した熊本県や大分県だけでなく、九州の全県で前年同期に比べ大きく落ち込んだことがわかる。地震がゴールデンウィークの直前に起きたために観光業界にとって稼ぎ時である長期連休で大幅なキャンセルが出たのである。次の繁忙期である夏休みに影響が及べば、夏を越せないとの悲鳴が上がった。
 こういう中で、風評被害を払拭しようとの思いから生まれたのが「九州ふっこう割」だ。これは、2016年中は九州内の宿泊料金を割り引くというもので、大きな期待が集まった。「九州ふっこう割」は、観光庁が風評被害対策として企画し、予備費の中から180億円が計上されて生まれた事業である。

重視したのは第三者観 風評被害払拭のための作戦
 しかし、割引があるといっても一旦冷えた人々の心はなかなか戻らない。「九州は危ないじゃないか」「交通網が寸断されていて行けないところは多いようだ」と思う人々の心を切り替えるには、安全に旅ができることを伝え、納得してもらわなければならない。
 そこで考えられたのが、風評被害対策としてアジアの国々に向けて九州の魅力を発信する事業であった。これは、経済産業省が予備費から20.2億円を計上して実施した「九州地方の魅力発信による消費拡大事業」の中の一つとして組み立てられた。九州地方の商材・サービス等を取材し、番組や映像コンテンツを制作することにより、韓国、中国、台湾、香港、タイを対象として、地域のインフルエンサーや現地メディア、SNSなどを通じて、九州地方の魅力をPRすることを目的とした「海外メディアの招聘等を通じた地域産品・サービスの魅力の海外発信事業」として実施することとなった。事業規模は10億円で、地元のJTB九州が受託し、九州に来る観光客の多い上記の五ヵ国のテレビ、新聞、インターネット、SNSなどを使い、九州の魅力をビデオに映し、写真で切り取り、ブログで語り、伝える活動を展開したのである。
 名付けてOne Kyushu Project。熊本地震によって九州全体の観光産業が影響を受けたこと、九州各県の観光業が相互に依存し合っていることを考慮して名付けられた。
 私は、一般社団法人九州観光推進機構の中に6月に開設された九州観光広報センターの副センター長兼海外担当を務めているが、以前はテレビ東京にいて、ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」の企画・制作やニューヨーク支社の開設・運営を担当した経験があることからプロデューサーを委嘱され、この事業をサポートした。

風評被害を払拭する情報発信で意識したこと
 この事業はいわば、アジア五か国に対する九州全体のPR大作戦であるが、これを立案・執行する上で最も意識したのは、第三者観であった。
 「九州は大丈夫」と口で言うのは簡単だが、当事者である九州が言っても説得力がない。自画自賛とか、我田引水と言われて信用されない。ところが、これを他人が言うと説得力が増すのである。五か国それぞれの信用ある人々が九州を旅して、ああ楽しかった、また来たいな、観光面では地震の影響はあまりないな、などと言ってくれるのが、一番説得力があるのだ。地震や災害が多い日本にとっては、災害からの回復力の強さ、インフラの充実、災害を共に克服する団結力等を、海外の観光客に印象付けることは、非常に重要なのである。
 One Kyushu Projectでは、これらのことを念頭において企画を構成した。コンテンツは、メディアの多様化を反映して、映画、テレビ番組、動画のネット配信、新聞、ブログ、SNSなど多様であった。映像や情報のコンテンツを作るだけでは十分ではなく、これらのコンテンツが多くの人々に見られる状態にしなければならないので、媒体の確保も必要だった。五ヵ国のメディアの普及事情は一様ではないので、それぞれの国のメディア状況に合わせた対応が求められた。
写真1 One Kyushu Projectのホームページ http://one-kyushu.com/jp/

