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シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(3) ロシア極東地域のビジネス環境:現状と課題 ロシア極東連邦大学 経済・経営学部 世界経済学科教授 日露関係研究センター主幹研究員 タギール・フジヤトフ 【配信日:2018/2/28 No.0276-1068】

配信日:2018年2月28日

シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(3)
ロシア極東地域のビジネス環境:現状と課題

ロシア極東連邦大学 経済・経営学部 世界経済学科教授
日露関係研究センター主幹研究員
タギール・フジヤトフ


 プーチン大統領は2013年12月、「極東地域の開発を21世紀の国家優先事項の一つに定める」と宣言し、新しい開発施策を導入してきたが、その成果が漸く見えてきた。極東地域で稼働し始めた数多くの新規事業、地域経済の高い成長率、投資額の2桁成長などの成果である。こうしたビジネス・チャンスに関心を寄せる外国人投資家のうち、とりわけ中国企業は数多くの合弁プロジェクトに総額数十万ドル規模の投資を提案しており、極東地域における中国のプレゼンスが際立っているようだ。


 4年前の2013年12月、ロシアのウラジミール・プーチン大統領はロシア連邦議会への年次教書演説の中で、「極東ロシアの社会・経済開発を21世紀の国家優先事項の一つに定める」と宣言した。その後2018年1月1日までに、ロシア政府当局 は、極東ロシアの開発に関わる連邦法を22件、関連法規を77件も採択し、実施に移している。

地域開発のための新たな施策-先進経済特区(ASEZ)とウラジオストク自由港

 2015年以来、ロシア政府は18個所の「先進経済特区(ASEZ)」を制定した。ASEZは新設企業や新規投資プロジェクト向けの一種の経済特区である。ASEZに指定されると、入居者には税制上の優遇措置が与えられ、インフラ(道路、電気、水道、ガスなど)が整備され、行政手続きの簡素化が適用され、さらに特区内が免税地域に指定される可能性もある。ASEZにはこれまで200を超える企業が入居している。オーストラリア、中国、インド、日本、ベトナムの企業などである。
主なロシア極東地域の先進経済特区(ASEZ)  さらに、ビジネス環境向上のために新たに導入された制度として「ウラジオストク自由港」がある。 2015年に導入された同制度は、帝政ロシア時代の「自由港」制度とはかなり異なるものである。すなわち、先進経済特区(ASEZ)に類似した制度であり、制度の対象となるのはウラジオストク市に限らず、沿海地方の16都市と沿海地方外の5都市も含まれている。また港湾エリアに限定されることなく、当該地域内の全エリアが対象になっている。さらに、対象となる事業も外国貿易や港湾活動に限定されることなく、実質的に全ての産業分野での事業活動ができる(ただし石油や天然ガス採掘、銀行、金融などを除く)。企業は、新規プロジェクトあるいは事業の次期計画を提案すれば、入居申請をして、ASEZ同様の優遇措置を得ることができる。外国企業を含む400社余りが、「ウラジオストク自由港」制度対象地域に入居している。

これまでの成果

 新しい法制度と規則の下で、2018年1月1日までに89もの新事業が稼働を始めた。中には大規模な投資プロジェクトもある。極東地域における投資プロジェクトは、様々なステージのものを含めると全部で1,000件を超えている。極東は、ロシアの国家プロジェクト建設が数多く進行する地域になっている。進行中の大規模プロジェクトをいくつか挙げると、アムール天然ガス処理プラント(スボボドヌィーASEZ)、東部石油化学複合施設、ナホトカ無機質肥料プラント(ネフテヒミチェスキーASEZ)、ズベズダ造船複合施設(ボリショイ・カメニASEZ)、バイカル・アムール鉄道やシベリア鉄道の近代化プロジェクト、アムール川沿いの中ロ国境橋梁プロジェクト2件(鉄道橋と自動車道路橋)などがある。

