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九州プロモーションツアー2017* 「カギは知識と熱意にある」(2) 株式会社トノループネットワークス代表取締役 トム・ヴィンセント 【配信日:2018/3/30 No.0277-1072】

配信日:2018年3月30日

九州プロモーションツアー2017*
「カギは知識と熱意にある」(2)

株式会社トノループネットワークス代表取締役
トム・ヴィンセント


 IISTは九州経済産業局と共催で、九州へのインバウンド拡大に向けた「九州プロモーションツアー2017」を実施しました。アドバイザーとしてツアーに参加したトム・ヴィンセント氏のレポートの後編を紹介します。


(前号からのつづき)

 「うなぎの寝床」のスタイリッシュな洗練が非常に必要であると感じられたもう一つの場所は、八代市の井上産業である。八代は、日本で唯一、今でも畳用のい草を栽培生産している地域である。しかし、より低コストで、大規模で、効率的な中国における生産と、総体的に減少している畳の使用量は、この産業の将来の不安定さを示している。

日本固有の伝統的床材であり日本人の心ともいえる「畳」。八代のい草は生産量全国シェア95%以上を誇り、その関連産業は500年以上もの間、八代の人々を支えてきたが、住宅様式の洋風化や安価な中国産の台頭により需要が減少。い草農家は最盛期の25分の1にまで激減し、現在も衰退を続けている。

日本固有の伝統的床材であり日本人の心ともいえる「畳」。八代のい草は生産量全国シェア95%以上を誇り、その関連産業は500年以上もの間、八代の人々を支えてきたが、住宅様式の洋風化や安価な中国産の台頭により需要が減少。い草農家は最盛期の25分の1にまで激減し、現在も衰退を続けている。

 残念ながらい草農家を訪れ農業従事者から話を聞く機会はなく、彼らとの僅かな会話からではあるが、地方自治体には、この産業を促進するアイデアと熱意がほとんどないように思われた。しかし我々は、畳とその他の製品を小工場で製造する井上産業は訪問できた。その製品は、可能性を秘めたとてもスタイリッシュな畳やカーテンから、風変わりな装飾品までと幅広いが、何よりもここで必要なのは、製品を売り込んで愛好家を集める若い知識と熱意であると思われた。そこは、込み入ったマーケティング・キャンペーンなど始めなくても、単純、低コスト、スタイリッシュで遊び心のあるインスタグラム・アカウントだけで世に出られる可能性のある場所であった。

い草の細縄を使った「縄のれん」。井上産業は、日本一の生産高を誇る地元の八代産い草を用い、縄を作ることに挑戦。い草はわらよりも細い縄を造ることができ、様々な用途へ可能性が広がる。九州新幹線つばめに採用されたことから、一般家庭にも縄のれんが使われるようになる。

い草の細縄を使った「縄のれん」。井上産業は、日本一の生産高を誇る地元の八代産い草を用い、縄を作ることに挑戦。い草はわらよりも細い縄を造ることができ、様々な用途へ可能性が広がる。九州新幹線つばめに採用されたことから、一般家庭にも縄のれんが使われるようになる。

創業から100年以上にわたり畳表の卸売業を営んできた村上産業は、い草産業の復興実現のため、時代ニーズに合った、現代生活に調和する新製品を開発、「畳の新たな可能性」を追求する。同社が開発した「HIKARI-TATAMI」は内部にLED投光器を据え付け、発光する畳を実現。

創業から100年以上にわたり畳表の卸売業を営んできた村上産業は、い草産業の復興実現のため、時代ニーズに合った、現代生活に調和する新製品を開発、「畳の新たな可能性」を追求する。同社が開発した「HIKARI-TATAMI」は内部にLED投光器を据え付け、発光する畳を実現。

 もちろん、製品が優秀で事業に自信があれば、現代風な洗練さや、便利な立地さえも不要だ。八代市の盛高鍛冶刃物はその典型例である。市内の何の変哲もない住宅地に、ひっそりと佇むその店は昭和レトロの模範例で、しゃれてはいないが間違いなく皆に愛されている。

盛高鍛冶刃物。盛高家は、福岡県太宰府・宝満山の刀工、鎌倉時代の初代金剛兵衛源盛高(こんごうひょうえみなもともりたか)から数えて27代目、700年の歴史を有する。

盛高鍛冶刃物。盛高家は、福岡県太宰府・宝満山の刀工、鎌倉時代の初代金剛兵衛源盛高(こんごうひょうえみなもともりたか)から数えて27代目、700年の歴史を有する。

 そして、奥にある小さなごみごみした鍛冶工房が、世界でも指折りの包丁を造り出すのである。この小さな店は、週に数回外国からの訪問者を迎え、中には休暇中に包丁を買うためだけに京都から飛行機を使って訪れる人もいる。多くは、訪問前に盛高の包丁について必要なことは全て調べており、細かい英文のパンフレットなどは必要とせず、簡単な「how to care for your knife(包丁の手入れ方法)」という説明書き一枚で十分なのである。盛高鍛冶刃物は、伝統工芸ビジネスが、妥協や不必要な装飾なしにいかに営めるかの好例である。

