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配信日:2010年9月21日

「通商白書2010 〜国を開き、アジアとともに成長する日本〜」

経済産業省通商政策局企画調査室
企画調査一係

山形 宏之


通商白書2010では、第1章で転換期にある世界経済の現状と課題、第2章で今世紀の主役ともいわれるアジアの現況と方向性、最終章ではそれらを踏まえた上で、わが国の対外経済政策について提言している。

1.はじめに
 平成22年版の白書は3つの章から構成され、第1章で転換期にある世界経済の現状と課題を明らかにし、第2章で今世紀の主役ともいわれるアジアの現況と方向性にふれ、最終章ではそれらを踏まえたわが国の対外経済政策について提言している。

2.転換期にあるグローバル経済の現状と今後
(1)世界経済の現状と今後の見通し
 世界各国のGDP構成比と2010年の世界経済見通しを見ると、世界経済は各国の景気対策により概ね回復したが、その速度には国・地域によって差があり、ユーロ圏、日本や米国などの先進国の経済成長が世界平均を下押しする一方、中国、インドをはじめとした新興国は高い成長が見込まれている(図1)。

図1 世界各国のGDP構成比と2010年の世界経済見通し

 中長期的にみて世界GDP成長率への新興国の寄与率は、世界経済危機前の約4割から危機後の2010年以降は約6割と逆転し、先進国と主役が入れ替わっており、新興国が世界経済の成長に大きく寄与している。
 ただしリスク要因としては、1.雇用回復の遅れ、2.大規模な景気対策に伴う財政出動及び税収減による各国の財政赤字の拡大、3.金融システムの機能回復の遅れによる実体経済への悪影響、4.各国の金融緩和策がもたらした新興国のバブル崩壊の懸念、5.投機資金の急増による商品価格の上昇基調等がある。

(2)国際経済体制の課題と対応
1.グローバルインバランスの「リバランス」
 2000年代以降、大きくは中国の黒字、米国の赤字というインバランスの構図がある。米国の経常収支赤字の縮小と中国はじめ新興国の持続的な内需拡大が求められる。
2.金融システムの健全化
 世界経済危機により従来の金融システムの脆弱性が露呈し、「個別金融機関の健全性維持」に加えて「金融システム全体の安定性維持の仕組み」の構築が必要となっている。
3.保護主義台頭の阻止
 世界経済危機後の1年間で68ヵ国が貿易制限的措置を導入したが、WTO体制が一定の歯止めとして機能し世界貿易の縮小が回避できている。自由貿易の一層の推進に向けドーハラウンド交渉の速やかな妥結に期待する。
4.世界経済の多極化が進みアジアの新興国への期待が高まる
 1999年から2015年にかけて世界のGDP構成比をみるとG8の比率が3分の2から約半分まで落ち、一方G8以外のG20の部分が1999年の26%から約1.5倍の36%まで増える見通しで、中国を中心にアジアの新興国への期待が高まっている。

(3)主要国経済の現状と今後
1.米国経済は大規模な景気対策、金融政策による下支えと世界的な景気回復で在庫投資を中心に緩やかに回復している。ただし、高い失業率の継続や小売や住宅着工の低迷、地方銀行の破綻の急増等々自律的回復にはなお時間がかかる見込みである。
2.欧州経済は下げ止まり。最悪期は脱したものの、失業率の高止まり、財政赤字にユーロ信任の揺らぎ、金融機関の不良債権などさまざまなリスクが存在する。
3.中国経済は非常に高い成長を遂げている。4兆元の景気対策の効果もあり、公共投資、不動産開発投資に加えて国内消費も堅調。不動産価格は、都市部を中心に2009年後半から非常に上がり過熱リスクあり。また、中国の最大の輸出先(2割)であるEU向け輸出の減速懸念もある。
4.インド経済は内需を中心に回復基調。ボリュームゾーンの一段下の新中間層が急速に拡大、消費市場としての魅力が高まっている。ただし、インフラ整備が課題である。
5.ASEAN経済は政策効果もあり総じて回復している。輸出主導型の国はアジア向け輸出持ち直しでV字回復、人口が多い内需主導型の国は危機下でも高成長を維持している。ただし、景気回復に伴うインフレ圧力の高まりがリスク要因である。
6.韓国経済は新興国向け輸出や景気刺激策等でいち早く回復したが、不安定な為替レートがリスク要因である。
7.中東アフリカ経済は2009年に落ち込みつつもプラス成長を維持。主要新興国の中間層・富裕層が2020年には約2.4億人に増え、市場の拡大が期待される。
8.中南米経済は2009年にマイナス成長になったが、回復基調にあり、メルコスールを通した域内貿易の自由化が進展しており、市場として期待が集まっている。
9.ロシアはBRICsの中でも大きく落ち込み、回復も遅れている。背景に資源と海外資本に依存した脆弱な経済構造や経済対策の遅れがある。

3.アジア太平洋地域の現状と課題
(1)世界で存在感を高めるアジア
 アジアは、地域内の国境を越えたサプライ・チェーンの確立・発展により、製造業付加価値額ではEU、NAFTAを抜き世界一となり世界の工場としての地位を確立した。2015年にはGDPでも両地域を押さえ一大経済圏になる見込み。