 極東地域の年間経済成長率は、ロシア全体の成長率を上回っている。極東で進行中のプロジェクトは、いまだ建設段階にあるものがほとんどだが、完成したプロジェクトは地域経済に対して何らかのプラスの影響を与えており、連邦政府による極東地域開発施策の成果が現れ始めていることが確認できる。さらに、2017年の極東地域への投資額の伸び率は11%を超えると見られているが、これはロシア全体の投資額の伸び率の平均値の約3倍に達しており、数年のうちには極東地域の経済成長がさらに加速することも期待できる。

 「ウラジオストク自由港」制度対象地域から入国するためのビザ申請簡素手続きである電子渡航許可(eビザ)が2017年8月に始まり、日本、中国、シンガポールなど対象18か国の6,000人超が無料のeビザを取得した。また2018年1月1日からは、eビザを保持している外国人は、ウラジオストク国際空港やウラジオストク埠頭施設に限らず、沿海地方の7個所で国境を越えたり、サハリンのコルサコフ港やペトロパブロフスク・カムチャツキー港経由でも入国することもできるようになった。プーチン大統領が政府に対して、eビザの有効活用を指示したこともあり、今後、eビザ保持者はロシア極東地域内のどの国際空港からも入国できるようになる可能性がある。

 実際、ロシア極東発展省が2017年に出した声明に示されていた計画の大部分が、言葉だけではなく目に見える形で実現してきた。その原因は人的要素が大きいようだ。この施策はほぼY. トルトネフ氏の指揮下にあるが、同氏はロシア連邦副首相と極東連邦管区での大統領全権代表を兼任している。2013年にトルトネフ副首相を極東ロシアにおける大統領全権代表に指名することを考えていたのは、プーチン自身であった。それまでの大統領全権代表は政府の中で公式な権力を持っておらず、そのため例えば権力のある財務省とやり合うようなことはほぼ不可能だった。トルトネフ氏は、大統領の信任も厚く、極東地域での人気もあり、行政手続きの簡素化や数多い政府機関の繁文縟礼の平易化を進めている。

中国主導か

 2017年には、ロシアの対内直接投資額の約4分の1が極東地域向けであり、その中でも中国資本による投資プロジェクトが28件にのぼっている。これに対して韓国資本は9件、日本資本は6件である。日本関連のプロジェクトは例えば、マツダによる自動車組立てとエンジン生産、日揮による野菜の温室栽培、日揮と北斗によるリハビリテーション・センター、北海道総合商事による野菜の温室栽培、荒井商事による中古車活用と電気自動車組立てなどがある。

 中国が極東地域で行うプロジェクト投資金額は37億米ドルに達したといわれ、どの国より突出している。例えば「ロシア中国投資ファンド(RCIF)」は、RFPグループの42%を取得した。RFPグループは極東の木材生産企業の大手で、生産量の9割を中国に輸出している。また「中国紙業投資」はハバロフスク地域のパルプ工場建設で15億ドルの投資に合意した。

 中国は、重工業による中国国内の環境破壊の緩和と”dirty”企業の国外移転を後押ししているところ、いくつかの中国企業がロシア極東地域での工場建設を提案した。セメント工場は既に完成しており、石油化学プラントや鉄鋼生産クラスターの建設提案まである。後者は、年間1千万トン規模(50億ドル相当)である。ロシア政府当局が極東での中国投資を歓迎している一方、専門家はプラント群が極東の環境劣化の原因になる可能性を指摘し、慎重な態度を取っている。

 ロシアには中国より厳しい環境基準に望みをつないでいる専門家もいるが、「中国が本当に望んでいるのは投資というより旧式の生産施設の海外放出だ」と力説する専門家もいる。中国からの投資についての一般の人々の意見はどちらかというと否定的である。というのも、地元から賃借した農場で中国人が栽培する野菜類が化学肥料まみれである事をよく知っているからである。

