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シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(4) 欧州企業の対ロシアビジネス、その現在と未来 欧州ビジネス協会(AEB) 会長 フランク・シュワフ 【配信日:2018/3/30 No.0277-1071】

配信日:2018年3月30日

シリーズ「ロシアの実像を探る~日露の識者が見るロシアの今」(4)
欧州企業の対ロシアビジネス、その現在と未来

欧州ビジネス協会(AEB) 会長
フランク・シュワフ


 ロシアで活動している欧州企業の多くは、今もビジネス環境の法的不透明性に直面しているが、対内直接投資が比較的高水準であること等、ビジネス全体をみると一部には景気回復の兆候が見られる。しかし、米国による新たな対露制裁という潜在的脅威は、外国人投資家の利益にも影響をもたらす可能性がある有害なビジネス環境への不安を、欧州企業に与えている。


ロシアのビジネス環境、その現在と未来

 2014年以来の社会不安が続く中、ロシア市場は大きな課題に直面している。多くの関係者にとってここ数年は厳しい状況だったが、2018年以降の予測は予想以上の自信に満ちている。2017年、企業の大半は新しい経済状況に適応することができ、わずかな成長さえ見せていた。世界銀行の「ビジネス環境の現状2018」のランキングでロシアは35位に浮上したが、このことが控えめな楽観主義の根拠と考えられる。

 しかし、ロシア経済にとってはエネルギーや商品の価格が依然大きな重要性を持つ。為替レートやモスクワ証券取引所の株価指数は、石油価格と高い相関関係を示している。石油価格の上昇によってロシアはまもなく不況を脱するかもしれないが、もし下落ということになれば、将来予測はたちまちより悲観的なものになる恐れがある。

 保護貿易政策や現地生産の重視によって、企業は市場へのアクセスを維持するようプレッシャーをかけられている。外国企業が国・地方自治体の政府調達に参加する場合の既存の制限により、輸入代替は多くの欧州の投資家にとって非常にセンシティブな問題であるように思われる。欧州の投資家は、2015年に導入された、一定の義務と引換えに特別なインセンティブを投資家に提供する特別出資契約(SPIC)のメカニズムに懸念を覚えている。投資家にとって重荷となっているその一部は、適切な地方法令の欠如と関係があり、また、他は投資家による義務不履行が発生した際に生じる重い責任を示唆している。おそらく、最近のSPIC規則の部分改正によって、今後の状況は改善されるだろう。

 SPICは、新しい法令が頻繁に導入され、ビジネスの前提条件がいつも変更されるような法規制の下では特に有効である。望ましい方向への変化もあれば、大きな調整が必要になったり企業の存続が不可能になったりする場合もある。

 しかし、EU(欧州連合)の企業にとってロシアは、今も将来もハイリターンのチャンスと共に考慮すべき重大なリスクも伴う巨大な近隣市場であり続ける。

ロシアにおける欧州企業の存在感:その現在と未来

 欧州ビジネス協会(AEB)は、ロシアで活動する外国人投資家の主要団体である。1995年に設立され、EU加盟国や欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国の企業、およびロシアと、あるいはロシア国内でビジネス活動を行うその他の国々の企業500社以上の会員が参加する活動的なコミュニティーとなっている。AEBの会員は多国籍企業や中小企業である。会員は皆、ロシアとの連携強化へ最大限の努力をし、ロシアの投資環境改善を強く望む点で一致している。ロシアの現在の困難な政治状況にもかかわらず、欧州企業がロシア市場に関わりを持ち続けていることを強調したい。

 包括的なAEB-Gfk年次調査「ロシアにおける欧州企業の戦略と展望」によれば、欧州企業はロシア経済の潜在能力について比較的肯定的な見方をしている。さらに、EU企業の大半は2017年のロシア経済の緩やかな回復に注目している。ロシア経済の中短期の成長を期待する企業の数は、2016年に比べ著しく増加した。また、投資拡大を考える投資家の割合はほぼ倍増した。回答者の73%が2017年の市場の高い潜在能力に注目している。2016年にはその数値は60%であった。

 「世界銀行報告」によれば、好調な輸出と内需拡大を受けてロシアの経済成長は今後2年間続き、GDPは2018年に1.7%、2019年には1.8%の上昇が見込まれる。

 製造業は経済危機の影響を強く受けてきたが、生産が少しずつ増加し始めている。その最も顕著なデータはAEB自動車工業委員会から提供された。結果として、2017年の自動車販売市場は5年ぶりの成長を遂げた。2016年との比較において販売台数は12%増加し、160万台を記録した。

