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シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(2) プーチン次期政権における外交政策の見通し カーネギー・モスクワ・センター所長 ドミトリー・トレーニン 【配信日:2018/1/31 No.0274-1064】

配信日:2018年1月31日

シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(2)
プーチン次期政権における外交政策の見通し

カーネギー・モスクワ・センター所長
ドミトリー・トレーニン


 ロシアの今後5年間の外交政策は、引き続き大国としての地位を強く主張する必要性に基づいて決まっていくだろう。対米関係は敵対的になり、対欧州関係は停滞する。日本からトルコまでを含めた大ユーラシアは、ますます重要な地域となるだろう。こうした背景において、対中関係の舵取りがモスクワの主要な中・長期的課題になる。


 2000年元旦からロシアの政権の座にあるウラジミール・プーチンが、2018年3月に予定されている大統領選に勝利することは、ほぼ確実であろう。そうなれば、プーチンはさらに6年間権力を握り続けることになる。この18年間、プーチンはモスクワの外交政策の立役者であり、外交の基本が変化する見込みはほとんどない。とはいえ、2014年のウクライナ危機によって、ソ連崩壊後のロシア外交政策の2本柱――ロシアと西側諸国との統合(「大欧州」と「欧州大西洋安全保障」)とロシア主導による旧ソビエト国境諸国の統合(ウクライナを含む本格的な「ユーラシア連合」)――が同時に崩壊した結果生まれた新たな国際環境に合わせて、戦略と戦術は調整しなければならないだろう。

 ウクライナ危機以降、ロシアは世界地図における自国のポジションを変えてきている。アジアや中国の方に軸足を置くのではなく、大ユーラシアのど真ん中で支配力を持つ地位に就いた。もはや欧州連合への参加や旧ソ連邦の再統合は追求することなく、自国を、広大な近隣諸国の中で独立した大国として位置づける全方位外交を採り入れている。クレムリンはどこかの地域を特に優先するのではなく、好機を見出した場所で――ただし面倒な義務は引き受けることなく――自国の利益を拡大しようとしている。中国の増大する力、インドの台頭、中東の対立の先鋭化、西側との関係の破綻に直面しつつ、この構えを維持するのは容易ではないだろう。しかしこれこそがまさに、見通しうる将来におけるロシアの行動の枠組なのである。

 2018年、ロシアは米国と対立し、欧州とは疎外し合い、国境では敵対するウクライナと対峙する状況に陥っている。米露対立は本質的に世界秩序の問題であり、世界秩序におけるロシアの地位と役割の問題である。この対立は、略して「ハイブリッド戦争」"Hybrid War"と呼ぶことができる。その特徴は、厳しい地政学的な逆境、制裁その他制限という形での経済戦争、事実上ルールのない情報戦争である。冷戦と比べ、この新たな対立は格段に動的である。グローバル化した経済・情報環境の中、物理的障壁はなく、多くの場合相手方のホームグラウンドでの戦いとなる。

 米露の対立は米国の国内政局と共振しており、いずれにせよドナルド・トランプ大統領と反トランプ派との国内論争が解決するまで、関係の安定化は見込めそうもない。また国内論争が解決した後であっても、米国のロシアに対する政治姿勢が軟化する可能性は低い。米国の政治指導層の多くにとって、ウラジミール・プーチンが大統領である限り、対露関係の正常化はありえない。つまりモスクワからすれば、ワシントンからの前向きな姿勢は現実的にほとんど期待できないということである。それどころか、米国の対露圧力は短・中期ともに強まるとみられている。

 クレムリンの主要な目標は、この圧力に断固たる態度で臨み、米国にロシアの政権を弱体化させる機会――例えば経済制裁や人的制裁を通じて――を与えないことである。モスクワはウクライナ、クリミア、シリアに関して大幅な譲歩はしないだろう。しかし同時にまた、中東、アフガニスタン、北朝鮮とイランの核問題、テロとの戦いにおいては、相互に受け入れ可能な条件で米国と進んで連携するだろう。戦略的安定は特に重要な問題の一つとなる――INF条約や新STARTの運命は今後数年で確定する。既存の軍事格差が解決されることにまだ望みはかけつつも、ロシアは軍縮なき世界に備えている。

 欧州各国は政治・軍事両面で米国の盟友だが、モスクワは欧州を米国のような敵対国とはみていない。モスクワの対EU関係における目標は、緊張の段階的緩和と最終的な制裁解除に焦点を絞っている。モスクワにとって残念なことに、EU主要国であるドイツやフランスの指導者はロシアの政策とその決定要因に懐疑的な態度をとっている。こうした状況にあって、ロシアが望みをかけるのはクレムリンの外交政策の理論的根拠により「理解」を示す国――イタリア、オーストリア、ギリシャ他数カ国――並びに欧州全域の経済界だろう。言うまでもなく、モスクワはポーランド、バルト諸国、スウェーデン、英国などいくつかの国々や、もちろん米国からも、きわめて強い反発を受けている。ロシアの対欧関係で進展があるとしても一様ではなく、不確実なものとなろう。

