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北朝鮮問題―国際社会はなぜ一致団結出来ないのか? 南山大学 教授 平岩 俊司【配信日:2017/10/31 No.0272-1058】

配信日:2017年10月31日

北朝鮮問題―国際社会はなぜ一致団結出来ないのか?

南山大学 教授
平岩 俊司


 北朝鮮の非核化について、国際社会は一致団結して北朝鮮に向き合うことができない。北朝鮮をめぐる周辺国の認識のズレはどこから生じているのだろうか。


 米国トランプ大統領と北朝鮮の舌戦が止まらない。2017年7月に北朝鮮は2度にわたってICBM発射実験を強行した。国連安保理は8月5日に決議2371を採択したが、北朝鮮は反発し「いかなる最終手段も躊躇しない」としてアメリカを挑発した。すると、トランプ大統領は「米国をこれ以上脅かさないのが、北朝鮮にとって最善の策」「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」とし北朝鮮を挑発する。今度は北朝鮮が「アメリカに厳重な警告信号」として、グアム島周辺へのミサイル射撃計画を宣言し、トランプ大統領について「絶対的な力しか、あの男には通用しない」とした。北朝鮮とトランプ大統領の間で奇妙な非難のキャッチボールが成立してしまったのである。

 この後、9月3日、北朝鮮はついに通算6回目の核実験を強行した。国連安保理は、北朝鮮の生命線とも目される北朝鮮への原油、石油について制限を加える内容を含んださらなる決議2375を採択して圧力を強めていた。このような流れの中で開催された国連総会で舌戦はピークに達したのである。

 9月19日に国連総会で演説を行ったトランプ大統領は、「米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる」としながら、金正恩国務委員長をロケットマンと揶揄しながら核実験、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮を「自殺行為」とした。

 当然北朝鮮は反発し、金正恩委員長の声明を発表した。最高指導者の名義で出されたはじめての声明では、「トランプが世界の面前で私と国家の存在そのものを否定して侮辱し、わが共和国をなくすという歴代最も暴悪な宣戦布告を行った」「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するであろう」としたのである。さらに国連総会の一般討論演説をおこなった北朝鮮の李容浩外相は「米国全土に我々のロケットを打ち込むことがますます避けられなくなる」と警告した。これに対してトランプ大統領がツイッターで、李容浩外相の発言について「小さなロケットマンの考えを反映した言葉だったとすれば、彼らはもう長くないだろう」としたため、李外相があらためてこの発言を「宣戦布告」としながら「我々には自衛の対抗措置を取る権利がある」「米軍の戦略爆撃機が我が国の領空に入っていなくても撃ち落とす権利」が含まれるとしたのである。まさに一触即発の様相といえよう。

 とはいえ言葉の激しさにもかかわらず、この一連のやりとりで、米国も北朝鮮も反撃能力を誇示しているだけで、自ら先に戦端を開くとは言っていない。李外相は国連演説で、「核戦力は米国の核の脅威を終わらせ、軍事侵攻の予防のため」としていたし、一方の米国も、トランプ大統領の発言を「宣戦布告」とする北朝鮮に対してホワイトハウスのサンダース報道官が米国は宣戦布告をしていないと否定し、「率直に言ってばかげている」としたのである。偶発的事態への注意は必要とされるものの、軍事衝突の危機がすぐそこに迫っているという訳ではなさそうである。

 とはいえ既述の2度にわたるICBM発射実験、通算6回目の核実験によって状況が悪化していることは間違いない。米国は明らかにしていなかったものの、これらはいずれも米国にとってのレッドライン(許容できない一線)であろうと思われていた。にもかかわらず北朝鮮が強行したのは、米国にとって軍事行動がきわめて難しい、との判断があったからと言わざるを得ないが、アメリカにとって本当のレッドラインがどこにあるかはわからない。既述の国連演説で李外相は、「核戦力の完備の最終門から数歩のところまできた」「敵対勢力による厳しい制裁によって北朝鮮が1インチでも揺らぐと考えるのははかない望みだ」としたが、アメリカの本当のレッドラインがどこにあるかを探りながら核ミサイルの実験を繰り返してなんとか核抑止力を手に入れたいというのが北朝鮮の思いだろう。これに対して国際社会は一致団結して北朝鮮に向き合うことができない。どうして国際社会は一致団結できないのだろうか。