 中国企業は、観光関連事業分野でも活発である。中国から極東地域へのインバウンド観光客数は他国のそれを圧倒している。2017年にウラジオストクを訪れた外国人総数60万人のうち、中国人が40万人を占めた。ただしロシアの専門家は、中国人観光客からロシアが得る実入りは少ないと言う。というのも、中国系の旅行代理店、輸送会社、ホテル、レストラン、観光ガイドや通訳などが名目上も実質上も中国人の支配下にあって、観光で落とされるお金はほとんどがこうした中国人関係者の間で循環するだけだからである。

 ロシアと中国は、中国の黒龍江省や吉林省と沿海地方の港湾の間を結ぶ二国間輸送ルートの開発協力に力を入れ、真の国際輸送の回廊地帯にまで成長させようとしている。「中国交通建設」社は2018年3月までにこのルートに関するフィージビリティスタディを始める予定で、間もなく中ロによる管理会社も設立される予定である。ここでも、国際的な回廊地帯の開発では他の国々の利害関係者も考慮するべきだと、慎重な立場を取る専門家がいる。

 中ロ企業間の協定について詳細な情報が十分にあるとは言えないが、少なくともその一部は未だ了解事項覚書(MOU)段階にとどまり、将来の可能性を予測できる段階でないのは明らかである。

課題

 極東地域の開発については、さらに検討や改善を要する事項が多い。ASEZの入居者らは、インフラ建設が予定より遅れていると訴えている。また供給される電気や天然ガスの料金引き下げも求めている。インフラ整備が整っていないとして、投資を計画していた投資家が投資計画をキャンセルする事態も生じている。ASEZやウラジオストク自由港の入居者の中で、実際に免税措置を活用するのは一握りの者に限られている。措置を得るための手続きが複雑でコストが掛かることが判明したからである。例えば居住者には、プラント周囲の特殊フェンス建設、防犯カメラの設置、設備付きの税関職員オフィスの準備などが要求される。

 ASEZの中にはいまだに投資家が1人ないし2人のところもいくつかあるが、ロシア政府は効率性をチェックするために全ASEZの検査を予定している。企業に対して数多くの政府機関による検査、試験、監査などがあり、行政からは依然として過度な圧力がかけられている。資金調達は、特に中小企業にとってコストがかさみ、なかなか受けにくい。日本や韓国、中国の医療サービス提供企業がクリニック建設に関心を表明しているが、外国の病院や医師を稼働させるには特別な連邦法による認可が必要である。

 加えて、極東地域への投資プロジェクトが、数年のうちに次々に立ち上がることが期待されるところ、重要な課題が2点持ち上がっている。一つ目は、関係する地域や都市群の総合的な開発をどうするかである。二つ目は、教育、医療、住宅といった社会的側面の指標が全てロシア国内平均値を上回るようにするために、極東におけるこの分野の開発をどうするかである。このために政府は、27の国家開発プログラムのリストに加え、同リストへの追加が義務付けられた特別な「極東セクション」のプログラムとともに準備したが、その資金手当てはまだ了承されておらず、ロシア極東地域の開発におけるこのプログラムの真の重要性を評価するには時期尚早である。


執筆者プロフィール
タギール・フジヤトフ氏
タギール・フジヤトフ
ロシア極東連邦大学 経済・経営学部 世界経済学科教授
日露関係研究センター主幹研究員

学歴、受講歴
極東大学(ウラジオストク)日本研究、ロシア科学アカデミー(モスクワ)東洋学研究所 国際経済学(博士課程)、東海大学(日本)国際マーケティング、キングストン大学(英国)国際経済学、日本生産性本部 ビジネス開発プログラム、他

主な著書
"Russia and Japan: looking together into the future" Far Eastern Federal University Press, 2016, "Security and Cooperation in Northeast Asia: Joint Document of Russian and Korean Experts Joint Paper" Spetskniga, 2015, "Russia in Asia Pacific: Perspectives of Integration" Far Eastern Federal University Press, 2011.(全て共著)


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