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配信日:2010年8月20日

「日本のエネルギー事情」

財団法人 日本エネルギー経済研究所
研究理事

森田 裕二


2008年度におけるわが国のエネルギー消費量は前年比で5.5%減少し、二酸化炭素排出量も6.6%の減少となった。温室効果ガスの排出量は基準年比で1.6%程度の増加に留まっており、単年度で見る限り京都議定書の目標を達成し得る状況となっている。ポスト京都議定書の中で、わが国は25%の削減を目標に掲げたが、これを国内対策だけで実現することが可能か否か議論が分かれており、収拾の見通しが立っていない。

 2008年度におけるわが国のエネルギー消費を見ると、最終エネルギー消費は前年度比6.7%減の14,726PJ(1PJ=1兆kJ、1Kcal=4.186kJ)と大きく減少した。約4割を占める産業部門のエネルギー消費が、生産活動の不振により11.1%減となったことが大きく寄与している。他の部門のエネルギー消費も、家庭部門は冷夏、暖冬であったこともあり3.6%減、業務その他部門も原油価格高騰や景気後退の影響を受け同2.0%減となった。運輸旅客部門は輸送量の減少と継続的な自動車燃費の改善を受け3.7%減、運輸貨物部門は貨物輸送量が4.2%減少したことなどにより4.5%減となった。最終エネルギー消費は2005年度から4年 連続で減少しており、省エネルギーに向けた努力が進展している状況がうかがえる。
 一次エネルギー国内供給は、5.5%減の21,565PJであった。石油は、構造的な石油離れの傾向や省エネルギーに加え、原油価格の上昇と景気後退がこの流れを加速させたことにより9.6%減少し、一次エネルギーに占める割合は41.9%となった。一方で、発電用や都市ガス用の需要が牽引した天然ガスは、消費量は1.7%減少したもののシェアを堅調に伸ばし、前年度の17.9%から2008年度には18.6%となった。石炭も2.3%減であったが、発電用、産業部門と安定的に需要が維持されたため、シェアは22.8%と横ばいとなった。原子力は、柏崎・刈羽原子力発電所の運転停止が続き3.0%減少したが相対的にシェアは拡大し10.4%となった。水力は出水率が昨年よりも高く、新設水力発電所の運用開始もあり2.4%増、シェアも3.1%となった。再生可能・未活用エネルギーは、黒液直接利用、産業蒸気回収などの未活用エネルギーが大きく減少したため、6.5%減となった。
 このように2008年度は、エネルギー価格の高騰や景気後退による影響を強く受け、最終エネルギー消費、一次エネルギー国内供給ともに近年稀に見るほど大きく減少した。その中で、石油から天然ガス、原子力へとエネルギーの低炭素化が進められた。この結果、エネルギー起源の二酸化炭素排出量は11億3,800万トン、前年度比6.6%の減少となった。部門別には産業部門10.4%減、家庭部門4.9%減、業務その他部門3.3%減、運輸部門4.1%減といずれも減少している。
 エネルギー起源の二酸化炭素排出量に非エネルギー起源の二酸化炭素排出量やメタン、一酸化二窒素、代替フロンなどを加えた温室効果ガスの排出量は12億8,200万トン、前年比では6.4%の減少となったが、京都議定書の基準年における排出量12億6,100万トンからすると1.6%増加した。政府は、京都議定書約束期間における排出量を12億5,400万トン(基準年比0.6%減)程度に抑制し、森林吸収源対策で3.8%、京都メカニズムで1.6%を確保することにより基準年比6%減の目標を達成する計画である。
 因みに、2008年度の吸収源活動による吸収量は、森林4,330万トン、都市緑化等70万トンで基準年総排出量の3.5%に相当する。また、原子力発電所の利用率を長期停止の影響を受けていない1998年度の実績値である84.2%と仮定して総排出量を推計すると、2008年度の温室効果ガスの総排出量は基準年比で3.4%減となる。これらの点から、京都議定書の目標達成に向けて楽観的な見方が広がりつつあるが、2008年度は金融危機の影響による年度後半の急激な景気後退に伴い、経済成長率がマイナス3.7%となった年であることを念頭に置く必要がある。2009年度も経済は2.0%のマイナス成長であったが、2010年度は2.5%程度のプラス成長に転じる見通しであり、景気回復に伴うエネルギー需要の増加が見込まれることから事態は予断を許さない。
