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配信日:2010年11月22日

豊かな社会をもたらす新しいパートナー・アザラシ型癒しロボット「パロ」
産業技術総合研究所 知能システム研究部門 インタラクションモデリング研究グループ 主任研究員 柴田崇徳氏 インタビュー


パロは、触れ合いによって人の心を豊かにする癒しロボット。動物の入れない施設でも、アニマルセラピーと同じ効果が得られるとし、医療・介護の分野をはじめとして、国内外における一層の普及・活用が期待されています。

 ─最初に、パロを開発するに至るまでの、研究の背景と経緯を簡単にご説明ください。
開発者の柴田崇徳さん柴田:産業技術総合研究所(産総研)におけるパロの研究開発は93年から始まります。産総研の基本的な役割は、既存の産業に貢献すること、新しい産業を創造することですが、当時は新しいロボットの産業をつくることが大きな目標のひとつでした。どのようなロボットが産業になるのかを考えたとき、工場で働くロボットはいろいろありますが、一般生活のなかで一人ひとりがロボットを持つような時代が来ればいいなと思いました。
それではどのようなパーソナルロボットであれば人に使ってもらえるのか。一般的には、掃除をするとか、食事をつくるとか、何か仕事に役立つものを考えますが、その場合には専用機器をつくったほうが安くていいものができる。ならば物理的なサービスはできないけれども、喜ばれて大切にされるものは何かと考え、ペット動物を思いつきました。
 ペット市場は、93年当時日本で約1兆円産業、アメリカでは約3兆5000億の大きな産業になっていました。それだけペットは人間にとって身近な存在ということです。また、欧米ではアニマルセラピーに関する研究が盛んであり、動物は単にかわいいだけではなく、人の心に働きかけ、楽しみ、安らぎを与えて、かつそれがセラピーにつながることが認知されています。
 そこで新しいロボットの役割は、人の心に働ける心理的なサービスをすることではないかと考えたのが、最初の経緯です。

 ─パロは「最もセラピー効果のあるロボット」とされていますが、他の動物ロボットと違うところは何でしょうか。癒し効果を生み出すため、どのようなご苦労がありましたか。
アザラシ型ロボット「パロ」柴田:動物の形をしているロボットがみな同じかというと、目的、役割が違っています。例えば、エンターテインメントを目的とし、自分でプログラムをつくって自由自在に動かし、その動きを見て楽しむための動物ロボットもあります。この場合、セラピーは目的ではなく、動きを見て楽しむという意味では、触れ合うという観点は全くない。人がロボットと触れ合うということは、事故につながる安全面の問題があります。一方で、人間の力をかけると容易に壊れてしまう場合もある。身体的な触れ合いを想定したつくりは非常に難しいのです。
 動物ロボットの開発は、パロがおそらく最初ですが、商品化には時間が必要でした。触れ合いなくしてセラピー効果は期待できませんが、その触れ合いに技術的な課題があるからです。例えば、触れ合いの仕方を認識できるように、パロ専用の触覚センサーの開発が必要です。また、モーターのシステムであるアクチュエーターを人からの強い力に対してどう対処させるか。パロ本体の安全性、耐久性の問題もあります。いろいろな人に実際に触れ合ってもらって、何回も壊されながら、改良を重ねてつくってきたのがパロです。
 今度は、触れ合ったときのさわり心地とか、人間の主観的な評価を考慮したデザインにも工夫・改良を重ねてきました。例えばパロは手作りで1体1体つくっていますが、高い品質を持ちつつも、同時に顔つきが違うなどの個体差もつくっています。
 さらには、セラピー効果を検証し、効果を高めていくために、2000年以降、さまざまな医療福祉施設で実験を重ねて、改良開発を行ってきました。
 パロはセラピーと、長期間一緒に生活するためのペットという二つの目的に完全にフォーカスして作り込みを重ねた。そこがほかのロボットとの大きな違いです。

 ─世界的に高齢化社会の急速な進行が予想されますが、今後、パロの商業販売も増加していくことが期待されます。現在の導入・販売実績と、今後の予定をお聞かせください。
介護老人保健施設(茨城県つくば市)柴田:まず日本では2005年3月から商品化され、現在までに1500体出荷しています。そのうち7割が個人名義で、家庭でのセラピーも含まれると思うのですが、ペットとして購入されている方がたぶん多い。2割強が医療福祉施設の購入で、残りは博物館などに所有されています。
海外では、まず欧州全体では約200体弱入っていまして、デンマークで約120体、オランダで約40~50体、その他、ドイツ、ノルウェー、イタリアなどそれぞれ10体弱ぐらい購入されています。デンマークが2008年末から、オランダ、ノルウェーが2010年初頭から、ドイツは2010年9月30日から正式にパロの販売を開始しました。
 アメリカは2009年にFDA(Food and Drug Administration:食品医薬品局)がパロを医療機器に認定して、同年12月から販売を開始し、約50体が導入されています。全世界で現在約30か国に利用されて、300体弱普及している状況です。
 アジア・オセアニアではまだ正式な販売を開始していませんが、中国、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ、それからニュージーランド、オーストラリアで、日本から直接輸入されています。オーストラリアでは10体ぐらい購入されています。
 パロは、販売するだけではなく、長く使っていただくためにメンテナンスを行う必要があります。そのサービスを提供する「パロクリニック」は、デンマークのオデンセ、アメリカのシカゴ、日本の3か所にしかありません。アジア・オセアニアでもこのような拠点を設けて本格的な販売をしていくことを、徐々にやっていきたいです。

