最新号 メールマガジンの登録・解除・変更 バックナンバー お問い合わせ

配信日:2010年10月20日

日本の化学産業の課題と今後の取り組みについて〜化学ビジョン研究会から〜

経済産業省 製造産業局 化学課
企画調整係長

吉田 優子


化学産業は、プラスチック、タイヤ、医薬品など様々な製品を生産しており、生活のあらゆる部分に密着しているほか、自動車、電機・電子を始めとする多くの産業に対して製品・材料を供給し、日本の産業を支えています。経済産業省では、各社のトップ、有識者の参加を得て2009年11月に化学ビジョン研究会(座長:東京大学橋本和仁教授)を設置し、日本の化学産業の今後の方向性と取組等を検討し、研究会報告書をまとめましたので、ご紹介します。

1.化学産業の現状
 日本の化学産業は、出荷額約44兆円、従業者約96万人を占め、出荷額では輸送用機械器具に次いで日本で第2位であるなど、日本経済や雇用を語る上でも欠くことのできない重要な産業です。(2007年工業統計表より)
 また、周囲を見渡しても、現在では、自動車、家電製品、日用雑貨、衣料、医薬品、化粧品など、国民生活の隅々まで化学産業が供給する製品が用いられています。
 さらに、化学産業は高度な部材の供給を通じて、自動車、電機・電子などのユーザー産業に製品を提供し、特に機能性化学品においては世界で高いシェアを誇り、日本産業の競争力を支える基盤産業となっています。

図1 主要製品・部材の市場規模と日本企業の世界シェア(2007年)(PDF:485KB)

2.化学産業を巡る環境変化

 しかし、最近では、以下のような様々な変化が生じています。
(1)国際的な需要供給構造の変化
2008年に生じた世界的な金融危機であるリーマンショックを契機に、世界の需要構造に変化が生じています。経済の成長が新興国によって牽引され、今後も中国やインドを中心に需要増が見込まれています。

(2)化学製品の国際的供給構造の変化
 石油化学では、原料面で競争力を有する中東や中国の能力拡充が著しく、今後厳しい国際競争が展開されていくと予想されています。
 日本や欧米では、石油化学の基礎となるエチレン生産能力の国際市場におけるウエイトが減少し、石油化学から、機能性化学と分類される付加価値の高い分野にウエイトをシフトする動きが見られています。

(3)環境問題への対応の高まり
 2009年のコペンハーゲン合意に基づき、日本政府も「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として、2020年までに、1990年比で25%削減」という目標を掲げるなど、地球環境問題について取り組みが進んでいます。
 また、化学物質の安全性の取り組みについては、2020年までに化学物質の影響を最小化するという目標が定められており、日本だけでなく、欧州や米国等でも、国際的に化学物質管理の強化が進められています。

(4)ビジネスモデルの変化
 日本の化学産業は、特に世界市場で高いシェアを有してきた国内セットメーカーとの擦り合わせによって発展したが、国内セットメーカーは、昨今、競争力が低下してきているため、化学産業の従来の国内における擦り合わせを前提としたビジネスモデルが立ち行かなくなるおそれが生じています。

(5)研究開発・人材育成
 化学産業は、技術力が競争力に大きく影響する産業であるため、研究開発とそれを担う人材育成は極めて重要です。
 日本の化学企業は、規模が小さいため研究開発費の規模も小さく、一国としてみると、重複が生じる一方、高額化が問題となりつつあります。
 研究開発を担う人材面でも、特に理工系の博士人材について、産学人材にギャップが生じており、優秀な人材の博士課程への進学に際して障害となっていること、また、中国を始めとするアジア諸国等から訪れる多数の留学生の研究者が日本での就職を希望しても実現が難しい、といった指摘がなされています。

3.化学産業の課題と対応の方向性と具体的取組
 上記のような環境変化により、化学産業では新たに取り組んでいかねばならない課題が生じています。化学ビジョン研究会報告書では、日本の化学産業が進むべき方向軸として、4つの軸を示しました。

