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第19回党大会で示された中国のゆくえ 東京大学 教授 高原 明生 【配信日:2018/1/31 No.0274-1065】

配信日:2018年1月31日

第19回党大会で示された中国のゆくえ

東京大学 教授
高原 明生


 5年に一度開かれる中国共産党全国代表大会、通称党大会では、人事とともに今後5年間の政策方針の発表に注目が集まる。小論では、2017年10月に開かれた第19回党大会において示された内政、外交の政策方針の要点をレビューし、それらを評価することとしよう。


新しい「社会の主要矛盾」の認定

 今次の党大会で大きな注目を集めたのは、党が認定する「社会の主要矛盾」の変化であった。これまでは、社会の主要矛盾は「人々の日々増大する物質的文化的需要と、遅れた社会生産の間の矛盾」だとされていた。したがって、主要矛盾を解消するために、生産力を高めることが共産党の最大の課題だとされてきた。

 ところが第19回党大会では、社会の主要矛盾は「人々の日々増大する素晴らしい生活への需要と、発展の不均衡、不十分との矛盾」だとされた。人々の日々増大する素晴らしい生活への需要とは何か。習近平によれば、それは、「物質的文化的需要のみならず、民主、法治、公平、正義、安全、環境などの要求」だという。

 言うまでもなく、習近平が語る民主や法治とは、日本や欧米での理解とは異なる概念であろう。あくまでも一党支配の枠内での民主であり、法の支配(rule of law)ではなく法による統治(rule by law)を指しているのだと思われる。だが、たとえそうだとしても、人々が「民主、法治、公平、正義、安全、環境」を求めているという認識を示したことは、中国社会の実態と人々の欲求との乖離を大胆に認めたと評価することができよう。

党の領導の強調

 しかし、3時間20分に及ぶ長い演説の中で、所得再分配や政治的諸権利の実現など、主要矛盾の解決策が提示されることはなかった。代わりに目立ったのは党の領導の強化であり、抽象的なスローガンの多用、そしてナショナリズムの強調だった。習近平の演説の中で、新しい時代に新しい思想の下で何を基本方針とするのか解説した部分があるが、そこで第一に挙げたのは党が一切の活動を領導することの堅持であった。そこで習は毛沢東を引用し、「党政軍民学、東西南北中、一切の活動を党は領導する」と強調してみせたのである。

 なぜそこまで党の領導を強調しなければならないのか。それは、改革開放による近代化の流れと党の領導の強化が両立しないという根本的なジレンマがあるからだろう。つまり、近代化には、「四つの近代化」という時などに含意されるハードウェアのグレードアップと、制度化や民主化、法治化、市場化、透明化といったソフトな面の社会変化がある。

 鄧小平とその仲間たちは、権力が濫用され、「革命無罪、造反有理」といった言葉に象徴される文革期の混乱を招いた毛沢東時代の反省を踏まえ、近代化を両面において推進することに努めた。その結果として制度化や市場化などが進めば進むほど、必然的に党の領導の出番が減り、その統制は弱化する。そこで党は権力喪失の恐怖に駆られ、反動的にグリップを強化しようとする。いわば、「放」と「収」のサイクルが起こり、現在は強い「収」の局面に入ったと言える。

実際の政策への反映

 具体的な政策としては、経済の領域で言えば、企業内党組織の経営参加が強調されている。今回の党大会で改正された党規約に明記されたのは、国有企業における党委員会が規定に則って企業の重要事項に関する討論と決定を行うことであった。外資系企業や私営企業にとってみれば、今後、国有企業との合弁企業でどのような状況になるのか、そして経済領域における党の領導強化が今後どのように全般的に展開されるのかが懸念材料となっている。

 近代化は西洋化の一面も有する。党は中国社会への外国の影響に前にもまして敏感になっている。良い例が宗教政策だ。過去2回の党大会の報告では、「宗教界の人士と信徒である大衆に、経済社会の発展を促進する上で積極的な役割を発揮させる」とうたわれていた。ところが今回は、「我が国の宗教の中国化という方向を堅持し、宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に導く」と大きな変更が加えられた。キリスト教やイスラム教、チベット仏教などに対する監督管理が一層厳しく展開されることが予想される。

硬軟両様の対外政策

 対外政策に関しては硬軟両様の姿勢が示された。習近平は、平和的発展の道を堅持して人類運命共同体の構築を促し、他国の利益を犠牲にして自己を発展させることはしないと述べた。他方で正当な国益は決して放棄しないとも述べ、「自分の利益を損ねる苦い果実を中国に飲み込ませようなどという幻想を抱かない方がよい」「新時代の党の強軍思想を全面貫徹する」と強面に主張した。

 習近平の権威と権力が強まれば、国内からの弱腰外交批判を恐れず穏健な対外政策を採りやすくなる。他方、習近平の個性に周囲の忖度(そんたく)も加わり、対外行動に出る傾向が強まることもありうる。今後、経済が減速すれば、経済利益を求めて日本に接近する可能性もある。だが社会が不安定になれば、外国との摩擦も辞さず、ナショナリズムをかき立てることにより政権の求心力を高める誘惑が強まることもありえよう。

権力集中のチャンスとリスク

 習近平は中華民族の偉大な復興を双肩に担うことになった。権力の強化により、汚職腐敗をはじめとする難題への大胆な取り組みが可能となる。だが、習近平を恐れるあまり、幹部が自分で判断を下すことを嫌がり、何につけても上司や上級機関の判断を仰ぐ傾向が強まる可能性もある。習近平が注目する問題についての決断ははやいだろう。だが、あまりに多くの問題が習近平の判断を待つ状況になれば、迅速かつ的確な対応は難しくなる。だからこそ、かつて鄧小平らは集団指導制を導入したのではなかったか。

 中国のゆくえを展望する上でのポイントは、国民の日々増大する要求が満たされるのか否か、習近平の国政運営が成果を上げるのか否かである。ここで想起されるのは、1978年に展開された真理基準論争であり、実践は真理を検証する唯一の基準だという論断である。これを唱えた鄧小平らが狙ったのは、毛沢東思想のくびきからの解放であり、毛沢東の後継者として個人崇拝を進めた華国鋒からの権力奪取であった。果たして歴史は繰り返されるのだろうか。


執筆者プロフィール
東京大学 教授 高原 明生

1981年東京大学法学部卒業、1983年英国開発問題研究所修士課程修了、1988年同博士課程修了(サセックス大 DPhil)、1988年笹川平和財団研究員、1989年在香港日本国総領事館専門調査員、1991年桜美林大学国際学部専任講師、1993年同助教授、1995年立教大学法学部助教授、2000年同学部教授、2005年より現職。著書に、Japan-China Relations in the Modern Era (共著) (Routledge, 2017)、『東大塾 社会人のための現代中国講義』(共編)(東京大学出版会、2014)、等がある。



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