| 最新号 |この記事のカテゴリー: オピニオン・論説 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


IIST e-Magazine (本記事の英語版はこちら)

求められる製品・サービスの価値に見合った価格の上昇と国民(消費者)の収入・購買力の増加 大阪成蹊大学マネジメント学部・教授 ニッセイ基礎研究所・客員研究員 平賀 富一 【配信日:2018/9/28 No.0283-1086】

配信日:2018年9月28日

求められる製品・サービスの価値に見合った価格の上昇と
国民(消費者)の収入・購買力の増加

大阪成蹊大学マネジメント学部・教授
ニッセイ基礎研究所・客員研究員
平賀 富一


 少子高齢化が進行する日本で、暮らしやすく、生活の質やレベルが高い社会を目指すには、製品・サービスが、価値に見合った、より適正な価格で提供・販売され、企業の収益力と国民(消費者)の収入が増す好循環が必要。


 最近、アジア新興国からの訪日客から「日本の製品やサービスの値段が安い」という声を聞く機会が増えた。例えば、ラーメンの価格が千円といっても、アジアNIES(新興工業経済地域:韓国、台湾、シンガポール、香港)や、マレーシア・タイ等先進アセアンの諸国からの訪日客の多くにとっては特に驚きはないようだ。

 為替レートや物流コスト等にその主因があるものと漠然と感じていたが、よくよく考えればそれらのファクターだけではないようだ。各国の経済発展による経済水準の向上と収入の増加、および、日本の製品やサービスの価格が海外に比べて低い水準にあるということが大きな要因であると考えられる。「値段が安い」と訪日客に喜ばれることは歓迎すべきと感じる一方で、我が国の企業の収益性や、国民(=消費者)の収入の水準が相対的に低下しているという課題も反映しているものと考えられる。

 日本と主要各国の経済規模の水準について、GDP(国内総生産)や一人当たりGDPの約20年間の推移(名目ベース)を見ると、先ず、GDPについて、長い間、日本は米国に次いで第二位のポジションを維持していたが、2010年に中国に逆転された後は年々その差が拡大しており、日本だけが、20年間、経済の規模が拡大していないことが分かる(図1)。

図1 欧米主要国と日本・中国のGDPの推移(単位:百万米ドル)
 また、一人当たりGDP(図2-1、2-2)は、20年前には、日本は欧米の主要国をも凌駕していたが、現在では、アジア地域でも、シンガポール、香港に次ぐポジションとなっており、さらに、購買力平価(PPP)ベースでは、上記二つの国・地域に加え、台湾の後塵を拝し、韓国もすぐ近くに迫っている。このような情勢変化の中で、アジア各国における給与水準が上昇傾向にあり、既に、部長・取締役クラスは日本を上回る水準にあり、課長クラスも追いつかれトレンドにあると報じられている(2017年8月27日付日本経済新聞)。

図2-1 欧米主要国と日本の一人当たりGDPの推移(単位:米ドル)
図2-2 アジア主要国と日本の一人当たりGDPの推移(単位:米ドル)
 上記のような環境の中、日本では、物価は上昇せず(約20年の内、過半の年がデフレとなっている)、多くの企業の収益力や個人の収入も増えないという状況となっている。この点に関し、視点を変えれば、企業の収益力や個人の収入が増えないから、物価も上昇しないともいえよう。

 現代において、製品やサービスの価格は、基本的に、市場における競争状況の中で決まるが、日本の製品・サービスについては、相対的に大規模で懐が深く、かつ、日本を本拠とする企業(特に内需中心の企業)にとっての位置づけが特に重要な日本市場における激しい価格競争の結果、高収益を稼げる一部のリーダー的な企業を除けば、製品・サービスの各分野で多くの競争者が低い収益性に甘んじつつ共存している。

 その結果、一般的な市場原理や、海外の多くの市場の状況とは異なる構造の「ガラパゴス化」した国内市場での低価格現象が生じていると考えられる。この点については、技術の粋を集めた著名メーカーのテレビ(わずか数年前のモデル)が非常な低価格で販売されていたり、20年前とほぼ同じ価格で提供されている牛丼やハンバーガーなどの例を想起いただければご理解いただけよう。そのため、日本を訪れる観光客の多くにとっては「良いものが安い」ということになる。

 冒頭のラーメンの例では、近年、アジア地域で人気の九州に本拠を持つラーメン店の価格(最もベーシックなラーメン)が、香港で約1200円(89香港ドル)、台湾で約1050円(288台湾ドル)の由であり、日本で千円といっても驚くには当たらないわけである(注:同店の日本での実際の価格は890円とのことであるから、訪日客にとってはさらに安いという印象を与えると思われる)。

 企業にとっては、収益性の高い海外市場への展開を推進することが、収益力向上の重要な選択肢のひとつであるが、同時に、日本市場の中での価格を引き上げることが大切なポイントであろう。それには、購買力の大きな訪日客の増加も一つの要因になろうが、先ず、体力のある企業から人件費アップの波を起こして、国内の消費者の購買力を上げ、製品・サービス価格をその価値に見合って適正に引き上げることが重要であると考えられる。

 この点に関しては、日本の消費者にも、過度ともいえる低価格を歓迎することは、自らのメリットにならず、「低収入→企業の低収益→物価の低下・停滞」という負のスパイラルに陥ることを再認識し、価値にきちんと見合った対価を支払うとの意識変革も大切となろう。その際には、「サービスはタダ」といった言葉に代表される世界にまれな感覚・意識を変えることも重要と思われる。より成熟した消費社会を実現するには、学校における消費者教育にも注力する必要があろう。

 少子高齢化が一層進行する日本において、人々が、暮らしやすく、生活の質やレベルが高い社会を目指すには、製品・サービスが、その価値に見合った、より適正な価格で提供・販売され、企業が誇りをもって適正な利潤を得つつ、国民(消費者)の収入と購買力が増加する好循環を作ることが不可欠と言えよう。


執筆者プロフィール
大阪成蹊大学マネジメント学部・教授
ニッセイ基礎研究所・客員研究員 平賀富一(ひらがとみかず)

東京大学経済学部卒業後、東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)に入社。外務省や国際金融情報センター(欧州部長・アジア大洋州部長)、日本格付研究所(国際格付部長兼チーフアナリスト)等の勤務を経て、09年にニッセイ基礎研究所に入社。14年7月から主席研究員・アジア部長(この間、新潟大学大学院教授を兼務)。18年4月より現職。このほか上智大学で非常勤講師を務める(博士(経営学)、修士(法学)、ハーバード・ビジネス・スクールTGMP修了)。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(本記事の英語版はこちら)


| 最新号 |この記事のカテゴリー: オピニオン・論説 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |