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九州プロモーションツアー2017* 「カギは知識と熱意にある」(1) 株式会社トノループネットワークス代表取締役 トム・ヴィンセント 【配信日:2018/2/28 No.0276-1069】

配信日:2018年2月28日

九州プロモーションツアー2017*
「カギは知識と熱意にある」(1)

株式会社トノループネットワークス代表取締役
トム・ヴィンセント


 IISTは九州経済産業局と共催で、九州へのインバウンド拡大に向けた「九州プロモーションツアー2017」を実施しました。アドバイザーとしてツアーに参加したトム・ヴィンセント氏のレポートを2回にわたって紹介します。各地域が持つ大きな可能性を再確認する一方で、携わる人々の知識と熱意に対する一層の期待は、他の同様の取組みにも共通する指摘かもしれません。


 日本について英語で書かれたお気に入りの本のひとつ、「We Japanese(私たち日本人)」という素晴らしい作品は、箱根の富士屋ホテルにより1934年から1950年まで刊行されていた。もともとホテルのレストラン・メニューの裏側に印刷されていたそれぞれのページは、当時社長であった山口正造が執筆し本にまとめあげたものである。各話題が、たった1ページで解説され、しばしば美しい白黒木版画のさし絵が添えられている。私は1950年発行の最終版を一冊持っているが、これは何年も前にロンドンの古書店で見つけたものである。それまでに発行されていた3版を600ページの宝箱に集約しており、驚異的な900点のさし絵付きで、日本の作法や習慣に関して考え得るほとんど全ての内容を取り上げている。フルタイトルにある「“Being Descriptions of Many of the Customs, Manners, Ceremonies, Festivals, Arts and Crafts of the Japanese Besides Numerous Other Subjects(日本人の様々な習慣、作法、儀式、祭事、美術、工芸、他多数の話題の現代的解説)」の通りである。

 「We Japanese」が最も際立っている点は、主題の驚くべき広範さと小気味よくも古風な英語表現を除けば、日本に関する重要なあるいは些細なあらゆる事柄を外国の読み手に説明する際に山口が見せる、真の喜びと熱意である。この本は、自らの文化を知り解説することが、新たな文化を学ぶのと同じように楽しいという事実を明確に伝えている。解説には、紛れもなく満足げな自尊心が感じられるが、それは偽りのないプライドであり、決して高慢なものではない。全ての細部においてこの本のメッセージはシンプルである。「これが私たちのやり方です。楽しいでしょう?」

 日本を、例えばこの「九州プロモーションツアー2017*」のようなツアーで回るとはっきり分かるが、80年以上前に山口が極めた純真な喜びと熱意は、残念ながら今でも手に入れ難いスキルである。私がツアーで最も強く持った印象は―日本の他地域における同じようなツアーでもしばしば同様であるが―非常に大きな可能性と、その可能性について推奨し、解説する側の人々に大きく欠けている知識と熱意との、ギャップである。

 ツアーの終わりから話を始めるが、ツアー最後の夜の出来事がこの点を最も明確に物語っている。我々は、人吉市の繊月酒造を訪れ、米焼酎の製造法、その背後にある歴史と文化、球磨川とその河畔で今も酒造を続ける28の酒蔵について学んだ。そこには疑う余地のない、とても心が惹かれる全く独自の文化があった。日本では言うまでもなく、世界中のどこにも、一つの川に沿って伝統的米焼酎産業を抱える街などない。これを売り込んで詳しく説明し、世界中の伝統的酒造愛好家にとって、人吉を外せない訪問先にするのはとても簡単だろう。人吉と球磨地域がなぜ独特なのかを説得する必要すらない。まちがいなく、「米焼酎が造られるのは私たちの街です」は、直接的で、熱のこもったキャッチフレーズになるはずである。こんな話を聞けば、訪問客としての私は即刻興味を持ち、地元の熱意に感染してしまうだろう。

「球磨焼酎」は球磨川の伏流水を使い、人吉・球磨地域で米を原料に作られた焼酎。500年を超える歴史を持つ球磨焼酎において、28の現存する蔵元では、昔ながらの杜氏による手造りにこだわりつつ、小規模な蔵においても若い世代による新たな製品づくり等にチャレンジを続けている。繊月酒造の「川辺」は、76年の歴史ある酒コンテスト「ロサンゼルスワイン&スピリッツ コンペティション」の焼酎部門で最高金賞を受賞している。

