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配信日:2010年10月20日

医薬品産業が新たな成長産業となるために

経済産業省 製造産業局 生物化学産業課
係長

永井 健寛


バイオ医薬品を始めとする医薬品産業が、今後の我が国の成長産業の一つとして発展拡大していくための方策について、本年6月に閣議決定された新成長戦略における取組、経済産業省が立ち上げ議論してきたバイオ・イノベーション研究会での報告を御紹介させていただきます。

はじめに
 近年のバイオテクノロジ―の発展はめざましく、我が国でもiPS細胞の発見など世界的に優れた研究成果が誕生していますが、この恩恵を享受するには、先端技術の実用化、つまりイノベーションが不可欠です。中でも、特に実用化が期待されている一つが医薬品です。医薬品産業は、バイオテクノロジーを始めとした多くの先端技術の集積であり、科学技術立国たる我が国における新たな市場・雇用を産み出す成長産業の創造、新たな輸出産業の柱の創造、高齢化社会の中における新しい産業の成長モデルとして、日本経済をけん引する成長産業の柱となりうる産業です。
 しかし、医薬品産業は、バイオ医薬品などの開発において国際競争が激化しています。このような中、技術的なポテンシャルを有しているものの実用化で後れをとっている我が国の医薬品産業が、今後の成長産業の大きな柱となるためには、研究開発の推進だけではなく、実用化やイノベーションを阻害している様々な要因を取り除く全体的な戦略の構築と規制改革の取組が不可欠です。

新成長戦略における位置づけ
 本年6月に閣議決定された「新成長戦略」において新たな需要と雇用の創造を目指す7つの戦略分野の1つとしてライフ・イノベーションによる健康大国戦略があります。その基本方針としては、日本発の革新的な医薬品等の研究開発推進、産学官が一体となった取組や、創薬ベンチャー育成の推進、新薬等の実用化を促進があげられており、これらの取組を進める前提としてドラッグ・ラグの解消、治験環境の整備、承認審査の迅速化を進めることとされています。また、これらを実行するための具体的な取組として、革新的な新薬を開発する研究機関のコンソーシアムに対する研究費・人材の重点的な投入や、規制緩和、選定した医療機関において先進医療評価・確認手続きの簡素化を図ることにより、世界標準の国内未承認又は適応外の医薬品を保険外併用として提供し、ドラッグ・ラグの解消等を実施するメディカルイノベーション構想の推進を決定しました。

医薬品市場の動向
 世界の医薬品産業の市場規模は、1997年から2007年までの10年間で2,939億ドルから7,148億ドルへほぼ2.4倍に成長しました(図1)。新興国の経済発展や技術の進歩による市場規模の拡大や世界的な高齢化の進展により、今後も市場規模が拡大する見込みです。

 また、近年では遺伝子組換え技術等を利用したバイオ医薬品の医薬品市場に占める割合が増してきています。2007年では、750億ドルを超え、医薬品市場の10%以上を占めるようになりました。従来の医薬品で既存製品以上に有効性・安全性を兼ね備えた医薬品の上市が困難になりつつある一方、バイオ医薬品は、開発・製造に高い技術力が必要となるものの1製品当たりの付加価値が高く、従来の医薬品で対応できない疾患領域を対象とし、副作用も少ないことから、医薬品市場は、徐々にバイオ医薬品の開発へとシフトしてきています。

 しかし、近年における新薬の開発は、1品目あたりの研究開発費は急増し、新薬の成功率は減少しています(図2)。さらに、バイオ医薬品の開発には、広範かつ高度な技術を融合する必要性などから、世界的に研究開発、製造、治験の外部機関の活用といったいわゆるオープンイノベーションが進展しています。(図4)

