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シリーズ「インバウンド観光推進」(No.9) 東北の四季と日本文化を体感しながら巡る『東北酒蔵街道』 東北・夢の桜街道推進協議会 事務局長 宮坂 不二生【配信日:2017/09/29 No.0271-1055】

配信日:2017年9月29日

シリーズ「インバウンド観光推進」(No.9)
東北の四季と日本文化を体感しながら巡る『東北酒蔵街道』

東北・夢の桜街道推進協議会 事務局長
宮坂 不二生


 東北復興支援の強化策の一環として始まった『東北酒蔵街道』プロジェクトは、100酒蔵が参加するネットワークを活用した、酒蔵ツーリズムによる面的再生に努めており、インバウンド誘致策として、今後さらに磨きをかけてまいります。


東北復興支援プロジェクトとして誕生した「東北・夢の桜街道」

 2011年3月の東日本大震災に伴い未曽有の被害を受けた東北地方では、被災地以外でも観光客の足がぱったりと遠のくなど、二重に厳しい局面に立たされました。東北の早期復興のため、同年12月に民間主導で設立された官民連携の地域づくり団体、「東北・夢の桜街道推進協議会」では、定住人口減少時代の地域振興に当たっては、“交流人口の増加”こそが最善策と考え、「東北・夢の桜街道」プロジェクトを立ち上げました。

 「東北・夢の桜街道」は、日本人にこよなく愛され、かつ東北に広く点在するコモンズ(共有資源)としての美しい“桜”を東北復興のシンボルに掲げ、新たに選定してネットワーク化した「桜の札所・八十八ヵ所」を、東北復興への祈りを捧げながら巡るという、桜旅による東北の面的復興支援運動です。この観光振興運動は、多くの方の共感を呼びました。

約1000本の桜が咲く鶴ヶ城公園の桜。ソメイヨシノを中心に開花時期が異なる様々な桜が植えられており、長く鑑賞することができる。(福島県会津若松市)

約1000本の桜が咲く鶴ヶ城公園の桜。ソメイヨシノを中心に開花時期が異なる様々な桜が植えられており、長く鑑賞することができる。(福島県会津若松市)

 当協議会では、まずホームページや携帯マップの制作により「東北・夢の桜街道」をPRしたほか、バス、鉄道による桜の旅行商品の販売や桜の札所スタンプラリーを通じて国内観光客の誘致に努めました。そして、その2年後には、高い経済効果が見込まれる訪日外国人観光客(インバウンド)の誘致にも力を入れ始めました。2014年には、観光庁の春の訪日プロモーション事業の一環として、親日家の多い台湾において、地下鉄1編成6両の車体に桜街道のラッピング広告を施した列車を1か月間走らせたところ、現地で大きな反響を呼び、台湾からの旅行客が前年に比べ3割も増加しました。

東北復興支援を強化する『東北酒蔵街道』の創設

 東北・夢の桜街道運動が成果を上げるにつれ、桜咲く春以外の季節でも東北復興支援事業が展開できないかとの声が上がり、2015年10月に、新プロジェクト『東北酒蔵街道』(80酒蔵が参加)を立ち上げました。東北は日本有数の酒処です。東北各地に点在する“酒蔵”を、秋からの新酒シーズンに紅葉の名所や温泉を満喫しながら巡るというアイデアです。2013年12月にユネスコの無形文化遺産に登録された和食とも密接な日本酒が海外で評価される中、深まりゆく東北の美しい紅葉の秋に日本酒の蔵元を訪ね、和食に舌鼓を打つ温泉旅行は、国内外で歓迎されると考えました。

鳴子峡の紅葉。深さ100メートルに及ぶV字峡谷には、種類豊富な木々が鮮やかに色づく。近くには渓谷に沿って続く自然遊歩道がある。(宮城県大崎市)

鳴子峡の紅葉。深さ100メートルに及ぶV字峡谷には、種類豊富な木々が鮮やかに色づく。近くには渓谷に沿って続く自然遊歩道がある。(宮城県大崎市)

 水とお米からできる日本酒の醸造過程は独特です。例えば、一つのタンクの中で糖化(麹菌の働きによりデンプン質を分解して糖分にする)と発酵(酵母の働きにより糖分を分解してアルコールにする)を同時に行う「並行複発酵」は、世界に類を見ない発酵技術です。他にも、徐々に発酵を促すために、“醪(もろみ)”を造る工程を3回に分けて仕込んでいく三段仕込みや、さらに醸造前の段階で精米歩合50%以下にお米を磨き上げる(玄米を削り白米にする)精米技術など、複雑で手間のかかる工程があり、それが日本酒独特の深い味わいを醸し出しています。酒蔵を訪ねたインバウンドの方は、これらの酒造技術について知れば知るほど、複雑で微妙な味わいや香りを生む酒造りにかける蔵人の緻密で繊細な職人技に感嘆することでしょう。

麹造りは酒の品質を決めるとも言われる重要な工程。蒸した米に種麹をふりかけ、数日間培養する。麹菌の繁殖に応じた繊細なコントロールが求められる。

麹造りは酒の品質を決めるとも言われる重要な工程。蒸した米に種麹をふりかけ、数日間培養する。麹菌の繁殖に応じた繊細なコントロールが求められる。

 一方、伝統的な日本の神社で挙げる結婚式の儀式の一つである、三三九度の杯(日本酒)を交わして契りを結ぶ日本の花嫁姿や、結婚式などの祝いの席で行われる鏡開き(日本酒が入った樽の蓋を割る儀式)を見れば、いかにお酒が日本の生活文化に深く根差しているかを感じるに違いありません。