 北朝鮮の非核化については、米国、日本、韓国のみならず中国、ロシアもそれが最終目標であることを完全に共有しているといってよい。また、それを達成するための手段として「対話」と「圧力」の両方が必要、という点についても一致している。しかし、いずれに重きを置くのかについては一致できていない。北朝鮮に姿勢変化をさせるためにはまずは圧力が必要、とする日米韓にたいして、対話に重きを置くのが中ロである。こうした違いは北朝鮮の核ミサイル問題のとらえ方と、北朝鮮の体制についての認識の違いによるものと言ってよい。

 中ロは、北朝鮮が核保有にこだわる原因として、朝鮮半島の冷戦解体過程で、韓国が中ロと関係正常化したにもかかわらず北朝鮮は日米との関係正常化することができず孤立し、自らの安全保障について危機感を持ったことによる、という東アジアの安全保障体制が依然として未完の状態にあることに求めている。中国の提案する双暫停(北朝鮮の核開発と米韓軍事演習の同時凍結宣言)」と、ロシアの提案する「ロードマップ」は、いずれも東アジア安全保障体制の構築をめざす必要性を強調し、そのために米朝関係の改善を求めている。まさに、冷戦体制終結のやり直しが必要、との立場と言ってよい。一方の日米韓には、北朝鮮の挑戦的姿勢こそが問題であり、中ロが主張する安全保障体制の構築のためにはまずもって北朝鮮の核放棄が必要不可欠、との立場だろう。

 さらに、中ロには北朝鮮は圧力で自らの姿勢を変える国ではない、との認識があるのに対して、米国、日本は圧力を加え続ければ必ず姿勢変化せざるを得ないはず、との思いがあると言ってよい。プーチン大統領は「北朝鮮は雑草を食べることになったとしても、自国の安全が保障されない限り(核開発の)計画をやめない」としたが、中ロの判断は北朝鮮と向き合ってきた経験によるものだろう。これにたいして日米には、北朝鮮に対する圧力が足りなかったのだ、との思いがある。いずれの見通しが正しいのかは、北朝鮮の生命線とも思われる原油、石油に手をつけた国連決議2375の効果が出たとき、その答えは出るのかもしれない。

 また、最終目標に至るまでの時間についても国際社会は一致できていない。中ロは北朝鮮に急激な変化を求めれば、北朝鮮はそれに応じないし反発も予想されるとの立場だろう。しかし、かりに中ロの主張を尊重するとすれば、日米韓、とりわけ日韓両国にとっては、北朝鮮の非核化までの長い時間、事実上北朝鮮の核ミサイルとの共存を強いられることになる。日米韓としては当然北朝鮮の核ミサイルへの防衛体制の整備が必要不可欠である。中国は韓国のサード配備について激しく批判を続けているが、中ロには日米韓のこうした脅威認識についての配慮が必要不可欠だろう。

 このような認識のズレを前提とすれば、関係国が一致団結するためには、日米韓は中ロのイメージする東アジアの安全保障体制構築の必要性と、そのための長期間を要する問題解決のプロセスについて理解しなければならないだろうが、一方で中ロは、日米韓の脅威認識を理解しなければならない。はたして、この複雑な連立方程式に解はあるのか?国際社会の知恵が試されていると言ってよい。


執筆者プロフィール
南山大学 教授 平岩俊司

東京外国語大学外国語学部朝鮮語学科卒、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。韓国延世大学大学院博士課程留学。法学博士(慶應義塾大学)。松阪大学助教授、静岡県立大学大学院国際関係学研究科助教授を経て現職。この間、在北京日本国大使館専門調査員として中国・朝鮮半島関係、朝鮮半島情勢を調査・研究。2017年4月より現職。専門は、朝鮮半島をめぐる国際関係、北朝鮮政治外交、中国・朝鮮半島関係。



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