日本の刃物の特徴は鉄と鋼を組合わせる技術。鉄と鋼を高温に加熱し、上手く接合すれば硬く粘り強く切れ味の鋭い刃物を作ることができる。鋼の中でも最高峰の青紙スーパーはデリケートで、熱しすぎるとぼろぼろに崩れやすいため、技術的に難しい。

日本の刃物の特徴は鉄と鋼を組合わせる技術。鉄と鋼を高温に加熱し、上手く接合すれば硬く粘り強く切れ味の鋭い刃物を作ることができる。鋼の中でも最高峰の青紙スーパーはデリケートで、熱しすぎるとぼろぼろに崩れやすいため、技術的に難しい。

予め鉄と鋼を組合わせた便利な出来合の複合鋼材を使えば、両金属の接合技術は不要な上、製造量は数倍が見込めるが、刀鍛冶職人として切れ味や品質には満足できない。このため地鉄に鋼を割り込んで鍛接する「鋼の割り込み鍛接」という伝統的で難しい手法にこだわり、この手間が驚くべき鋭い切れ味を可能にしている。

予め鉄と鋼を組合わせた便利な出来合の複合鋼材を使えば、両金属の接合技術は不要な上、製造量は数倍が見込めるが、刀鍛冶職人として切れ味や品質には満足できない。このため地鉄に鋼を割り込んで鍛接する「鋼の割り込み鍛接」という伝統的で難しい手法にこだわり、この手間が驚くべき鋭い切れ味を可能にしている。

 八女の後、我々は雄大な阿蘇カルデラへと移動した。噴火口へと続く、狭くくねった車道を走るのは、少し前に発生した熊本地震の恐ろしさを思い起こさせたが、そこを抜ければ息をのむような別世界に入り込む。人吉には特産品の焼酎があり、八女には賑わいがあって住み良い地方小都市に発展する可能性があると言うなら、阿蘇は完全に別世界であると言える。ここは、古く他に例を見ない巨大な噴火口と、まわりを丸く取りまく山の壁と、中央に位置する草に縁どられた印象的な阿蘇山自身のせいで、別個の生態系、独自の別世界であり、外から物理的に隔離され、非常に独特で魅惑的な小さな楽園になり得るのである。

世界でも有数の大型カルデラ地形と雄大な外輪山を持つ阿蘇山。阿蘇山とは、阿蘇五岳=高岳・中岳・根子岳・烏帽子岳・杵島岳の通称で、現噴火口のある山は中岳。南阿蘇村は、阿蘇山の南の麓に位置し、その眺望はすばらしく、阿蘇の大パノラマを一望できる。

世界でも有数の大型カルデラ地形と雄大な外輪山を持つ阿蘇山。阿蘇山とは、阿蘇五岳=高岳・中岳・根子岳・烏帽子岳・杵島岳の通称で、現噴火口のある山は中岳。南阿蘇村は、阿蘇山の南の麓に位置し、その眺望はすばらしく、阿蘇の大パノラマを一望できる。

 しかしここでも、南阿蘇村が非常に特別で賑わった場所になるのを妨げている唯一の要素は、南阿蘇村自身であると思った。南阿蘇は、伝統的なものと最先端のもの、それぞれにおけるエコで持続可能なテクノロジーが現代的に融合した場所として、メッカそしてモデルになろうと声をあげている。例えば、地域に数知れずある湧水、池、水路などは、容易に、伝統と先端エコ・テクノロジーの生きた実例として活用できる。それは単なる旅行者向けの寄せ集めではなく、小さな地域社会にとっても間違いなく役立つであろう。

 しかし中でも最も魅力的だったのは、駐車場の端の道路わきに取付けられていた装置だった。古くて伝統的な芋洗い用の水車は、農業とエネルギーについて学ぶことが出来る、シンプルで費用もかからず本物を見せる手段として再び活用出来るのに、半分壊れたまま池に捨て置かれており、ガイドは私が尋ねるまでそれについて触れることもしなかった。最もひどかったのは、地元の美しく小さな神社にある、最も大きく壮観な湧水池への入り口が、大きな真新しい、周囲と異なる雰囲気の水晶の店に妨げられていることであった。店舗は南阿蘇と何の関係もないもので、村には自ら活気づく可能性への総意、理解、熱意が不足している事実を体現しているように感じた。

 しかし、噴火口の反対側の蘇山郷旅館では、ゆっくりではあるが、物事が進化している兆しが見られた。蘇山郷は小さな心地良い旅館で、半分伝統的な旅館で半分ホテルである。我々が教えられた二つのセールスポイントは、全館における無料Wi-Fiサービスと、一段高くなった畳の上に布団ではなくマットレスを置いたベッドである。正直に言って、どちらも特に印象的ではなかったが、多分外国人の客によっては半分ベッド/半分布団の方が寝やすいのかもしれない。私はそうは思わないが・・・。

