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首相、改憲に意欲示すも道険し =「2020年施行」提案、9条に言及= 時事通信解説委員長 山田惠資【配信日:2017/05/31 No.0267-1043】

配信日:2017年5月31日

首相、改憲に意欲示すも道険し
=「2020年施行」提案、9条に言及=

時事通信解説委員長
山田 惠資


 安倍首相は5月3日、2020年までに改正憲法の施行を目指す考えを表明した。特に憲法改正の本丸である戦争放棄をうたった憲法9条の改正にも踏み込んだ。ただ、これまで事実上封印してきた「9条」をも改正対象に挙げたことには唐突な印象が拭えず、実現への道のりはなお険しいと言えよう。


 「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」-。憲法施行70年を迎えた今年(2017年)5月3日、安倍晋三首相は保守系団体主催の改憲推進フォーラムにビデオメッセージを寄せ、2020年までに改正憲法の施行を目指す考えを表明した。特に憲法改正の本丸である戦争放棄をうたった憲法9条の改正にも踏み込んだほか、高等教育の無償化にも言及した。

 安倍首相は、現行憲法を改正した初めての首相として歴史に名を残したいと考えている。ただ、首相がこれまで事実上封印してきた「9条」も改正対象に挙げたことには唐突な印象が拭えず、実現への道のりはなお険しいと言える。

●議論促す
 5月8日の衆院予算委員会集中審議で、安倍首相は憲法改正の施行目標を2020年とした理由について「自民党総裁としての考えを公にした。国会における議論を活性化させるためだ」と説明し、自民党役員会で改憲論議の加速を指示した。

 昨年7月の参院選で自民党は大幅に議席を増やし、公明党と合わせて3分の2以上の勢力を獲得。これによって国民投票のための改憲案発議が可能となった。にもかかわらず衆参両院の憲法審査会の論議は遅々として進んでいない。今年1月20日に召集された今国会(第193回国会)中に開かれた衆院憲法調査会は、首相の改憲発言があった時点では3回開催されただけ。一方、参院は一度も開かれていなかった。こうした状況に「首相自身はいら立ちとともに、焦りを募らせていた」(政府関係者)とみられる。

 自民党は先の党規約改定で総裁任期をこれまでの2期6年から3期9年に延長。これによって安倍首相は、来年9月の総裁選で3選を果たし、首相任期は最大21年9月まで続くとの見方が有力だ。ただ、改憲の手続きの量を勘案すると必ずしも十分とは言えず、改憲論議のペースを急ぐ必要があると判断しているようだ。

●公明、維新に配慮
 首相の改憲発言には、自民党と連立政権を組む公明党への配慮の側面もあろう。公明党の支持母体である宗教組織「創価学会」は改憲に否定的な考えが根強い。特に9条については一段と厳しい眼を向けているとされる。

 そうした中、首相は5月3日のビデオメッセージで、憲法9条について、戦争放棄をうたう1項と戦力不保持を定める2項を維持しつつ、自衛隊の条文を第3項として加える案を提示した。現行憲法に新項目を加える方法は、公明党が掲げてきた「加憲」と重なる。しかも首相が対象項目として挙げたのは、公明党がかつて示した「自衛隊の明記」だ。自民党は2012年策定の改憲草案で、「国防軍」創設を打ち上げている。改憲における首相の最大の眼目も実はこの国防軍創設にあると見られているが、そこをあえて自衛隊の明記に「格下げ」して、公明党との合意点を探ろうとしたわけだ。

 首相はまた、改憲論議で取り上げるべき課題として教育問題も取り上げ、「高等教育も全ての国民に真に開かれたものにしなければならない」と語った。日本の維新の会が憲法改正による高等教育の無償化を挙げていることを念頭に置いたものだ。改憲勢力として維新の会を取り込む狙いがあるのは明らかだ。

●国民投票「19年夏」念頭か
 日本の改憲の手続き上は、あくまで立法府である国会に委ねられている。改憲案の対象項目は衆参両院の憲法審査会で絞り込み、衆参両院での3分の2以上の賛成によって原案を発議。国民投票法では、発議から60日から180日以内の間に投票を実施すると規定している。

 首相が目指す2020年施行に間に合わせるための国民投票の時期としては、いくつかのシナリオが存在する。中でも国政選挙との同時実施を有力とする見方がある。理由は「単独実施より高い投票率が予想され、それが改憲案の過半数支持に、より有利に働く」との読みからだ。

 その場合、最短なら国民投票を来年秋に衆院選と同時実施することが想定される。ただ、このケースでは来年夏までには改憲項目を絞り込んで、改憲案を国会で発議する必要があり、日程的にはかなり窮屈となる。このため、「首相は2019年夏の参院選との同時実施を念頭に置いているのでは」と指摘する向きもある。

 それ以降だと2019年秋から暮れにかけての単独実施のケースも浮かんで来る。ただ、この年は春に統一地方選が実施されるほか、10月には消費税率10%への引き上げが予定されている。国民投票に向けた与野党協議は、これらの政治日程とも絡んで複雑な駆け引きが展開される可能性もある。

●ハードルとリスク
 一方で、改憲実現までのハードルは決して低くないことも留意する必要がある。
 確かに世論の動向は改憲賛成・容認派が増加しつつある。毎日新聞の調査(今年(2017年)4月下旬実施)によると、賛成は48%で昨年4月の調査より6ポイント増、反対は33%で9ポイント減だった。日経新聞の調査(同)でも憲法改正について「現状のままでよい」との回答が昨年4月調査と比べ4ポイント減の46%、「改正すべきだ」は5ポイント増の45%でほぼ拮抗した。

 とはいうものの、昨年夏の参院選での世論調査によると、改憲は国民にとって優先順位の高い政策課題ではない。今年1月の時事通信の世論調査でも、改憲を優先的に取り組むべき課題としたのは36%にとどまり、49%とほぼ半数の人が否定的だった。

 民進、共産など野党各党は、安倍首相が自民党総裁としての立場で改憲に踏み込みながら、首相としては深入りを避けていることに強く反発、態度を硬化させている。また、与党内の一部からも、首相が改憲に前のめりなことに疑問の声が上がっている。石破茂前地方創生担当相は、憲法9条に自衛隊を明記した条文を加える案について「自民党の今までの議論にはなかった考え方だ」と疑問を表明。自民党の別の閣僚経験者も「なぜ改憲をそんなに急ぐのか」と首をかしげる。

 公明党にも首相が改正憲法の2020年施行を提案したことに戸惑いがある。山口那津雄男代表は5月9日の記者会見で「自民党の議論を見守る」と述べるにとどめた。また公明党として、2015年の安全保障関連法成立を受けて9条を加憲対象から事実上除外したことを踏まえ、山口氏は、「公明党の基本的立場は変わってない」と指摘している。

 こうした状況を踏まえると、首相の思惑通りか改憲論議が加速するかは、依然不透明だ。まして改憲原案が国民投票で過半数の支持を得られる保障もない。首相の改憲前のめりの姿勢は賭けでもある。防衛相経験者の一人は「これで改憲が逆に遠のかなければよいが」とつぶやいた。


[プロフィール]
山田惠資(やまだ・けいすけ)
時事通信 解説委員長
1982年に上智大学を卒業し、時事通信に入社。政治部記者、ワシントン特派員、政治部長、仙台支社長などを経て、2016年7月から現職


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