(2)東アジア生産ネットワークから生産・販売ネットワークへ
 アジア地域では、日本企業をはじめとした海外からの直接投資をきっかけに工程間分業が進展し、とりわけ東アジアにおける生産ネットワークの発展が著しい。その中で、最終財供給センターは、わが国から中国等にシフトしつつある。

(3)アジア消費市場の拡大、将来的に「世界の消費市場」
 2020年までに中国がわが国を上回りアジア最大の消費市場になる。アジア全体ではわが国の約4.5倍に成長し、欧州を抜き米国に並ぶ見込み(図2)。アジアの中間層は今後10年以内に20億人に拡大、富裕層は5年以内にわが国を超える規模になる。

図2 アジア各国・地域の個人消費規模の見通し

(4)アジアの都市化、インフラ整備
 アジアの都市化率は年々拡大し、2005年の39%が2025年には50%を超える見込み。都市化の進展に伴いインフラ需要が拡大し、高い経済効果がもたらされるが、ファイナンスは公的資金だけでは賄えず、PPPの手法、あるいは金融市場の形成が必要になる。

(5)持続的成長実現に向けたアジアが克服すべき共通の課題
1.少子高齢化問題
 欧州の国々は非常に長い期間をかけ、ゆっくりと高齢化が進んだが、わが国をはじめアジアの国々は非常に速いスピードで高齢化が進む。1人当たりGDPは決して高くなく、かつ社会保障制度も未整備といった問題がある。
2.資源問題
 アジア各国のGDP単位当たりの資源エネルギー使用量を比較すると、わが国を1とした場合中国やインドがおよそ8倍、ベトナムに至ってはわが国の10倍とエネルギー効率が悪く、消費量が拡大している。環境・資源問題が深刻化している。

4.わが国の現状と将来像
(1)わが国経済の現状
 わが国経済は、好調なアジア向け輸出を中心とした外需により緩やかに回復。これに加え政策効果により耐久消費財が伸びてかろうじてプラス成長を実現している。アジアをはじめとする新興国の活力をわが国経済の成長につなげていくことが重要である。
(2)わが国対外経済政策の方向性
1.新興国市場の獲得
 わが国企業は、成長が著しい新興国市場でシェアを確保できておらず、中小企業を含め一層の海外展開が不可欠である。スペックの戦略的見直しを含め現地のニーズに対応した商品やサービスなどの開発・提供といった対策が必要である。
2.「ことづくり」による新たな需要の発掘
 「ことづくり」は、単に高性能・高品質の製品作りに止まらず、業種を超えてモノ・サービスを組み合わせて新たな仕組みを創出し、潜在的な欲求の具現化を行うものである。これにより、国際競争力を強化につながる。
3.「魅力、安全、安心」を競争力の源泉に
 わが国の「魅力、安全、安心」イメージを競争力の源泉に据え、製品やコンテンツのブランド力を維持・強化し、特にアジア富裕層の需要獲得に努めることが重要。日本の市場での成功の後に進出するのではなく、最初からアジア富裕層の新たな需要を目指して行動するスピード感が求められる。例えば、ファッション、農産物、医薬品・医療機器等分野での国際展開が期待される。
4.インフラ整備によるアジアの成長支援
 アジアの産業発展や生活所得水準の上昇を目指したさまざまな広域開発プロジェクトが進展しており、水、原子力、鉄道等の分野において、単品売りではないオペレーションも含めたインテグレイトされたシステムビジネスの展開をトップ外交などを含めた官民一体で推進する必要がある。
5.ヒト・モノ・カネ・チエの流れの円滑化
 経済のグローバル化が進展する中で、産業インフラ等におけるわが国の相対的地位が低下している。法人税、研究開発の是正、助成金、ビザ要件等々の見直しにより国内の立地競争力を高めて海外の活力を取り込み、イノベーションと知識経済化に基づくアジアの高付加価値拠点としてのわが国の地位を高めていく必要がある。
6.資源国との重層的な関係の強化
 資源国は資源価格の高まりに連れ、新興国としての成長可能性に目覚め、資源を越えた成長基盤の整備を希望している。人材育成を含めた産業協力や教育面・文化面での交流など相手国のニーズを踏まえた重層的な協力関係構築に向け官民協調の取り組みが必要である。
7.EPA/FTAなど地域経済統合の積極的推進
 世界の工場・市場として発展する東アジアの経済統合は、わが国の成長実現の鍵を握っている。国内産業へ最大限の配慮をしながら制度改革を進め、平成22年の「通商白書」の副題である「国を開き、アジアとともに成長する日本」を実現していかなければならない。
8.投資協定、租税条約、社会保障協定を通じた市場環境の整備
 わが国企業のグローバル展開には、相手国・地域のビジネス環境整備が重要である。イギリス、フランス、ドイツなどは100ヵ国以上とかかる協定を締結しているが、わが国の場合は40ヵ国にも満たない。これら協定を加速度的に推進する必要がある。
9.その他 
 第1に、欧州の牙城である国際標準を米中との提携を含む柔軟な体制で獲得することが肝心である。第2にWTOは自由貿易の堅持に有効であり、ドーハラウンド交渉の推進が重要である。第3に2010年はわが国が議長になるAPECが開催される。従って、APECを有効に活用し、わが国の成長戦略をアジア太平洋の成長戦略につなげ、アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指すことが必要である。


 
 
 

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