(1)国際戦略
 依然大きなウエイトを占める石油化学の汎用品分野では、安価な原料の確保と結び付くことが競争力を決めるのに重要な要素となるため原料国立地が必要であり、また、新興国のボリュームゾーンを担う上では生産拠点の市場国立地も重要です。これらの立地戦略を進めるためには、資源外交と連携した海外展開支援が必要です。また、国際競争力の強化のためには、日本の法人税の軽減や原料非課税に係る税制等、イコールフッティングの確保に努めるべきとしています。

(2)高付加価値化への取組
 利益を最大化しつつ成長していくためには、各企業が自らの強みを活かし、新素材開発に加え、素材から部材(樹脂やフイルム等からパネル等)、部材から消費者向け商品(照明や蓄電池、太陽電池パネル等)への展開が有効と考えられます。国際競争において事業の競争力向上を図るために、国際標準戦略や知的財産保護も重要です。またLLPや独占禁止法の運用改善を行う一方で、事業強化のために企業間連携、選択と集中を積極的に行っていくとの経営者の意志が確認されました。

(3)サステイナビリティの向上
 化学産業は、バイオマスや二酸化炭素そのものを製品の原料として利用できるほか、リチウムイオン電池、LED照明等温室効果ガスの排出抑制効果の高い製品に不可欠な材料の供給を通じて、地球温暖化問題への貢献が期待されています。  
 今後は、LCA(ライフサイクルアセスメント)を考慮した排出権取引に関する制度設計や、日本が世界に誇るクリーン技術や製品等などの提供を行った企業の貢献を排出削減量として換算可能とする仕組みの検討等、世界全体での二酸化炭素排出量の削減に向けた仕組み作りが必要です。
 また、化学物質の安全・安心を求める傾向は近年拡大しており、ロードマップに基づいて化学物質管理制度のアジア標準化に取り組むことにより、アジア地域の化学物質の安全性の確保及び日本の化学産業のビジネス環境整備に着手していきます。

図2 化学分野における「グリーン・イノベーション」及び「ライフ・イノベーション」の推進(PDF:388KB)

(4)技術力の向上
 日本の化学産業の技術力を発展させていく上で、研究開発とこれを担う人材の育成は車の両輪です。
 化学は、技術開発を通じて地球温暖化対策、エネルギー対策、などの社会的課題の解決に多大な貢献を行い得る重要な産業です。こうした社会的課題の解決に資するため、今年6月に閣議決定された新成長戦略において掲げられたグリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションを推進しながら、評価技術基盤(拠点)の整備や人材育成等について、それぞれロードマップを作成し、研究開発の迅速化するための着実に支援を行い、技術力の向上を目指していきます。
 化学産業の優秀な人材の育成に向けては、現在、ロードマップに沿って、化学産業が望ましいと考える教育を行う大学院専攻科を評価し、当該専攻科に進学する博士課程学生を対象とした奨学金の給付、修了生の化学産業への就職に関する環境整備等、化学人材育成を産学官協力して総合的に行っていく「化学人材育成プログラム」を創設するなど、取り組みを進めています。

4.おわりに
 本研究会では、リーマンショック後に世界的な環境変化が生じている中で、化学産業にとっても主要な課題の一つとなる地球環境問題への対応の当面の目安が2020年であることなどを考慮し、今後10年程度の将来を念頭に検討を行ったものです。 

 経済産業省は、日本の化学産業が、引き続き日本の競争力の源泉である地位を更に発展・創造し、社会に貢献できるよう、化学産業界と協力していきたいと考えています。
 
 
 

〒105-0001
東京都港区虎ノ門1丁目1番20号 虎ノ門実業会館2階 一般財団法人 貿易研修センター
TEL:03-3503-6621
FAX:03-3501-0550
E-mail:iist-emg@iist.or.jp