「球磨焼酎」は球磨川の伏流水を使い、人吉・球磨地域で米を原料に作られた焼酎。500年を超える歴史を持つ球磨焼酎において、28の現存する蔵元では、昔ながらの杜氏による手造りにこだわりつつ、小規模な蔵においても若い世代による新たな製品づくり等にチャレンジを続けている。繊月酒造の「川辺」は、76年の歴史ある酒コンテスト「ロサンゼルスワイン&スピリッツ コンペティション」の焼酎部門で最高金賞を受賞している。

 しかしその夜の夕食会で、私が地元の観光関係者に、街の観光の目玉として何を勧めるか質問したところ、答えは「温泉」であった。なぜ。なぜ温泉なのか。日本中のほとんどの街に温泉はある。人吉の温泉は素晴らしいに違いないが、それは、街の真の特徴であるべき米焼酎に付けるおまけでしかない。街に温泉、あるいは美しい山、滝、城、寺院があれば、観光地としての大きな可能性を持つかもしれない。しかし、この種の自然や歴史の観光対象を訪問客勧誘と街経済の真の活性化に活用するには、高度な計画が必要である。一方で、観光の目玉として、贅沢な消費財を、手の届く価格で製造する成熟した独自の伝統産業はどうだろうか。これはほとんどの街が渇望するような賜物である。つまり、人吉の観光関係者がこの街独自のセールスポイントを重視していないという事実は、変化に富みつつも、しかし結局のところ、とても刺激的だったツアーの締めくくりとして、象徴的であり、少し残念でもあった。

 我々は、福岡県南部の八女市からツアーを開始した。私は以前数回八女を訪れており、お茶について、仏壇と提灯産業が抱える困難について、そして絣織りについての知識があった。今回は絣に焦点を置くことになっており、山村健氏主催の伝統的な藍染工房を、次に下川織物の小工場を訪問した。両社は同じ伝統の絣に対して、かなり違ったアプローチをとっており、それぞれが独創的で興味深いものであった。日本の藍はもちろん世界に知れわたっており、山村さんの工房は小さく、一度に受け入れられるのは少人数のグループだけであるとはいえ、本物の藍染の手作業工程と、「ショールーム」として使われる伝統的な素晴らしい小部屋は、日本と世界各地から来る人々に非常に特別で意味ある経験を提供するに違いない。(僅かではあるが)よりモダンなアプローチに興味のある人には、下川工場で何列にも置かれた旧式の豊田織機もまた、普段見られない世界を垣間見せてくれるだろう。

天然藍染手織りの伝統的な久留米絣のみを作っている山村健氏の工房。1975年以降に絣の生産量が落ちていく中、天然藍染手織りにこだわるという独自の道を進んでいる。(藍染絣工房)

天然藍染手織りの伝統的な久留米絣のみを作っている山村健氏の工房。1975年以降に絣の生産量が落ちていく中、天然藍染手織りにこだわるという独自の道を進んでいる。(藍染絣工房)

染料の原料となる「たで藍」の醗酵を繰り返し、異なる濃度の藍の色に調整された釜に入れて染める。藍色定着のためには、染めたかすり糸を絞り、40回以上床にたたきつけるという工程を繰り返す。(藍染絣工房)

染料の原料となる「たで藍」の醗酵を繰り返し、異なる濃度の藍の色に調整された釜に入れて染める。藍色定着のためには、染めたかすり糸を絞り、40回以上床にたたきつけるという工程を繰り返す。(藍染絣工房)

200年の歴史がある久留米絣。福岡県南部の筑後地方で織られている木綿の織物。絣(かすり)とは、織る前に糸を縛り部分的に先染めすることによって柄を作るという複雑な技法で、英語では「ikat(イカット)」と呼ばれる。

200年の歴史がある久留米絣。福岡県南部の筑後地方で織られている木綿の織物。絣(かすり)とは、織る前に糸を縛り部分的に先染めすることによって柄を作るという複雑な技法で、英語では「ikat(イカット)」と呼ばれる。