 この事業のホームページでは、簡体字中国語、繁体字中国語、韓国語、タイ語、英語と日本語の6ヵ国語で読むことができるようにした。九州を旅した人々が感じたことを母国語で語るのがその国の人々には最も説得力があるのだ。
 情報を発信する主体もコンテンツを制作する主体も日本人だけに依頼したのではなかった。タイのテレビ局は、タイ人のレポーターが熊本県庁にくまモンを訪ね、インタビューをするテレビ番組を制作した。北京電影学院という中国国営の映像制作者養成大学の教授や学生12人は、12日間九州を旅行して彼らが見た九州を撮影し映像コンテンツにまとめ、それを中国国内のWEBメディアで発信した。アジアの五ヵ国それぞれで100万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーと呼ばれるブロガーたちが九州を旅してブログを書きSNSで発信した。東京で活動するドイツ、イタリア、アメリカ、韓国、中国、台湾、香港の記者たちが九州を旅して、それぞれの新聞・雑誌・テレビでレポートした。第三者が旅して見て味わい、体験し、記録した九州、それがテーマだった。

中国を対象とした取り組み
 この事業の全ての事例を紹介したいのだが字数が限られているので、中国における展開について報告する。
 中国は今や世界最大のWEBメディア先進国だ。インターネットユーザーは2016年6月に人口の半分以上の7億人超に達した。ネット利用者の92.5%は携帯電話でインターネットを利用しており、4分の1に当たる1億7,000万人は携帯電話だけでネットを使っている。インターネットで動画を見るユーザーは5億人を超え、そのうち4億4,000万人は携帯電話で動画を見ている。ネット通販利用者は4億5千万人を超えた。ネット動画はテレビ放送を凌駕し、ネット通販も店舗販売を凌駕している。メディアを使って広報をすると言っても、公共放送と民間放送が全国に放送網を展開し、それをインターネットが追う日本とは事情が大きく違っているのだ。こういう中国を対象として、私たちが実施したことをまとめたのが次の表である。

中国向けの情報発信(言語:簡体字中国語)のまとめ
 これらのコンテンツの中で、注目すべきは「鮮游記」だ。「フクロウの店」や「鉄なべ餃子店」を訪ねた第1集から、「白川水源」と「武雄温泉」を訪ねた第10集まで10本を公開しているが、それらの再生回数(ネット上で視聴された回数)を合計すると2017年1月17日現在、一千万回を突破している。再生回数が90万回だった第1集以外は、全て百万回を超えている。
表2 中国のインターネット動画番組「鮮遊記」の九州特集の再生回数  他の国々においても、同様に複数のメディアを組み合わせて展開した。基本である第三者観重視の方針は堅持し、それぞれの国で影響力のある個人や機関がその国の言葉で情報を語るようにした。

震災を超えて
 「九州ふっこう割」と「九州の魅力発信事業-One Kyushu Project」等の取り組みや観光業界関係者の努力によって、2016年に九州を訪れた海外の観光客の数は、震災後の5月に大きく落ち込んだものの、最終的には2015年を上回り370万人程度になる見通しである(推計値)。
図2九州における直接入国外国人数(2016年)
 震災復興はまだまだこれからである。2017年は「九州ふっこう割」がなくなるので、「九州ふっこう割」に喚起された需要のリバウンドが気になるところだ。九州にとって観光産業は裾野が広い基幹産業であり、今回の経験を基に今後とも海外に向けて効果のある情報発信を積極的に継続して行かなければならない。
 今回の事業を通して、海外の人はこういうことが面白いのか、と気づくことも多々あった。どんなビジネスでも、お客様の満足が最も重要である。観光客が喜ぶことが観光業にとってのゴールなのだから、観光客が面白いと感じたり興味を示したりするものについて私たちはもっと知らなければならない。
 熊本地震でわかったことは、地震の影響は一県に止まらず、九州全体の観光業に及ぶことであった。九州各県の観光地は相互に依存し合っているのだ。これは、大変に大きな気づきであった。今回の事業に「One Kyushu Project」というタイトルを付けたのも、九州はひとつであり、ひとつの九州をアピールして行こうという気持ちからである。九州の各県が連携してひとつの九州を魅力的な観光地としてアピールして行く活動を今後一層推進して行くべきだと考えている。

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