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シリーズ「メガFTA時代の到来と日本の針路」 (1) 現在の経済連携の潮流について 経済産業省 通商政策局 経済連携課 阿部 康幸 【配信日:2018/6/29 No.0280-1081】

配信日:2018年6月29日

シリーズ「メガFTA時代の到来と日本の針路」 (1)
現在の経済連携の潮流について

経済産業省 通商政策局 経済連携課
阿部 康幸


 今月、いわゆる「TPP11」が国会において承認された。また「日欧EPA」は2019年春までの発効が期待されており、いま日本は多国間の巨大な自由貿易協定(メガFTA)の潮流に乗ろうとしている。保護主義的な動きも広がる中、日本は、世界はどう対応していくべきか。
【本稿の英語版は7月下旬掲載予定です】


 近年、我が国、そして世界経済を牽引してきた世界の自由貿易体制に対し、大きな悪影響を及ぼしかねない保護主義的な動きが見られてきている。2018年3月に米国が、国家安全保障を根拠に、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置を決定したことはその主たる例であろう。

 こうした動きに対して、我が国、世界はどう対応していくべきか。こうした点について考察するにあたり、我が国が自由貿易体制の維持・強化に向けてどういった取組をしてきたのかを振り返り、保護主義的な動きが広がる中で、どういった展開をしていくべきなのかを見ていくことは有意義であろう。

 そこで、本シリーズでは、3回に分けて、現在の経済連携の潮流、TPPや日EU・EPAといった主要な経済連携の進展、そして最後に今後の見通しについてご紹介することとしたい。

 なお、ここに述べる内容は、筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではないことをあらかじめ、申しあげておきたい。

1. これまでの我が国の経済連携の歩み

 21世紀に入り新興国経済が急速に発展し、世界の名目GDPに占める新興国の比率は、2000年の20.3%から2015年には39.3%に増大した(2016年版通商白書(P.4))。一方、我が国の相対的地位は趨勢的に低下し、世界の名目GDPに占める我が国のGDPの割合は2000年の14.5%が、2015年には5.9%となっている(内閣府「GDPの国際比較」)

 また、世界の貿易構造に目を向けると、我が国を含め東アジアにおいては、域内の最適な工程間分業により構築された生産ネットワークが構築されている。具体的には、我が国や韓国、ASEANにおいて生産された中間財が、中国に輸出されて組み立てられ、中国から最終財が米国・EU等の大市場国に対して輸出されるという貿易動向が顕著に見られる(2011年版通商白書(P.96))。

 この東アジアでのサプライチェーンの発展にともない、各国は自国に生産拠点を立地させるため、貿易・投資環境の整備に注力している。

 貿易・投資環境整備の取組としては、我が国にとってWTOドーハ開発アジェンダ交渉の妥結を通じた国際貿易ルールの強化が今後とも重要であるが、近年、ドーハ・ラウンドの停滞により、例えば韓国は主要貿易国との間で高いレベルのFTA交渉を推進しており、2017年12月時点で、署名済/発効済のFTAの相手国との貿易額が貿易総額に占める割合(いわゆる「FTAカバー率」)が60%を超える中、我が国のFTAカバー率は40%に留まっている。(表1)

【表1】各国のFTAカバー率比較  日本のEPA/FTAの歴史は日シンガポールEPAに遡る。2002年11月の発効後、他のASEAN諸国に対し日本とのEPA/FTA締結への関心が喚起された。2005年4月には日メキシコEPAが発効、2008年には日本にとって初の広域EPAとなる、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定が発効した。その後もさらに7つの二国間EPAが発効している。

 さらに、2010年秋に我が国がTPPに対する関心を表明*したことを契機として、EU、日中韓、東アジア等他の包括的EPA交渉も加速しており、EPAは相互に交渉妥結に向けた推進力となることも踏まえて、経済連携に向けた取組を、精力的に進めていくことが重要である。

 以下では、我が国における経済連携交渉について、上に上げた個別の協定毎に概説していく。

*菅総理(当時)は2010年10月に第176回国会所信表明演説において「環太平洋パートナーシップ協定交渉等への参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指します。」と表明。

2. APEC域内のEPA(TPP及びTPP11)

(1) 環太平洋パートナーシップ(TPP)(署名済)

 我が国は、2010年11月にAPEC域内でのEPA交渉促進を内容とする「包括的経済連携に関する基本方針」(以下「基本方針」)を閣議決定し、関係国との情報収集等のための協議を踏まえて、2011年11月の総理の会見において、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」旨が表明され、TPP交渉参加国と個別に交渉参加に向けた事前協議を開始した。