 しかし、蘇山郷からはっきりと分かるのは、熊本県と福岡県の地方が海外からの旅行客を引き付けようとするのなら、基本的な世界レベルのスタンダードに近づく道のりすらまだ遠いということである。日本に無料Wi-Fiがめったにないこと自体信じがたいが、その日本においてすら、ビジネスホテルであれば、無料インターネットがあるのは当たり前なのである。つまり、2017年に旅館兼ホテルにおいてWi-Fiがセールスポイントになるのは、正直に言って少し残念である。蘇山郷は素敵な小ホテルで、私は喜んでもう一度泊まったり友人に勧めたりするであろうが、ここが地域における一番のお勧め施設であり、明らかに他の地方旅館よりいくらかでも進んでいるというのであれば、取り掛かる課題はまだまだ多い。

蘇山郷。2012年の九州北部豪雨災害で内牧温泉の温泉街が壊滅的被害を受けたのをきっかけに、経営の主軸を海外からの誘客に移した。インバウンド拡大の実質的な取組みが評価され、「九州未来アワード インバウンド観光部門大賞」受賞。今後は地域ぐるみでの連携した取組みへと展開。

蘇山郷。2012年の九州北部豪雨災害で内牧温泉の温泉街が壊滅的被害を受けたのをきっかけに、経営の主軸を海外からの誘客に移した。インバウンド拡大の実質的な取組みが評価され、「九州未来アワード インバウンド観光部門大賞」受賞。今後は地域ぐるみでの連携した取組みへと展開。

 とはいえ、日本中の遠く人里離れた場所までも、海外からの旅行客の目的地としてふさわしいものにしようする努力の大きさには目を見張るものがあり、九州中部もこの例外ではない。世界に、同じように国全体を旅の目的地にしようと取り組んでいる国があるかどうかは知らない。しかし物事の移り変りの速さを見れば、日本の多くの地域が、特に過去20年から30年の間に、いかに停滞し、あるいは置き去りにされたかが浮き彫りになってくる。良かれ悪しかれ、世界の旅行者はますます洗練されてきており、福岡南部と熊本への訪問者のほとんども、他の多くの国への渡航経験を持ち、世界のスタンダードに慣れ親しんでいることは間違いない。

 もしこの地域が旅の目的地として成功を収めたいなら、主な関係者と地域観光産業従事者は、世界的なスタンダードとして何が求められ何が認められるかを学ばなければならない。彼らはその時初めて、何を取り入れ、何を変え、何を改善し、何を今のままにしておくかを真に判断できるのだろう。そして恐らく、その時初めて、富士屋ホテルの山口氏から学ぶことができ、心からの喜びと熱意をもって、地域の説明と売り込みを楽しみ始めるであろう。

 ただし今回のツアーで、山口正造氏の熱意と喜びに最も近いものが、旅行中に出会ったより若い人々から感じられたのは確かである。できるだけ早く、年配の世代から若い世代に重点を移し、九州の地方と農村地域の持つ大きな可能性を開拓し、楽しみ、それに「夢中になる」彼らの取組みを支え、背中を押してやるべきであると感じる。


Tom Vincent
執筆者プロフィール
トム・ヴィンセント
株式会社トノループネットワークス代表取締役

イギリスロンドン生まれ。近江商人発祥地である滋賀県蒲生郡日野町の築240年の旧近江商人宅を本拠地とし、企業や政府、自治体のコンセプト戦略づくりから、ブランディング、プロモーション及びメディアやコンテンツの制作などを行っている。クラフトビール会社「Hino Brewing」を日野の老舗酒屋六代目と日野在住ポーランド人ブラウマイスターと共同経営。

*ツアーについて

2017年12月、IISTは九州経済産業局と共催で、九州へのインバウンド拡大に向けた「九州プロモーションツアー2017」を実施しました。この4日間のツアーは、九州へのインバウンド拡大に向けた地域商材を外国人専門家の視点で再発見することを目的とした事業です。そのために、要改善点や見逃しがちな点、逆にもっと訴求すべき点を、様々な専門家がツアーで実地を巡りながら洗い出していくプログラムです。今回、本プログラムでは、九州のなかでも中部エリアの、熊本県と福岡県南部を中心に以下を巡りました。

・ 1日目: スタートアップミーティング ⇒ 藍染絣工房 ⇒ 下川織物 ⇒ うなぎの寝床
・ 2日目: 「南阿蘇村」、「あそ望の郷 くぎの」⇒ 蘇山郷(旅館)
・ 3日目: 盛高鍛冶刃物 ⇒ 井上産業 ⇒ 村上産業 ⇒ 繊月酒造
・ 4日目: ラップアップミーティング

【ツアーマップ】 (536KB)

九州プロモーションツアー2017 実施報告(九州経済産業局) (2.2MB)


(本ページの英語版はこちら)

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