 ─海外でのパロの反応はいかがでしたか。海外におけるパロの普及にあたって、どのようなアプローチをとられていますか。
柴田:世界7か国でパロに関するアンケート調査を行いましたが、基本的には非常に高い評価を各国で得られています。しかし結果をデータ解析すると、パロへの期待として、ペットの代替と、セラピー効果の二つにちょうど分かれてきます。地域では、アジアでは、日本と韓国がペットとしては高い評価なのですが、セラピーとしては低い。一方、欧州では、セラピーとしては高く、ペットとしては非常に低い。     
 この違いは、日本と韓国の場合、アニメの影響などもあり、ロボットに非常に高い関心がある。一方でペットの位置づけは、最近は大事にはされているものの、やはり人間より下です。もう一つはアニマルセラピーそのものが普及していない。それは日本では、パロは個人の所有が多いという数値にも表れています。
デイサービスセンター(デンマーク) 一方で欧州では、ロボットは、人に危害を加える、人の仕事を奪うものとしてネガティブに捉える傾向が非常に強い。しかし、パロの場合には、まず見た瞬間に「あ、かわいいね」とロボットだということを忘れる(笑)。そしてこれはセラピーを目的にしているというと、「それはいいね」とすっと切り替わります。
 なぜなら、欧州では、ペットは家族の一員という意識が非常に強い。さらにアニマルセラピーが広く普及している。とくに、医療福祉関係者にとっては、衛生管理、アレルギー、噛み付き、引っ掻きの事故、世話の問題があり、本物の動物セラピーを実践できないこともあるので、セラピーの分野においてパロに対する期待が高いのです。
 欧州では、パロは100%施設向けで、個人では買えない。さらに、パロに関する1日の教育プログラムを受講して免許を取得した介護者、セラピストのいない施設では、パロを購入することができません。施設で購入すると消費税は免除になります。パロが本当にセラピーの道具として理解されて受け入れられているのです。
 日本ではまだ免許制は導入されていません。当初、日本でパロを利用した介護教育プログラムを開発したかったのですが、うまくいかなかったので、その構想をデンマークに持ち込んだのです。同国では、パーソンセンタードケアというそれぞれの個性や経験をもとに、一人ひとりに合わせた認知症の介護が行われ、質の高いケアを提供しています。ですから、パロを導入した際、パロへの反応や効果について、いろいろなことがわかります。それをひとつのメソッドとして構築し、プログラム内容の基本として、パーソンセンタードケアとパロを組み合わせた新しい介護教育システムをつくりました。
 日本でも現在、首都大学東京と共同でパロの手引書を開発しています。将来は介護専門家による手法として、デンマークのような教育システムを導入したいと考えています。

 ─パロがより活用されるために、今後どのような点を改善し、新しいモデルを作る予定ですか。また、パロ開発で培った技術を、医療・介護の現場において、どのように役立てたいとお考えですか。
パロと触れ合う子供たち(スウェーデン)柴田:まずパロを改良するときに何をベースにするかですが、一般家庭におけるペットの代替としては、大きさなどは開発の余地がありますが、9割の購入者が非常に満足しているとの結果を現状でも得ています。
 一方、医療福祉分野では、免許を持つパロユーザーに、パロの利用状況に関する様々なケースを全部記録していただき、ユーザー会議で結果を発表し、意見交換を行っています。現在、そのデータを全部集めて分析し、セラピーに特化したパロをつくることが目標です。認知症の人に使うパロ、自閉症の子どもに使うパロ、精神障害の方に使うパロと、目的に合わせて最大のセラピー効果を引き出せるパロを開発するために、いま頑張っています。
日本では現在、人口の23.1%が65歳以上と言われていますが、そのなかには介護の必要な方が大勢いらっしゃる。そこで健康なうちにパロを使っていただくと、介護予防、とくに認知症予防につながる。認知症のケアは負担が大きく費用もかかるので、予防は大きな社会的コストの低減になります。また認知症になったら、パロを利用することで、介護をする方の負担軽減に役立ちます。そういう意味で、政府の「新成長戦略」のライフ・イノベーション分野で、パロが生活支援技術として活用できるのではと思っています。
 日本のロボット技術は世界でも最先端です。それをデンマークの強みである福祉と組み合わせると、最強のパッケージとなります。デンマークでこれは「パロモデル」と言われていて、他にもこのようなパッケージができないか、日本企業に声をかけ、資金を出して誘致しています。そして欧州全体のマーケットに広げるため、ほかの様々な福祉機器を日本から導入し、デンマークの福祉と組み合わせて展開できないかと模索しています。
 産総研では、このような事業化のモデルを日本企業にも紹介することで、日本で開発したものが世界で使われる、そんなきっかけになればいいなとも考えています。

◆下記のウェブサイトで、2010年APEC首脳会議において、パロと触れ合う参加国首脳(冒頭でメドベージェフ大統領(ロシア)、管総理大臣(日本)、他、最後にオバマ大統領(米国))の様子がご覧になれます(全13分)。

http://www.youtube.com/user/APEC2010#p/u/21/YrIqSY7Y8L4
 
 
 

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