 この事前協議の結果を踏まえて、我が国としてTPP交渉に参加することを表明するとともに、他の交渉参加国からの承認も受け、11か国との交渉を開始した。その結果、2015年10月に米国アトランタで大筋合意に至り、2016年2月4日に署名がなされた。

 TPPは、貿易・投資の自由化だけでなく、電子商取引、国有企業改革、知的財産権の保護も内容とする質の高い包括的な経済連携協定となっている。

 日本国内においては、TPP協定及び関連法案は、2016年3月8日に国会に提出され、2016年12月9日にTPP協定が国会で承認されるとともに、関連法案が可決・成立し、TPP協定原署名国12か国の中で最も早く国内手続完了の通報を行った*

 しかし、トランプ政権によるTPP協定から離脱決定を受け、米国を除く11か国による新TPP協定(以下「TPP11」)交渉を開始した。

*米国は、2017年1月30日に、TPP協定の締約国になる意図がないことを通知する書簡を協定の寄託国であるニュージーランド及びTPP加盟国各国に対して発出した。

(2) 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)(署名済)

 2017年5月のAPEC貿易大臣会合において、米国を除くTPP参加11か国*による閣僚会議を開催し、(1)早期のEPA実現に向けた選択肢を検討すること、(2)そのために、米国の参加を促進する方策も含めた今後の選択肢を検討すること、等が盛り込まれた共同声明が発出された。

*オーストラリア,ブルネイ・ダルサラーム,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシコ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,ベトナムの11か国。

 2017年11月にベトナムにおいてTPP閣僚会合が開催された。新協定の条文、既に合意しているTPP協定の効力を停止する凍結リスト等を含む合意パッケージに大筋合意し、(1)11か国によるTPP(TPP11)について合意に達したこと、(2)TPP11が、TPPの高い水準、全体的なバランスを維持していること等を内容とする閣僚声明をだした。

 翌2018年1月には、東京で首席交渉官会合が開かれ、11か国間でTPP11の協定文が最終的に確定するとともに、3月8日、チリ・サンティアゴにおいてTPP11協定の署名を実現。各国において批准手続きに入っている。メキシコは4月に上院で承認を得られ、第一号となった。わが国も現在国会で協定承認に向けて審議中である。

3. その他の主な経済連携

(1) 日EU・EPA(交渉妥結)

 日本とEUは、世界の人口の約1割、貿易額の約4割(EU域内を除くと約2割)、GDPの約3割を占める重要な経済的パートナーであり、日EU・EPAは、日EU間の貿易投資を拡大し、我が国の経済成長をもたらすとともに、世界の貿易・投資のルール作りに寄与するものといえる。(表2)

【表2】  2013年3月に行われた日EU首脳電話会談において、日EU・EPA及び戦略パートナーシップ協定(SPA)の交渉開始に合意した。交渉において、日本側はEU側の鉱工業品等の高関税の撤廃(例:乗用車10%,電子機器最大14%)や日本企業が欧州で直面する規制上の問題の改善等を要望。

 他方、EU側は、農産品等の市場アクセスの改善、非関税措置(自動車、化学品、電子機器、食品安全、加工食品、医療機器、医薬品等の分野)への対応、地理的表示(GI)の保護、政府調達、持続可能な開発等を要望した。

 2017年4月までに計18回の交渉会合が開催された後、同年7月に大枠合意、同年12月には、安倍内閣総理大臣とユンカー欧州委員会委員長が電話会談を実施し、交渉妥結に達したことを確認した。

(2) 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)(交渉中)

 ASEANと日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの16か国の枠組みである東アジア地域包括的経済連携(RCEP)については、2012年8月のASEAN+パートナーズ経済大臣会合において、「RCEP交渉の基本指針及び目的」をとりまとめ、11月の首脳会議における交渉立ち上げを目指すことで合意し、同年11月にASEAN関連首脳会合においてRCEP交渉の立上げが宣言された。

 2013年5月にブルネイで第1回交渉会合が開催されて以降、2017年12月までに20回の交渉会合と9回の閣僚会合(3回の中間会合を含む)が開催されている。2017年11月には、フィリピン・マニラにおいて、RCEP首脳会議が開催された。

