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急成長を続けるインド (1) モデイ政権下のインドでビジネス環境はいかに変容したか 【配信日:2019/1/31 No.0286-0287-1097】

配信日:2019年1月31日

急成長を続けるインド (1)
モデイ政権下のインドでビジネス環境はいかに変容したか

拓殖大学 国際学部 准教授
椎野 幸平


 2014年から続くモデイ政権下のインドでビジネス環境はいかに変容したのであろうか。改善された点として、長年のインドの課題であるインフラ整備の改善、高額紙幣の廃止に後押しされたキャッシュレス化の進展、物品・サービス税(GST)の導入・法人税の引き下げなど税制改革などが挙げられる。インドの近年のビジネス環境の主要な改善点を議論する。


1. ビジネス環境の評価が上昇、電力不足がほぼ解消

 インドのビジネス環境評価に対する認識が変化している。最近、広く話題になったのは2018年10月に発表された世界銀行の「ビジネス環境ランキング」である。同ランキングで、インドの順位が前年の100位(2014年は142位)から77位に上昇したのである。モデイ首相もこのランキングの上昇を成果として強調している。

 インド経済の最大の課題と指摘されてきたのがインフラの未整備であるが、状況は徐々に改善している。その点は、2018年3月に発表されたジェトロのアンケート調査(海外事業展開に関するアンケート調査)で、日本企業の認識にも顕れている。

 同調査では、定期的にアジア主要国のビジネス環境の課題について日本企業に尋ねているが(回答企業数は各回約3,000社)、「インフラが未整備」については2013年度には55.7%の回答企業が課題と指摘していたが、2017年度には33.3%まで低下した。

 この認識に大きく影響を与えていると考えられるのが電力不足の解消である。最大電力需要に対する電力供給の不足率は2013年度の4.5%から2018年度(4~10月実績)には0.8%まで低下し、停電がほぼ解消している。この要因として、大規模なソーラー発電がインドで急速に普及していることがある。

 この他、デリー周辺ではメトロ(総延長327㎞)が幅広く整備され、既に東京の地下鉄(東京メトロと都営地下鉄を合わせて約304㎞)を上回る総延長にまで達しており、都市交通網は急速に進化している1

 さらに、デリー空港周辺のグルガオン(グルグラム)やエアロ・シテイなど特定の地域でビル群が誕生しており、部分的に都市化の進展を実感させる状況にもなっている。

2. 新たな萌芽:キャッシュレス化の進展、国民皆銀行口座政策の推進

 モデイ政権のこれまでの経済政策の中で、世界を最も驚かせた政策として、2016年11月の高額紙幣(500ルピー、1,000ルピー)の使用禁止が挙げられるであろう。

 高額紙幣の使用禁止の政策目的は、偽造紙幣対策や不正蓄財の取り締まりにあるが、高額紙幣が一時的に使用できなくなったことで、モバイル決済などの利便性を実感する契機となり、都市部を中心にキャッシュレス化を加速させたと指摘されている。

 とはいえ、インドのモバイルマネー利用者比率は2.0%、クレジット・カード保有率は3.0%(2017年、世界銀行)に留まっており、キャッシュレス化は萌芽の段階であり、中国のように財布を持ち歩かなくても買い物ができるといった状況にまでは至っていない。

 しかし、インドでは、モデイ政権が国民皆銀行口座政策を推進し、全国民に銀行口座を普及させる政策を展開している。インドでは前政権(マンモハン・シン政権)時代に、インド版マイナンバーである「アダール(Aadhaar)」が導入されたが、モデイ政権は全国民に銀行口座を普及させるとともに、銀行口座にアダールを紐づける政策を展開してきた。

 実際に、インドの金融機関の口座保有率は2014年の53%から2017年には80%にまで高まっている。この水準はタイ(81%)や中国(80%)と同程度で、インドネシア(48%)やフィリピン(32%)などを大きく上回る水準にある2。国民皆銀行口座政策は、金融包摂(低所得者層への金融サービスの普及)、補助金を直接給付することで補助金行政の効率化を促すことにつながるとともに、口座保有率の上昇は将来的にはキャッシュレス化の基盤となっていくことが期待される。