 元来、酒蔵の各蔵元は保守的で個性が強く、連携は苦手とする方が多いこともあって、今回のプロジェクトの実現を危ぶむ声が多かったのも事実です。しかし、「東北・夢の桜街道」の成功が、『東北酒蔵街道』というネットワーク連携に踏み切る切っ掛けとなったと語る蔵元も少なくなく、今や日本最大の広域的な「酒蔵ツーリズム」のネットワークに育っています。

 当協議会では、2016年4月に「東北・夢の桜街道」のホームページに『東北酒蔵街道』を追加し、1年後には参加酒蔵が100蔵に達しました。これと歩調を合わせ、現地で酒蔵巡りをサポートする携帯マップやスマホ版の無料ガイド・ナビアプリも開発し、各蔵元さんの生の映像メッセージも掲載しています。さらには、地元の交通機関と連携する形で酒蔵巡りの旅行商品も販売され、成果を上げつつあります。
http://www.tohoku-sakurakaido.jp(日本語)

 なお、『東北酒蔵街道』でもインバウンド戦略をスタートさせており、2016年12月、台湾の台北市で開催された日本紹介イベントに、『東北酒蔵街道』と題して試飲コーナー付きでブース出展をしたところ、会場には11万人を超えるお客様が押し寄せるなど、台湾の皆さんの日本酒に対する関心の高さに圧倒されました。

多くのお客様で賑わった出展ブース(台湾の台北市)

多くのお客様で賑わった出展ブース(台湾の台北市)

日本の四季が彩る魅力的な『東北酒蔵街道』への発展

 日本には美しい四季があります。東北復興支援を重ねていくうちに、日本酒を軸に四季折々の体験を絡めた通年型の旅行商品を提供できるのではないかと閃きました。

 春は美しい満開の桜や花吹雪の下で酌み交わす「花見酒」、夏になれば伝統的な夏祭りで振る舞われる威勢の良い「祭り酒」、深まる秋から始まる「新酒」シーズンの酒蔵体験、冬の雪景色の中でしみじみと味わう「雪見酒」です。これにより、日本人は勿論のこと、インバウンドで訪れる方も、日本の四季に彩られた『東北酒蔵街道』で、地方の美味しい日本酒と日本の自然や伝統的な文化を一緒に体験できる新しいタイプの「酒蔵ツーリズム」を心から楽しめるのではないでしょうか。日本の四季を強調することにより、リピーターとしてのインバウンドに期待感も膨らみます。

蔵王の樹氷。特殊な気象条件が生み出す世界でも珍しい自然の芸術品。独特な形状から「スノーモンスター」とも呼ばれる。(山形県山形市)

蔵王の樹氷。特殊な気象条件が生み出す世界でも珍しい自然の芸術品。独特な形状から「スノーモンスター」とも呼ばれる。(山形県山形市)

 因みに、観光というと、どうしても一つの観光資源にフォーカスし、他と差別化するため、“点”で捉えることが多いのですが、桜、祭り、酒蔵、雪といった身近な資源を広域の“面”で捉え直して観光資源化する手法は、独創的で予算規模も小さくて済みます。

 当協議会では、目下、東北復興支援運動から始まった『東北酒蔵街道』が、今後、持続可能で魅力溢れる旅のスタイルとして発展・定着するよう検討を進めています。日本酒はバリエーションが豊富です。原料が一部異なる純米酒と本醸造酒(醸造アルコールを添加)、味わいが異なる甘口と辛口、淡麗と濃醇、飲む際の温度が異なる冷酒と燗酒など、食中酒の芸術品とまで称される日本酒文化の極みをご堪能いただきたいと思います。そして、是非多くのインバウンドで訪れる方々に飲み比べていただき、自分好みのお酒を見つけていただければと思います。これから造成する酒蔵ツアーの中に、多くの酒蔵から集めたお酒の飲み比べ体験ができる場面を設ける予定です。

五所川原立佞武多の祭り。高さ20mを超える巨大な山車が「ヤッテマレ!ヤッテマレ!」の掛け声のもと、市街地を練り歩く。(青森県五所川原市)

五所川原立佞武多の祭り。高さ20mを超える巨大な山車が「ヤッテマレ!ヤッテマレ!」の掛け声のもと、市街地を練り歩く。(青森県五所川原市)

 当協議会では、ホームページ、携帯マップ、ガイドアプリなどの多言語化を推進すると共に、東北の二次交通の整備の必要性を発信し、酒蔵へのアクセスの改善に努めます。さらに、インバウンドで“酒蔵”を訪れる方々が気持ち良く酒蔵体験ができるよう、酒蔵ならではのマナー周知も含め、酒蔵側の受入体制の整備(サポートガイド・マニュアル、酒蔵の誘導看板等の標準化)を行っていきたいと考えています。

 2017年6月、全国ベースでの官民連携の「日本酒蔵ツーリズム推進協議会」が発足しました。当協議会としても、全国と連携・協力しながら「酒蔵ツーリズム」のさらなる普及・発展に邁進したいと考えています。



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