 会議後、首脳共同声明が発出され、(1)市場アクセス・ルール・協力を柱とした質の高い協定の妥結を目指すことを再確認し、(2)RCEP交渉の妥結に向けて、2018年に一層努力することが閣僚及び事務方に指示された。

 現在、貿易交渉委員会(TNC)に加え、物品貿易、サービス貿易、投資、知的財産、競争、経済技術協力、法的制度的事項、電子商取引、貿易の技術的障害(STRACAP)、植物衛生検疫措置(SPS)、原産地規則、貿易円滑化・税関手続、金融、電気通信、中小企業、政府調達、貿易救済等、幅広い分野について交渉が行われている。

 広域の経済連携であるRCEPによって、複数の締約国で分業生産される製品も関税優遇を受けられるようにしたり、東アジア地域での原産地規則等のEPA利用手続きを統一したりすることができれば、東アジア地域の高度なサプライチェーンを反映したルールづくりに資するものとなる。(図3)

【図3】RCEP構成国 (3) 日中韓FTA(交渉中)

 今後さらなる成長が見込まれるアジア太平洋地域の中で、我が国にとって中国及び韓国の経済は極めて重要な地位を占めている。東アジア全体に展開されるサプライチェーンにおいて、3か国間で極めて緻密な工程間分業が構築されている。

 また、特に中国は、巨大な成長市場としてますますその重要性を増している。日本との貿易を見ると、中国及び韓国はそれぞれ我が国の輸出入の21.7%、5.9%を占めており、我が国にとって第1位、第3位の貿易相手国となっている(2017年、財務省貿易統計による)。(表4)

【表4】  2003年から日中韓FTAに関する民間共同研究が行われ、2009年には共同研究の成果も踏まえ、日中韓サミット、日中韓経済貿易大臣会合において、日中韓FTA産学官共同研究を実施することが合意された。その後、2011年12月に3か国による日中韓FTA産学官共同研究報告書がとりまとめられた。

 同報告書は2012年5月の日中韓サミットに報告され、3か国の首脳は、2012年内の交渉開始につき一致し、同年11月の日中韓経済貿易大臣会合にて、日中韓FTAの交渉開始が宣言された。2013年3月の第1回交渉会合以降、2017年4月までに、12回の交渉会合が開催されている。

(4) 日カナダEPA交渉(交渉中)

 日カナダEPA交渉については、2011年3月から2012年1月までに4回の共同研究が開催された後に、2012年3月の日加首脳会談において二国間EPAの交渉を開始することで一致した。第1回交渉会合は2012年11月に行われ、最近では2014年11月に第7回交渉会合が開催された。

 なお、日本からカナダへの輸出における有税品目は総額の37.0%(2016年)、カナダから日本への輸出における有税品目は33.2%(2016年)となっている。また、カナダへの輸出における主要な有税品目及びその関税率は、乗用車(6.1%)、自動車部品(6~8.5%)、ギアボックス(6%)、タイヤ(7%)となっている。

(5) 日コロンビアEPA(交渉中)

 2011年9月の日コロンビア首脳会談において日コロンビアEPAの共同研究立ち上げが合意された。これを受け、2011年11月から2012年5月まで共同研究が行われ、2012年7月に報告書がとりまとめられた。

 共同研究報告書を受けて、2012年9月に行われた日コロンビア首脳会談にて、両国はEPA交渉を開催することで一致し、同年12月に第1回交渉会合が開催され、2015年8月から9月にかけて第13回交渉会合が開催された。また、2016年11月に行われた日コロンビア首脳会談において、両首脳は、交渉が最終段階にあり、交渉の早期妥結を目指すことを確認した。

(6) 日トルコEPA(交渉中)

 トルコと我が国とは、2012年7月に第1回日・トルコ貿易・投資閣僚会合を開催し、日トルコEPAの共同研究を立ち上げることにつき合意した。その後共同研究を経て、2014年1月に行われた日トルコ首脳会談にて、両国はEPA交渉を開始することで一致し、同年12月に第1回交渉会合を開催、2018年2月までに計8回の交渉会合を開催した。

 日トルコEPAによって、韓国企業などの競合相手との競争条件の平等化を早急に図ることを通じ、トルコへの日本企業の輸出を後押しするとともに、周辺国への輸出・新規参入を狙うハブとしてのトルコの投資環境関連制度の改善を図ることを目指す。

 今回は、これまでの大きな流れと主要EPAの概要を取り上げた。次回は、TPP等についてその意義・交渉結果等を解説することとしたい。


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