世界全体の上市1品目あたりの研究開発費

創薬産業を支える周辺産業

国内医薬品産業の現状
 ここで、国内医薬品産業に目を向けてみますと、創薬プロセスの高度化に伴いオープンイノベーションが世界的な流れになりつつあるものの、我が国では、その担い手であるベンチャーや周辺産業が十分育っていないのが現状です。
 また、我が国の新薬の創出数は、アメリカ、イギリスに次ぐ第3位ですが、新薬の開発数は減少傾向にあるとともに、国内製薬企業は、開発した医薬品の特許が切れる2010年問題に直面しています。
 そのため、国内製薬企業は、2010年問題に対応するため多額の資金で外国企業(ベンチャー等)の買収を活発化させています。
 また、中国やインドなど新興国の台頭により、外資製薬企業は、日本の研究所を閉鎖し、アジアに研究機能を移すなど、国内の創薬力の相対的低下を招いています。

医薬品分野における我が国の実施すべき取組
 このような状況の中、我が国の医薬品産業を成長産業に育てていくためには、以下にあげる3つの取組を進めていくことが必要と考えられます。
 1つ目は、分子標的薬など新しい創薬を支える基盤技術開発の推進です。
 これまで有力な創薬ターゲットが多く見つかっていない、がん、認知症、糖尿病等の疾患を新たな創薬ターゲットとするために必要な創薬基盤技術の開発を行うとともに、スパコンなど高性能なコンピュータの活用による新薬候補を効率的に設計する技術の開発、これまでの技術では設計できなかった新薬候補の製造を可能にする技術開発や創薬に必要なデータベース等の標準化を進める必要があります。
 2つ目は、日本の強みである高い安全性をいかした医薬品開発基盤の強化です。
米国でも、FDA(アメリカ医薬食品局)が必要と認めれば、企業に対して、リスクを最小限に抑える管理プログラムを提出させるなど医薬品の安全性が重視される傾向にあります。我が国は、高品質なマウスの生産等、安全性の高い創薬に必要な技術を多く有しており、この技術をさらに強化し、今後の日本の強みにすべきです。
 また、様々な分野での活用が期待されているiPS細胞は、品質の評価項目、評価技術が確立されていないことから、当該技術の実用化に必要な基盤を構築し世界に普及させるため、日本式の評価法等を早期に確立し提案していくことが重要です。
 そのほか、質の高い医療実現のため、診断と治療を一体的にとらえるバイオマーカーの研究開発、これまで取組が進んでいない分野において、ヒトの体内での作用について分子イメージング技術等を活用して解析するための技術開発等も実施していく必要があります。
 3つ目に、ベンチャー等の育成を通じたオープンイノベーションの推進です。
オープンイノベーションを促進し、革新的医薬品を継続的に創出していくためには、ハイリスク・ハイリターンな研究開発の初期段階をベンチャーが担い、ベンチャーと製薬企業間での共同研究や買収・提携等も活発に行われる環境整備が必要です。しかし、我が国のベンチャーには資金面、人材面等の課題を抱えていることから、ベンチャーの研究開発や経営等を支援するバイオ医薬品製造受託及び共同研究、若手人材の育成を行う拠点を整備するとともに、シーズの磨き込みや適切な知財戦略の構築、製薬企業とのマッチング事業等の支援やそれらを行うコーディネート人材の育成が重要です。
 また、高度化しているバイオ医薬品の開発を効率よく進めるためには、検査、臨床試験受託、製造受託などの周辺産業や異業種との連携が重要になってきますが、我が国では周辺産業が育っていないため、業界を担う若手人材の育成や、IT、ナノテクなどの異分野技術を創薬分野に積極的に導入する取組も重要です。

おわりに
 バイオ医薬品などの医薬品産業の構造強化のためには、これらの取組を進めるとともに、国内における医薬品産業の研究開発環境を改善することが不可欠となります。そのためには、臨床研究、治験などの創薬プロセスから、医薬品などを用いる臨床現場まで、医療制度全般にわたる規制改革が必要であり、研究開発等の推進とともに一体的に取り組んでいくことが重要となります。
 本稿が今後の医薬品産業を考える上で、皆様のご参考になれば幸いです。

 


 
 
 

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