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トランプ政権成立の衝撃と今後の日米関係 東京大学 大学院法学政治学研究科 教授 久保 文明【配信日:2017/01/31 No.0262-0263-1031】

配信日:2017年1月31日

トランプ政権成立の衝撃と今後の日米関係

東京大学 大学院法学政治学研究科 教授
久保 文明


 トランプ次期大統領の日本観は同盟国という視点が弱く、孤立主義・保護貿易主義の傾向を持つ点で、衝撃的である。尖閣諸島への防衛義務を引き継ぐかどうかがまずは注目される。日本は日本なりの努力をして、同盟関係の再構築を目指すべきである。


はじめに
 トランプ氏の政策について分析する際には、独特の困難がつきまとう。発した言葉をどの程度真剣にうけとめるべきか、という問題である。補佐官らの説明を聞かず、知識や理解なく、思い付きでなされている発言も少なくない。すぐに撤回・修正される場合も多い。ここではその点に留意しながら、分析を進めたい。

対日観・国際政治観
 ドナルド・トランプ次期大統領の対日観が、歴代大統領のそれと大きく異なることは明らかである。
 現在の日米安全保障条約は、日本がアメリカの防衛義務を負わないにもかかわらず、アメリカのみが日本防衛義務を負っていて不公平であるというのがトランプ氏の持論であり、日本に対して核武装を含めた自主防衛も促した。
 2016年3月21日、ワシントン・ポスト紙によるインタビューにおいて、人件費を除いた日韓の米軍駐留経費のうち、50%を日韓が負担していることを指摘された際、「なぜ100%ではないのか?」と答えた。海外に基地を有することで米国は利益を得ているかという質問には、「個人的にはそう思わない」と述べた(計算の仕方にもよるが、日本側の負担は約75%と説明されることが多い。)
 トランプ氏の外交政策は、孤立主義、保護貿易主義と形容できよう。選挙戦での発言から推測する限りでは、その発想は、「砦に籠るアメリカ」(fortress America)的なものである。それはまさにトランプ氏が作ると言っている壁に象徴される。巨大な物理的か抽象的な壁を作って、不法移民やイスラム系移民を、さらには中国や日本からの安い商品の流入を阻止する。
 選挙戦中、中国に対して厳しい言葉が投げかけられたが、それはほとんどが通商問題についてであった。しかし、当選後は台湾総統と電話会談を行い、また「一つの中国」政策に縛られない方針を示唆した。さらに南シナ海での中国の軍事活動を牽制した。ただし、まだ人権問題について批判的に語ったことはない。
 トランプ氏の国際政治観について特徴的なのは、それがかなりの程度、お金の損得勘定とその取引の軸から成り立っていて、価値観や戦略目標の共有などの要素が欠落していることである。
 むろん、大統領に就任後、以上の路線がそのまま政権の政策になるわけではないが、上に記したものがトランプ大統領の国際政治観の初期状態(デフォールト)であることを忘れてはならない。
 実際の外交政策は、第一にどのような人事が行われるかに大きく左右され、第二に、大統領がどの程度部下に政策の選択や権限を委任するかによる。そして第三に、トランプ自身がどの程度選挙戦での外交公約を修正するかである。
 現在、国務長官にはレックス・ティラーソン、国防長官にはジェームズ・マティス、安全保障担当大統領補佐官にはマイケル・フリンが指名された。彼らは必ずしも、トランプ大統領が選挙戦で見せてきた孤立主義は共有していないようである。

試金石としての尖閣問題
 11月17日に安倍首相がトランプ氏と会談したのは画期的なことであった。内容は公開されていないものの、ここで首相は、日米安全保障条約の基礎をトランプ氏に説明したものと推測される。日米同盟は権利と義務について非対称的な同盟であり、両国が異なった内容の権利と義務を約束し合っている。第5条ではアメリカの日本防衛義務が規定されるが、第6条ではアメリカが日本の基地を「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」に、すなわち朝鮮半島、台湾海峡などに派遣されるべく使用する権利が明記される。西太平洋地域におけるアメリカ軍の展開を支えているのは、かなりの程度日本の基地である。また、最近の平和安保法制によって、条件が揃えば日本はアメリカのためにアメリカとともに戦うことも可能になった。このような点すべて、トランプ氏が知らないことであろう。
 付言すれば、日本はアメリカの職を奪っているとトランプは主張するが、日系企業はアメリカにおいて、およそ90万の雇用を創出している(経団連による)。
 TPP反対の態度を変えるのは困難であろうが、日米同盟については、その基礎を理解することによって態度を変えることは可能かもしれない。中国に安全保障面でも強硬になれば、同盟国日本の重要性も高まるであろう。
 日本にとって死活的に重要なことは、トランプ次期大統領に、公式発言として尖閣防衛を確約させることであろう。オバマ大統領のこの発言を引き継ぐかどうかが、トランプ対日外交の、さらにいえばその同盟外交の試金石であろう。
 もしトランプ政権がこれを避けた場合、日米同盟は大きな危機に直面する。同時に、アメリカのすべての同盟がその土台から揺らぐことになろう。そして早晩、尖閣諸島周辺における中国の挑発が拡大するであろう。逆に、これまでの外交慣例に囚われない発想からすると、尖閣諸島に対する日本の主権の所在を認めることもありうる。普通の政権交代と比較すると、最悪から最善までの幅がきわめて広い。日本側も警戒すると同時に、想像力を働かせる必要がある。

トランプ政権誕生の衝撃
 選挙戦中の発言とはいえ、アメリカで正面から孤立主義を提唱する大統領が当選したことは衝撃である。中長期的には、アメリカでは今後もこのようなことはありうると想定せざるを得ないが、日本は短絡的に同盟破棄、核武装、中国との連携などを考えるべきではない。トランプの対日観自身今後変化の可能性があり、なおかつアメリカの外交安全保障専門家のコンセンサスは、依然国際主義であり、同盟堅持である。
 孤立主義・保護貿易主義の理念に立脚したシンクタンクは、アメリカにはほとんど存在しないし、その専門家の数も少ない。
 しかも、孤立主義的政権は短期間で姿を消すかもしれない。日本で2009年に政権交代が起こり、「アメリカを除外した東アジア共同体」が提唱されたりした。その際、アメリカは日本の漂流を懸念したであろう。しかし、2012年に日本は元の外交路線に回帰した。
 今後のアメリカが、これまでと同様確固として国際主義を堅持するかどうかについて、これまでほど確信が持てなくなったことは確かである。しかしながら、専門家レベルではまだ大きな変化は起きていない。あえていえば、エリートが一般国民を説得する能力が弱まっていることが懸念材料であろう。
 安全保障政策を考える際の出発点は、日本にとっての脅威の深刻さの評価であり、それに対して日本単独で対応すべきなのか、同盟政策を選択すべきなのかの検討である。脅威が存在することは確実であり、防衛費の増額など、日本独自で努力すべき点もあると思われる。その上でアメリカとの同盟を維持・強化する方が安全保障はより堅固なものとなろう。同盟には逆境のときもあるが、辛抱強い説得と日米双方の努力の積み重ねが必要であろう。

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