 建設用機械の市場が息を吹き返し、2017年は最終的に49%の伸び率となった。多くのセグメントでの回復が安定傾向に発展することを私たちは期待している。

 ルーブルの為替レートの変動を受けてロシア産の商品が世界市場でより競争力を増し、製品の現地生産化を進めていたより多くの外国企業が輸出を開始した。しかし、ロシアで活動する外国企業の将来は主として、連邦および地方レベルでの立法措置の安定性と、ビジネス環境の全般的な予測可能性の可否にかかっている。

在ロシア欧州企業への制裁の影響:その現在と未来

 欧州企業が政治的障害のないビジネスに関心を寄せていることは明らかだ。私たちはいつもこのメッセージを、ロシア当局、欧州委員会、欧州議会、その他政府機関との定例会議において、彼らに伝えようとしている。しかし、制裁は私たちの影響力の及ばない政治的問題に関係している。

 2017年12月末に欧州連合が対ロシア部門別制裁を拡大した際、ロシアの欧州企業は既に当時の状況を受け入れており、このニュースを冷静に受け止めた。もちろん、これは欧州の銀行部門やそのロシアでの事業にはあてはまらず、それらは相当の圧力にさらされている。しかし、製造業やサービス部門への悪影響は限定的である。

 制裁発動だけを理由にロシア市場を離れた欧州企業はいない。欧州企業はロシアを見限ってはいない。これはまちがいなく朗報である。

 米国による新たな制裁の脅威は、欧州からの制裁よりもはるかに大きな影響を投資家の利益に与える。この問題は、最近、米国財務省がいわゆる「クレムリン・レポート」を公表した後、特に深刻なものとなった。たとえばAEBの会員企業は、「クレムリン・レポート」はロシアのビジネス環境の不安定化につながり、ロシアでビジネスをしている欧州企業の利益に、より大きな影響を及ぼすと確信している。

 AEBは、制裁方針との見解の相違を繰り返し表明してきた。ビジネスが国や人々を結ぶ架け橋を築くことができるのは間違いのない事実だ。制裁の背後に立ちはだかる政治的理由は政治的手段によって解決されねばならない。

ロシア企業のイノベーション

 2012年、新たなイノベーション政策の優先事項がロシアに登場した。政権のリーダーシップにより、経済の多角化がその優先事項として挙げられている。同時に、マクロ経済的・地政学的状況にも大きな転換が見られ、それはイノベーション政策に明確に反映されている。政府のイノベーション活動実施計画は、新たに生じたマクロ経済の問題によって頓挫している。特に2014-2015年は、技術革新の開発能力に影響を与えてきた経済制裁が顕著になった。

 ロシアの科学・技術分野は、科学・技術産業を発展させてきた国々との政治的関係の悪化の影響を受けている。ハイテク産業の熾烈な国際競争のなかで、先進的でハイエンドな技術の開発促進に注力すべきである。特に工業生産分野における生産性の高い国際競争力のある産業の開発は、ロシア経済および政府が直面する最も重大な課題の一つである。グローバル化とりわけロシアのWTO加盟を踏まえ、持続可能な富の源としての効率的な生産が重要性を増している。したがって、新技術への移行、新たな生産技能の開発および最新知識の習得が、経済成長や繁栄拡大のための付加価値と生産性向上の決定要因になっている。

 現行のイノベーション政策の競争力を向上させるための主なステップとして以下が重要である。すなわち、世界最新のITの導入、製造プロセスでの適切なモデリングとシミュレーション、サプライチェーンマネージメントにおける革新の迅速化、および市場のニーズに速やかに対応できる互換性のある生産システムの導入である。増大する貿易量や、激しさを増す人や物の流動性と人材の育成における競争の激化、そして近代化にむけた海外からの直接投資は、企業レベルの生産性向上に貢献する。そして、このことがひいてはロシア経済全体の至る所で価値を創造することになる。


執筆者プロフィール
フランク・シュワフ氏
欧州ビジネス協会(AEB)
会長 フランク・シュワフ

シュワフ氏は自身のプロフェッショナルでアカデミックな経験を活かし、ロシア人ならびに、ロビー活動と政策アドバイス活動を実施している外国人駐在員の団体にAEBの活動を紹介、理解を深めている。ケルン大学・ヴォルゴグラード国立大学 (USSR) に在籍した学生時代、ロシアに深い興味を持つ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE)で経済史・政治科学の学位を取り、さらに「ロシア政府と政治」・経済史の修士号を取得。2000年にはケルン大学で東欧史の博士号を取得し、ベルリン自由大学で多年にわたって東欧研究の講師を務めた。


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