 ウクライナの情勢は露欧関係に重くのしかかるだろう。しかし、ドンバスでの紛争が今後5~6年で解決されることはなさそうである。クリミアにおけるロシアの存在をウクライナが認めるのは、数十年、下手をすれば何世代も先のことである。一方、モスクワはドンバスにおける紛争激化のリスクに対処する必要があり、ウクライナは中長期的にNATOに加入することや米国の正式な同盟国になることはないとしても、その不安定な内政にもかかわらず、ロシアにとって永続的な安全保障上の懸念であり続けるだろう。

 大ユーラシアのそれ以外の地域は、ロシアにとって状況は悪くはない。モスクワは中東で躍進している、すなわち、シリアへの軍事介入の重要な段階を成功裏に終わらせ、再び主要な外部勢力に返り咲いている。クレムリンはこの新たに手に入れた地位を利用し、地政学的、戦略的、商業的その他の利益を拡大するだろう。中期的には、ロシアはシリアでの軍事的成功を同国内の政治的解決に転換しようと努め、それが無理な場合でも持続的な事実上の停戦に持ち込んで仲裁役の立場を維持しようとするだろう。また、リビアにおける紛争後の処理の円滑化にも努めるだろう。そして、地域の主力国――トルコとイラン、サウジアラビアとエジプト、イスラエルとイラク、ヨルダンと小規模な湾岸諸国――との関係を強固なものにしようとするだろう。

 ロシアの対インド関係は最近停滞しているが、それでもまだモスクワは、特に2017年にインドとパキスタンが上海協力機構に加盟したこともあり、デリーを重要なパートナーとみている。インドとの結びつきは今後も強いが、ロシアのパキスタンへの関心(その大部分はアフガニスタンでの進展によって必然的に生じる)を考えれば、もはや排他的ではなくなるだろう。ロシアはまた、旧ソ連の同盟国ベトナムを地域の玄関口にして、東南アジアにも架け橋を築こうとするだろう。

 今後5年間、ロシアの外交政策にとって中国ほど難しい国はない。現在の中露関係は良好で、協商(entente)――相互に共感し緊密な政策調整が行われている状況――と表現することもできる。とはいえ、モスクワの対中政策には長期的戦略を必要とするが、現在は欠けている。当面は、中露は決して対峙せず、かといって常に一緒とは限らないと仮定した方式がうまくいく。この方式は安心感と柔軟性を組み合わせ、両大国がもつれを感じることなくパートナーを信頼できるようにするものだ。

 ゆくゆくは、これでは事足りなくなる。ロシアは中国に支配されるのを避けつつ関与の拡大によって利益を得るようなやり方で、中国の台頭に対処しなければならないだろう。その答えとして考えられるのは、大陸規模の複雑な体系の中に中国を組み込み、北京が優位を享受するが覇権は放棄するという形にすることだろう。とはいえこれには、中国を警戒するインドや中国自身も含め、大陸の他の主要勢力の協力が必要となる。さらにまた、きわめて高い外交手腕とロシア自身の外交政策に関する深い専門知識も必要となる。こうした手腕や専門知識は部分的には最近中東で披露されたが、それを大ユーラシアの次元に変換することは一筋縄ではいかないだろう。

 中国は2010年代後半から2020年代前半にかけてはロシアの外交政策の中心になるが、他のアジア諸国が除外されるわけではない。インドへの言及はされてきているが、今後5年間で大きな課題に直面するのは、対日関係だろう。2018年から2020年にかけて、モスクワと東京は両国の懸案事項――領土問題と平和条約――を解決し、これまでよりはるかに強固な基盤の上に両国の全面的協力関係を築く絶好のチャンスがある。したがって今後数年間は、プーチン大統領と安倍晋三首相の決断力と、その外交手腕と政治的影響力、そしてモスクワは対北京との関係で、東京は対ワシントンとの関係でのレジリエンスが試されることになる。こうした努力の結果を予測することはできないが、万が一失敗したら、次の好機が訪れるまで相当時間がかかるだろう。

 プーチン大統領の次の任期はおそらく最後の任期となるだろう。2024年以降もロシア政界の大物として、おそらく何らかの高い地位で留まる可能性が高い。しかしながら、プーチンの時代はゆっくりと終わりに近づきつつある。ウラジミール・プーチン自身がすでに、最終的に後継者となる――最初はプーチンの監督下にありその後独り立ちする――人材の準備に入っているが、言うまでもなく未来のことは予測不可能であり、ロシアでは他の動きはプーチンの意思や狙いとは全く無関係に進んでいる。ゆくゆくは、プーチンの外交政策のレガシーも一部の側面は見直され、修正され、場合によっては覆されることになる。それでもなお、おそらくロシアはプーチンが導いた先に留まるだろう――大ユーラシアの真ん中の定位置で、孤独な世界大国として。


執筆者プロフィール
ドミトリー・トレーニン
カーネギー・モスクワ・センター所長 ドミトリー・トレーニン

ドミトリー・トレーニンは、カーネギー・モスクワ・センターの創設メンバーであり、2008年から所長を務めている。1994年にカーネギー財団に入る前は、ソビエト軍およびロシア軍に所属し、退役時は大佐だった。トレーニン氏には『Post-Imperium: A Eurasian Story』(邦題:ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く)をはじめ、ロシア外交に関する数多くの著書がある。先ごろ英国のポリティー・プレス社より、最新著書『What Is Russia Up to in the Middle East』が出版された。同氏は国際情勢の解説者として世界各国のメディアにもしばしば登場する。モスクワで生まれ、現在も在住している。


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