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不透明感漂う安倍首相の改憲戦略 時事通信社解説委員長 山田 惠資 【配信日:2018/2/28 No.0276-1067】

配信日:2018年2月28日

不透明感漂う安倍首相の改憲戦略

時事通信社解説委員長
山田 惠資


 安倍晋三首相は、「安倍一強」の継続を追い風にしながら、9月の自民党総裁選で3選を果たし、悲願の憲法改正を実現したい考えだ。ただ、この安倍シナリオには不透明感も漂う。


 今年、2018年の日本政治のハイライトは、9月の自民党総裁選と憲法改正論議の行方の2つだ。昨年秋の衆院選での自民党圧勝で「安倍一強」態勢は継続。その後の内閣支持率上昇、野党の混乱、株価の高値基調…。安倍晋三首相としては、これらの状況を追い風にしながら総裁選で3選を果たした上で、憲法改正を実現したい考えだ。ただ、憲法改正を究極の目標とする安倍シナリオには不透明感も漂う。

改憲を急ぐわけ

  「わが党は結党以来、憲法改正を党是に掲げ、長い間議論を重ねてきた。私たち政治家はそれを実現していく大きな責任がある。いよいよ実現の時を迎えている」
 通常国会開会日の1月22日昼前、国会内で開かれた自民党の両院議員総会。安倍首相は党総裁として、改憲実現の必要性を強調した。

 一方、続く施政方針演説では、改憲について締めくくりの部分で「各党が具体案を国会に持ち寄り、議論を進めることを期待する」と述べ、控え目な表現にとどめた。
 こうした使い分けは、議院内閣制を採る日本の政治制度が背景にある。つまり、行政府の長の首相は憲法改正案を発議する国会の議論に面と向かって関わるわけにはいかない。

 そこで国会演説に先立つ自民党内の意見集約を促したわけだ。ただ、安倍氏が今年9月の自民党総裁選で3選を果たし、3年間の新たな任期を得たとしても、それは改憲を実現するには十分な時間があると言えないのも事実だ。両院総会での発言は首相自身の焦りの表れとも言えよう。

「自衛隊明記」に固執

 特に来年は4月の統一地方選、5月の新天皇即位、夏の参院選と重要日程が続く。このため首相は今国会か今秋の臨時国会での改憲発議を視野に入れているとされる。また、改憲発議後60日~180日の間に実施される国民投票は、来年の前半から夏までの時期を想定しているようだ。

 ただ、総定数の半数(121議席)が改選となる来年夏の参院選は改憲の行方を大きく左右する公算が大きい。特に2013年参院選で過半数の65議席を獲得した自民党にとって「今回は揺り戻しが起きて、厳しい戦いを強いられるかもしれない」(同党選対関係者)からだ。

 仮に前回の2016年参院選で自民、公明両党と野党の日本維新の会を含む改憲勢力が3分の2(162議席)を割り込んだ場合、改憲の機運は一気にしぼむ可能性が大きい。こうした状況を踏まえ、自民党幹部の一人はこんな解説を披露してくれた。「安倍氏にとって来年夏の参院選は改憲実現の事実上の期限になっている」
 そこからは、安倍氏が「改憲ありき」の戦略を繰り出している真意もうかがえる。

公明対策に腐心

 話は昨年5月3日にさかのぼる。安倍首相は憲法改正推進派のフォーラムに寄せたビデオメッセージで、憲法9条に関して、戦争放棄を定めた項目と、戦力不保持を規定した2項を維持し、自衛隊の存在を明記する改憲を2020年までに実現したい考えを表明した。

 これは自民党と連立与党を組む公明党がかつて論議の対象とした憲法に新たな条項を加える「加憲」の発想を取り入れたものだ。自民党は野党時代の2012年春、党内論議を経た上で策定した保守色の強い自民党改憲草案では、9条の2項を削除し、「国防軍を保持する」と規定している。

 安倍首相の提案は、この自民党改憲案の原点と言える改憲案をスキップしてでも公明党の取り込みを優先したわけだ。理由は公明党が表向きは「改憲支持派」を装っているものの、実は「本音では改憲、とりわけ9条改正には否定的」(公明党関係者)という事情がある。それだけに自衛隊明記案は、なりふり構わず公明党対策に腐心する首相の「現実路線」の表れともいえよう。

立ちはだかる石破氏

 加えて自衛隊明記をめぐっては、公明党対策以前の問題として自民党内の意見集約が難航していることも見逃せない。自民党憲法改正推進本部(細田博之本部長)が安倍氏の意向に沿って、現行の条文を残しつつ自衛隊の根拠規定を加える「安倍案」での意見集約を図ろうとしているのに対して、石破茂・元幹事長らが異論を唱えているからだ。

 このため昨年末に推進本部がまとめた論点整理にはこの2案が併記されたが、年明けからの調整も難航している。1月22日、石破氏はこの後、記者団に「かなり隔たりがある」とけん制。また、2月5日には「(自衛隊明記案は)受けがいいかもしれないが、私はそれがあるべき姿とは思わない」と指摘し、改憲を急ぐ安倍氏をけん制した。

あくまで中央突破か

 しかし、こうした石破氏の抵抗にもかかわらず、自民党憲法改正推進本部は、3月25日の党大会で自衛隊明記を含めた改憲案を取りまとめた上で、衆参両院の憲法審査会に提出したい考えだ。いわゆる中央突破である。そこには、安倍氏としては9月の党総裁選で最有力のライバルになると目される石破氏との間で、憲法が争点となる可能性を今のうちから除去する狙いも透けて見える。

 ただ、各報道機関の世論調査では憲法改正そのものへの支持は広がっているものの、改憲案の発議を急ぐことには慎重な考えが多数派を占めているのも事実だ。時事通信が昨年12月に実施した世論調査によると、憲法改正の発議を来年1月 召集の通常国会で行うべきかどうかについて、「反対」が68.4%と7割近くに上った。

 それでも昨年夏に大きく落ち込んだ安倍内閣の支持率は大きく回復したことが、安倍氏の改憲路線の背中を押しているのだろう。ただ、何らかの理由で内閣支持率が再び急落すれば、首相の求心力が低下して改憲論議に大きくブレーキがかかるのではないか。来年の統一地方選や参院選を控えて、特に地方組織から改憲ありきの安倍路線に対する不満が噴出する可能性が大きいからだ。

 改憲の行方は結局、安倍内閣の支持率が重要なカギを握っていると言えよう。

(2018年2月21日記)


執筆者プロフィール
山田惠資
時事通信社解説委員長 山田惠資

1982年に上智大学を卒業し、時事通信に入社。政治部記者、ワシントン特派員、政治部長、仙台支社長などを経て、2016年7月から現職。


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