 このような状況のもとで、ポスト京都議定書に向けた動きも活発化している。2008年11月に政府は『地球温暖化問題に関する懇談会』を組織し、2020年における我が国の地球温暖化ガス排出量を定める中期目標について検討を開始した。懇談会の下部組織として、『中期目標検討委員会』が設立され、国際公平性、国民負担、実現可能性などの観点から議論が重ねられた。この答申を受けて2009年6月、麻生総理大臣(当時)は地球温暖化ガスの排出量を2005年比で15%減、1990年比では8%減とする我が国の中期目標を決定した。
 しかし、2009年8月の総選挙で政権は民主党に移り、鳩山総理大臣(当時)は、民主党マニフェストに則り1990年比25%減とする中期目標を定めた。この削減目標は2009年9月の国連気候変動首脳会合で国際的にも意思表示が行われ、2010年1月末には日本の中期目標として国連気候変動枠組み条約事務局に正式に提出された。
 ただ、麻生政権の1990年比8%減に対し、鳩山政権の25%減という目標はあまりにも大きくかけ離れており、しかも、25%の全てを国内対策で達成するのか、あるいは排出量取引のような国際的なメカニズムで部分的に補おうとするのかが明確に示されなかった。このことから、削減に向けた対策がコスト的にほぼ限界に来ているとする産業界を中心に、国民に更なる経済負担を強いるものとして反対の動きが強まった。この結果、環境を重視するか経済を重視するかで議論が分かれ、政府部内、省庁間にも軋轢が生じた。
 政府は、2009年10月に『地球温暖化問題に関する閣僚委員会』の下部組織として中期目標に関する『タスクフォース』を設置し、25%削減に関する経済影響に関する分析、議論を行なった。ただ、最終的なとりまとめの結果は両論併記に近いもので、技術革新効果を織り込んだ経済影響分析の必要性や具体的な政策パッケージの検討などが課題として残された。
 25%の削減目標を推進する環境省は2009年12月に『中長期ロードマップ検討会』を設置し、削減に向けた対策、道筋について議論を行った。この内容は、2010年3月に小沢環境大臣の試案として『地球温暖化対策に係る中長期ロードマップの提案』にまとめられたが、25%には国際貢献、吸収源を含みうるとして内訳は示されなかった。
 2010年3月、政府はすべての主要国による公平かつ実効性のある国際的な枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提に、温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減、2050年までに80%を削減することを骨子とする「地球温暖化対策基本法」を閣議決定し、第174回通常国会に提出した。法案には25%削減の具体策として、環境税である「地球温暖化対策税」の導入、企業に温室効果ガスの排出削減を義務づけた上で削減量の過不足を売買する「国内排出量取引制度」の創設、再生可能エネルギーを電力会社が一定価格で買い取る「全量固定価格買取制度」の創設などが盛り込まれた。ただ、この法案は2010年5月に衆議院委員会で野党委員の反対を押し切って強行採決されたが、7月の参議院選挙のあおりを受けて廃案となった。 
 一方、経済産業省はエネルギー政策基本法に基づきエネルギー政策の基本的な方向性を示す「エネルギー基本計画」を策定し、2010年6月に閣議決定された。エネルギー基本計画には、自主エネルギー比率を現状の38%から70%程度まで向上させ、ゼロ・エミッション電源比率を現状の34%から約70%に引き上げるといった2030年に向けた目標が示された。これらの目標の実現により、二酸化炭素の排出量は2030年に1990年比で30%程度もしくはそれ以上の削減が見込まれるとしたが、通過点である2020年の絵姿については示されぬままとなった
 今後は、一旦廃案となった地球温暖化対策基本法案を政府がどのような形で国会に再提出するのかが注目されるところである。環境省は当初、法案をそのままの形で再提出する意向を示していたが、参議院選挙で民主党が敗北したことから与党が過半数に満たない参議院では否決される可能性が高い。衆議院も与党が3分の2の議席を持たないことから再可決は難しく、何らかの法案修正が必要と見られる。特に、25%の削減をどのような手法で行なうかという点が焦点になると思われ、国内対策(真水)分を15%で行う案が有力になっているとも報じられている。大きな排出削減は企業の活動、国際競争力のみならず国民の生活にも大きな影響と変化をもたらすことから、関係者全ての理解と協力が得られるよう積極的な審議が行われることを期待したい。


 
 
 

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