| 最新号 |この記事のカテゴリー: 地域・産業 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


IIST e-Magazine (本記事の英語版はこちら)

海外に挑戦する日本の伝統食 (1) フランスで好評を博した“ねばらない”納豆 いばらき成長産業振興協議会 コーディネーター 酒井 勝 【配信日:2018/7/31 No.0281-0282-1084】

配信日:2018年7月31日

海外に挑戦する日本の伝統食 (1)
フランスで好評を博した“ねばらない”納豆

いばらき成長産業振興協議会 コーディネーター
酒井 勝


 2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから5年。和食は世界で注目を浴びることが増えた。一方、足元の国内では食文化の変化等から、様々な和の食材の消費が減少している。本シリーズでは、日本の伝統的な食材・食品を海外へ広げるため、現地の人々の嗜好や文化に合わせて定義をし直し、展開する取組みを紹介していく。


曲がり角に来た“納豆とご飯”の食文化

 納豆は安くて栄養が豊富であり、日本人にとって親しみのある食材である。しかし、農林水産省の統計では、メーカーの生産量は2004年の25万トンから、2011年には21万6000トンに減っている。その理由の一つとして、全国納豆協同組合連合会(全納連)は、消費者の約7割は納豆をご飯にかけて食べており、消費者のコメ離れが一緒に食べる納豆の消費減少につながっていると指摘している。(毎日新聞(2013年08月20日)抜粋)

 茨城県の名産品とも言われる納豆は、日本のご飯文化との結びつきが強い。納豆の食べ方は、人による好みだけではなく地方差など各種あるが、いわゆる納豆ご飯として、白米を炊いたご飯に納豆を載せて一緒に食べることが多い。その結果、消費者のコメ離れが、一緒に食べる納豆の消費減少にもつながっていると見られる。

白いご飯に載せた納豆。国内で納豆を食べる人の6割以上がご飯にかけて食べている。しかしその割合は減少傾向にあり、2017年の最新の調査では、5割を切った。(全国納豆協同組合連合会の調査より)

白いご飯に載せた納豆。国内で納豆を食べる人の6割以上がご飯にかけて食べている。しかしその割合は減少傾向にあり、2017年の最新の調査では、5割を切った。(全国納豆協同組合連合会の調査より)

根強い「糸」に対する抵抗感

 海外では、納豆の栄養価は広く認識され、健康食品として高く評価されている。加えて、日本食の世界無形文化遺産の登録に伴い、日本食に対する海外からの期待は大きくなっている。一方で、納豆の普及に妨げとなるのが、独特の匂いと一番の特徴である「糸を引くこと」だ。糸に対する抵抗が根強いことに加え、他の食材と混ざりにくいことが調理の幅を狭めてしまい、消費に結びつかずにいる。

 納豆の消費拡大を図るうえで重要なことは、消費者に対して、食品としての納豆の用途の幅を広げることである。とりわけ海外では、日本のような「白いご飯におかずを載せて一緒に食べる」食習慣を持つ地域は限られる。そのため、納豆の「ご飯に載せて一緒に食べる」手法とは異なる新たな食生活での利用方法を提案することが必要だ。

 私たちは、「糸引きの少ない」納豆を開発し、素材として納豆の消費の提案を行い、海外発の新たな納豆文化の発信を目指した。

粘らない納豆はアリか?

 数年前、私はある企業から不良品の納豆を利用した鳥の餌の開発の相談を受けた。茨城県畜産センターを訪れ話を聞くと、糸引きが弱い事が不良品として扱われる要因となるのだそうだ。何か他に利用できないか、と思案しているうち、「食材としての利用が出来ないか?」と思いついた。

 日本では粘らない納豆は、受け入れられないと思い、すぐに“輸出”を手がけている納豆メーカーに相談してみた。メーカーからは、アメリカやアジアでは日本のように価格競争が始まっているが、ヨーロッパにはあまり輸出していないから可能性がある、「やってみたい」との回答を得た。

 そこで、糸引きの少ない納豆の菌を特定し、それを新たな菌として安定培養が可能か、工業技術センターに問い合わせてみた。「可能である」との返事を得られると、同センターと連携して糸引きの少ない納豆菌の開発に根気強く取り組んだ。そして2014年、この菌を使った糸引きの少ない納豆「豆乃香」がついに誕生した。

 「豆乃香」は糸引きの少ない納豆としてブランド化され、産・学・官の多くのメンバーが参画したプロジェクトの下で、海外への製品化・販路開拓に向けた取組みが始まった。その後納豆組合にも話を持ち込むと、是非やってみたいと合計6社が参加することになった。

まずはフランスで市場調査

 海外展開に際しては、価格競争を避けるために健康機能性の高い高級食材として、欧米への展開を目指した。そして、欧米の中でもフランスを最初のターゲットとした。それは食文化が豊かで、チーズ等の発酵食品も多いため比較的臭いへの抵抗が少なく、更に日本食は人気があるからだ。私たちは、フランス国内での商品の市場性や競合商品情報、マーケティング情報、その他原発関連規制などの輸出に関する留意事項等について情報を収集した。

 見本市出展の際に効果的に商談へと繋げるためには、事前に現地バイヤーやレストランシェフ、商社等に売り込みをしておく必要がある。私たちは、海外に食品を輸出している商社に「面白い商材が有るけど?」と問い合わせをしたり、ヨーロッパで料理学校を展開する先生に聞いてみたりした。商材としては「使ってみたい」との好感触を得た。