 キャッシュレス化を支えるユニコーン企業も成長している。その代表的な企業がPaytmである。Paytmは2010年にサービスが開始された電子決済、電子商取引を行うインド地場企業で、2015年にはアリババ・グループが、2017年にはソフトバンクが出資を行っている。なお、日本で、ソフトバンク・グループが2018年秋からスタートしたスマホ決済サービス「PayPay」は、Paytmのバーコード・QRコードを活用した決済技術が用いられている。

 また、インドではライドシェアも拡がりをみせているが、同市場で存在感を誇る地場企業がOlaで、同企業はOla Moneyと呼ばれる電子決済サービスも提供しており、キャッシュレス化の一翼を担いつつある。

3. 複雑な間接税を統合、法人税を引き下げ

 モデイ政権は、税制面でも成果を挙げている。モデイ政権下の経済政策で最大の成果と位置付けられるのが「物品・サービス税(GST)」の導入である。インドでは、物品税、サービス税、付加価値税、中央販売税という複雑な間接税の存在がビジネス上の課題として指摘され、長年、間接税を一本化する必要性が検討されてきた中、モデイ政権のもと2017年7月から導入が実現した。

 GSTの導入によって、事務手続きの簡素化や税額控除が1本のGSTで行えることになり、これまでの複雑な間接税体系と比較して、インド国内のサプライチェーンの効率化につながる枠組みがようやく実現された。

 インドではアジア主要国の中でも法人税率が高いことが課題であるが、モデイ政権は法人税率の引き下げも進めている。法人基本税率を30%から25%に引き下げる方針を示し、2016年度以降、段階的に25%の法人税率の適用対象企業を拡大してきている(2018年度では年間売上高25億ルピー以下の企業の法人に対して適用)。Make in Indiaを実現するため、製造業の対内直接投資を進める上で、法人税率の引き下げが効果を発揮することが期待される。

 しかし、インドでは法人税には各種の上乗せ税が課税され、基本税率が25%の場合でも実効税率は29.12%となり、中国(25%)、タイ(20%)、マレーシア(24%)など東アジア諸国と比較して依然として高水準であることに変わりはない3。また、インド独特の税制である配当分配税(2018年度は20.56%)が高率で、親会社への配当支払いも含めた場合、法人税の負担が重たいことも変わりはなく、今後の改革が期待されるところである。

4. 2019年上半期に下院総選挙、モデイ政権の継続なるか

 モデイ政権は、インドのビジネス環境の改善につながる成果を挙げている。一方で、不良債権問題や国有企業改革、貿易政策など多くの課題も残されているのは事実である。また、原油の輸入依存度が高いインドでは、原油高に対する脆弱性を有している構造にも変化はない。対外経済政策面では、日本や中国、ASEANも参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉で、2019年中にインドも含めて合意に至れるかが注目される。

 2019年上半期には、インドで下院総選挙が予定されている。モデイ政権は、同じくインド人民党(BJP)のバジパイ政権が2004年の総選挙で農村部の不満票を背景に敗北したことを教訓に、農村部や低所得者対策にも力を入れており、モデイ政権は第2期を迎えられるか近く国民の審判を仰ぐことになる。

1 デリーメトロ、日本地下鉄協会に拠る。
2 金融機関口座保有率、モバイルマネーの利用者比率、クレジッド・カード保有率は世界銀行に拠る。
3 法人税率はジェトロに拠る。



執筆者プロフィール
拓殖大学 国際学部 准教授
椎野 幸平

青山学院大学国際政治経済学部修士課程修了(国際経済学修士)。1994年ジェトロ入会、国際開発センター(IDCJ)開発エコノミストコース修了、ジェトロ・ニューデリー、海外調査部国際経済課課長代理、ジェトロ・シンガポール次長(調査担当)、海外調査部国際経済課長を経て、2017年4月より現職。著書に、『インド経済の基礎知識~新・経済大国の実態と政策~』ジェトロ・2009年、『FTA新時代~アジアを核に広がるネットワーク』ジェトロ・2010年(共著)など。


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