 しかし私から見て、八女市と周辺全地域のより明るい未来に一番大きな光を投げかけていたのは、「うなぎの寝床」の店舗であった。ただ正直に言って、それは、確かに品質も高くディスプレイも美しいが、そこで売られる商品の内容にそれほど影響されたものはでなかった。同じような店舗は日本中に出現しており、地方の伝統工芸と日用品を、スタイリッシュに、現代的に飾り販売している。「うなぎの寝床」は非常に高いスタンダードで運営されているが、数日たてば、自分が気に入った商品がその店にあったのか、日本の良く似た街の良く似た他の店にあったのか思い出すのが難しくなる。私は店を離れた後で、他の多くの店と同じように地域の全ての工芸品を扱おうとするかわりに、同じスタイリッシュなエネルギー、熱意、洗練さをもって一つの製品、例えば絣織りに特化し、その分野での日本全国における第一人者になる方が良いのではないかとも考えた。

うなぎの寝床の店舗。筑後地方・九州のものづくりを中心とした、地元だから出来る「作り手」と「使い手」を繋ぐアンテナショップとして、素材の特徴や製造工程、使い方、作り手の思いも伝える。

うなぎの寝床の店舗。筑後地方・九州のものづくりを中心とした、地元だから出来る「作り手」と「使い手」を繋ぐアンテナショップとして、素材の特徴や製造工程、使い方、作り手の思いも伝える。

 それはともかくとして、物事はいよいよ良い方向に向かっているように感じられる。ほんの数年前まで、日本中の小さな地方都市のほとんどの店舗は、廉価なチェーンストアか、棚は半分空で粗末な壁に色褪せたポスターがかかる、くたびれて誰も構わない個人商店であった。しかし今ついに、より広い世界を見据えたより若い世代が、物事を活性化し始めている。少なくともここ八女市においては、街に僅かに残った古い美しい通りと建物が、その可能性ゆえに認められ始めている。残念なことに、戦後日本の地方における建造物は、醜く安く建てられ、しばしば荒廃しており、八女においても例外ではない。しかし今、わずかに残った、無傷でより古い建物に再び命が吹き込まれている。素晴らしい展開である。その一方、修復が不可能な状態もしくはすでに解体された建物も多く、それらを新しく建て替える際、古い建物の修復と同様のエネルギーを費やし、その土地特有の景観を尊重する建築が開発されるよう私はひたすら望む。もしかすると、それはもうすぐ実現するだろうか。

(277号(2018年3月30日配信)につづく)


Tom Vincent
執筆者プロフィール
トム・ヴィンセント
株式会社トノループネットワークス代表取締役

イギリスロンドン生まれ。近江商人発祥地である滋賀県蒲生郡日野町の築240年の旧近江商人宅を本拠地とし、企業や政府、自治体のコンセプト戦略づくりから、ブランディング、プロモーション及びメディアやコンテンツの制作などを行っている。クラフトビール会社「Hino Brewing」を日野の老舗酒屋六代目と日野在住ポーランド人ブラウマイスターと共同経営。

*ツアーについて

2017年12月、IISTは九州経済産業局と共催で、九州へのインバウンド拡大に向けた「九州プロモーションツアー2017」を実施しました。この4日間のツアーは、九州へのインバウンド拡大に向けた地域商材を外国人専門家の視点で再発見することを目的とした事業です。そのために、要改善点や見逃しがちな点、逆にもっと訴求すべき点を、様々な専門家がツアーで実地を巡りながら洗い出していくプログラムです。今回、本プログラムでは、九州のなかでも中部エリアの、熊本県と福岡県南部を中心に以下を巡りました。

・ 1日目: スタートアップミーティング ⇒ 藍染絣工房 ⇒ 下川織物 ⇒ うなぎの寝床
・ 2日目: 「南阿蘇村」、「あそ望の郷 くぎの」⇒ 蘇山郷(旅館)
・ 3日目: 盛高鍛冶刃物 ⇒ 井上産業 ⇒ 村上産業 ⇒ 繊月酒造
・ 4日目: ラップアップミーティング

【ツアーマップ】 (536KB)

九州プロモーションツアー2017 実施報告(九州経済産業局) (2.2MB)



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