いざフランスへ

シラ国際外食産業見本市の会場(フランス、リヨン)

シラ国際外食産業見本市の会場(フランス、リヨン)

 2015年1月、フランスのリヨンで開催されたシラ国際外食産業見本市(sirha2015)へ初出展した。海外バイヤーやレストランシェフ等への製品のPR及び商談を行い、新規販路開拓を目指した。各社の担当者は海外での販売経験が無く、言葉の問題を気にして当初は、中々試食をしてもらう事ができなかった。しかし、「お召し上がりください(S'il vous plait manger.) 」と簡単なフランス語のメモを片手に通路まで出ると、多くの来場者で賑わう中、豆乃香と豆乃香を使用した料理を来場者に勧めた。

初日にファビウス外務大臣も来場。ジャパンパビリオンのなかで唯一当ブースを視察、豆乃香をご試食した。その映像が地元TVで流れたことも来訪を促す後押しとなった。

初日にファビウス外務大臣も来場。ジャパンパビリオンのなかで唯一当ブースを視察、豆乃香をご試食した。その映像が地元TVで流れたことも来訪を促す後押しとなった。

 ほどなくすると、豆乃香の試食をした一人のシェフが「オリーブオイルとの相性がいいよ」とアドバイスをくれた。急遽私たちは、会場近くの店にオリーブオイルを買いに走り、早速試しに提供してみた。なんと毎日2000食以上準備した試食が、短時間で完食となってしまうほど好評だった。

 実は、納豆自体は現地でも目にする事はできるものの、食材としての提案はあまりなされていないようだった。そのため、フランス料理に精通した日本人シェフによるフランス伝統料理で提案したレシピもまた、小売店の反響を呼んだ。やはり現地の味覚に合わせることが大切だと痛感した。

試食で用意した納豆のカスレ。白いんげん豆と肉を深い土鍋で長時間煮込むフランス南西部の伝統料理。会場では白いんげん豆の代わりに豆乃香を使って提供。世界中の料理と相性が良いことを伝えた。

試食で用意した納豆のカスレ。白いんげん豆と肉を深い土鍋で長時間煮込むフランス南西部の伝統料理。会場では白いんげん豆の代わりに豆乃香を使って提供。世界中の料理と相性が良いことを伝えた。

納豆サブレとフォアグラのコンフィー。レストランのシェフらに豆乃香の可能性をアピールする料理として提供。ソースにはバルサミコ酢やオリーブオイル、卵黄と共に、白味噌やみりんも使用した。

納豆サブレとフォアグラのコンフィー。レストランのシェフらに豆乃香の可能性をアピールする料理として提供。ソースにはバルサミコ酢やオリーブオイル、卵黄と共に、白味噌やみりんも使用した。

 また、パイ製造メーカーがブースに来てトッピングをテストして欲しいとの依頼もあった。早速その場で試してみると、フルーツ、特にブルーベリー、サラダ等、意外な組み合わせがマッチングすることに気付かされた。日本では「納豆といえばご飯」といった固定したイメージの食材を異食文化の地で紹介するには、その土地の食文化にどう合わせるかが重要だと認識した瞬間だった。

納豆バター。ご飯に納豆という食文化と同じように、「パンにも豆乃香」という組合せを提案する一品。エシャロットや西洋ハーブと共に昆布茶や粉わさびも隠し味に使用している。

納豆バター。ご飯に納豆という食文化と同じように、「パンにも豆乃香」という組合せを提案する一品。エシャロットや西洋ハーブと共に昆布茶や粉わさびも隠し味に使用している。

 会期の5日間、豆乃香を実際に使ってみたいというレストラン、小売店の件数は119件を数えた。展示会での好評からその後は、ドイツのケルンで開催された世界有数の食品見本市「ANUGA2015」や、フーデックスなどの国内展示会などでのプレゼンテーションを行い、同様に好評を得た。

実感した納豆の可能性と普及への課題

 お会いしたミシュランシェフやバイヤーからは、商材あるいは食材として使いたい、との声が多かった。会場に新しい食材を探しに来て、「見つかった!」と喜んでサンプルを持ち帰る姿も少なくなかった。パリのミシュラン2つ星レストラン「ルイ13世」(Le Relais Louis XIII)のオーナーシェフは、後日その料理を振る舞ってくれた。

パリの2つ星レストラン「ルイ13世」。後日訪問すると、いきなり「豆乃香」を使って料理を始め、振る舞ってくれた。

パリの2つ星レストラン「ルイ13世」。後日訪問すると、いきなり「豆乃香」を使って料理を始め、振る舞ってくれた。

 帰国後は、常温で販売可能な商品でトッピングに使える納豆として、フリーズドライ製品の開発に3社が取り組むことになった。伝統の食材から新たな商品の開発に繋がる見通しだ。

 今後は、適切なバイヤー、流通業者、現地のコールドチェーンが重要だろう。また、常温保存に耐えうる商品作りやパッケージの開発を進め、海外での実績を示しながら流通業者に積極的にアピールしていくことが必要と感じた。そのため、次のドイツでの展示会では冷凍の流通網を持っているインポーターに向けて他の商品にはない魅力度をアピールしていくつもりだ。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(本記事の英語版はこちら)


| 最新号 |この記事のカテゴリー: 地域・産業 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |