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配信日:2010年12月20日

「伝統を越え進化する江戸切子 〜売れるものづくり戦略」
江戸切子の店 華硝 取締役 熊倉 隆一氏インタビュー


2008年7月洞爺湖サミットの贈答品となった華硝の江戸切子は、「地域資源活用事業計画」の東京都第一号に認定されるなど、その高い技術とデザイン性で世界に認められる製品作りを続けている。江戸切子発祥の地、亀戸にある工房兼ショップでは、「物が売れない時代」といわれる中、高価な江戸切子の注文に追われる日々が続いている。

──華硝さんを立ち上げた沿革、どういう動機でこういった分野に進んでいこうと思われたのでしょうか。

江戸切子の店 華硝 取締役 熊倉 隆一氏 熊倉:現在ある華硝は、1948年に創業した熊倉硝子の工場直販店として94年に設立したものです。それまであった熊倉硝子では、OEMの委託製作のみを行っていました。100%委託受注での生産であったところを、工場直販する華硝を設立し、現在に至っています。直販は直接ニーズも把握でき、自社企画をお客様に直接アピールできることが強みです。
 立ち上げに至るまでには、オイルショック他などによる様々に変化する景況感の中で、流通がどんどん弱体化していきました。このままいったら、おそらく日本の硝子産業が消えてしまうのではないかという危機感が生まれ、将来は直接お客様に販売する直販会社をもつ発想が生まれました。ちょうどウェブサイトも充実し、多様にアピールすることができるいい時期にあったのかも知れません。
 やってみると、独特なものを展開できるし、たった一点の製品も商品化できるなどいろいろなメリットがありました。量産品の中には、多様なコレクションアイテムなどを織り交ぜると、顧客のニーズに非常に受ける事も発見し、これを伸ばしていくべきだとも感じました。

洞爺湖サミット贈呈品のワイングラス。「米つなぎ」という華硝オリジナル紋様を用いている。──洞爺湖サミット贈答品に選ばれるなど、御社の製品は高く評価されていますが、独自技術、デザインなどの開発ポイントや体制などを伺いたいと思います。

 熊倉:単純に言えば、製品に独創性とセンスを生かすことでしょう。自社のもつ独自技術を使ったデザインが、一番オリジナリティの高いベストなものだと感じています。この点から外部デザイナーや外部企画には消極的です。デザインは工房スタッフ全員がしますが、今までのリサーチを通して、自社技術とデザイン性には自信があります。そして、新しいデザインであっても、江戸切子の伝統を土台とした展開を心がけ、なおかつ新しい商品を展開することも重要だと感じています。 Xmasや年末を迎える今は、キャンドルランプに力を入れています。試作してみたところ、すぐに売れてしまったのです。(笑)これは、世界共通の仕様をもちながら、クオリティの高いものが世界市場に少ない事も関係しています。当社の製品は流通を通さない工場直営の販売ですので、その分コストをかけた商品展開ができることが強みです。また、手作りの製品なので、完成までに時間もかかり一般の流通に乗せるのは、難しい商品ともいえます。

──市場がグローバル化していき、ライフスタイルも変わってきていますが、その中で伝統や新しい取り組みへのチャレンジなどはありますか?

 熊倉:最近では、有田焼の辻与製陶所とコラボレーションしたランプ製作があります。有田焼には長い伝統があり、製品自体にそれなりの魅力があるので、コラボレートにはいい素材です。ただ、彼らは今までの伝統産業の中での製品作りを基本にしてきますし、コストを考えずに自分たちの思い通りの商品企画をしたことがありませんので、意志を統一するのは簡単ではありませんでした。有田焼と江戸切子のコラボレーションランプしかし、出来上がったランプは、日本や世界でも認められる人気の高い商品となりました。
 また、ランプの金属部分は独自性を出すための重要な部分でもあるため、全て自社でデザインします。そのために金属加工も自社で行っています。なぜかというと、精密さの要求される産業技術の金属加工のレベルは高くても、デザイン性のある金属加工技術が日本では廃れてしまっているのです。また、下請けに回される事でコストが非常に高くなります。そこで、当社ではインド、中国、イタリア、アメリカだろうがかまわない、世界中からいいものだけを取り寄せて組み合わせていき、その中に自社独自のデザインもいれていきます。お互いの力がマッチすれば、世界のマーケットで勝負できます。しかし、コラボレーションは難しい作業で、たまたま有田焼の方とは考え方や技術も合ったのですけれど、心意気だけで技術がない方もいて、難しいところもあります。

──御社の人材育成についてお聞かせください。

 熊倉:まずは当社では、最高の技術を残していかなくてはいけませんので、常に見て勉強する姿勢をスタッフに徹底しています。また、最高の技術、デザインを維持するために自社製品を世界の一流品と比較する事も大切です。難しい技術を独自に手短に、簡単に教え、ある程度のきちっとした教育もしています。一般向けですが、工房の近くにはスクールを開設し、切子技術の他、切子に関係する文化講座なども企画しています。スクールの生徒が当社への入社を希望してくる事もありますので、人材育成という面でも有益な事業となっています。
 華硝ブランドの継承には、ある程度の規模がなくては、アピールできない部分があります。例えば、チームリーダーの下に4、5人いるワンチームのユニットをいくつもつくる事で、華硝の技術が江戸切子の基準となれば良いと思うわけです。これは他をつぶそうというのではなくて、それをしなければ伝統技術の継承は難しく、高水準の製品を基準にすることで、江戸切子の発展につながると感じるからです。

──華硝ブランドということですが、日本では、人間国宝などで個人をブランド化することで価値を高めてきましたが、ヨーロッパのマイセンなどは組織力を強化し、価値を高める非常に戦略的なものづくりを行ってきたように思いますが、いかがでしょうか。

 熊倉:まったく同感です。人間国宝などの個の力で流通にのせて販売するというのは、限界です。今はもう流通の力が弱く、それを扱ってきた有名百貨店も販売力を失っています。日本の工芸の世界は方向性が違ってしまったのかなという感じがしています。販売も卸問屋さんなどに頼りすぎてきました。工芸認定ということでも、販売促進の会場は全て一部の有名百貨店が設定されていますが、百貨店への出品がステータスになることはないのです。従来、流通が価値としてきたこういった部分は、今では力を持たなくなっています。私は実際に物を作り、一流と言われる物を買う立場にあり、見る目も養われてきましたので、やはりヨーロッパのスタイルはとても合理的だと思います。
 もう個の力では無理だと感じていますので、当社では一切個人の名前を使うことはありません。将来、もし優秀な人間が出てきた場合は、それはそれでは別にやることはあっても、先ほど申し上げたユニット長を含め、あくまでも華硝グループを大きなブランドとして位置づけ拡大していきます。その点はマイセンなどとまったく一緒です。ただ、当社の販路は自社出店、自社店舗のみです。スクールなどを通した展開も考えていますが、これには次の世代の考えもあります。

──日本のものづくり産業は、中国などの新興国の追い上げにより、急速に競争力を失っています。日本はポテンシャルをもちながらそれを活かしきれていないと思われますが、御社から見るといかがでしょう。

コレクション花器:熊倉氏渾身の作品。流れるような曲線に特徴がある(非売品) 熊倉:生産コストをあまり気にする必要はないでしょう。当社の製品は独自の価格設定で販売していますが、50万、60万円の製品でも多くの方にご購入いただいています。特にアジア圏の方は購買力があります。海外出店も考えてはいますが、直販とはいきませんからパートナー選びはあくまで慎重で、こちらから積極的には動いていません。現段階では、当社ウェブサイトでの展開を充実させています。海外からも多くの注文がありますので、製品の市場性にも自信がありますし、中国や台湾は日本語ができる人が多く、やりとりは楽です。また、外国人購買層の中には、日本に来て「秋葉原」、「デパート」には興味がないけれど、日本の本当にスゴイものがほしいという感覚の中国や台湾の20〜30代の若年層も見受けられます。

──海外から「クール」と評価される日本のデザイン、技術力についてはどうお考えでしょうか。

熊倉:当社ではわかり易いデザインでありながら、「スゴイな」と感じるようなデザインをしていかなくてはいけないと思っています。今、デザイン全体が割に簡素化しはじめてしまっていますが、我々は逆に加えていくデザインを目指しています。例えば昔ヨーロッパの宮廷文化にあったような豪奢なものの需要はかなりあると思っています。しかし、日本の伝統文化を意識することはあまりありません。当社のデザインは日本の独自性を出すのではなく、無国籍なものです。グローバル化した現代社会では中国や欧米の人たちの好みも大差がなくなっていますので、今は伝統工芸ということ自体を感じさせない時代に入っていると思います。ですから、当社はあくまでカットグラスメーカーとしての製品作りをしています。
 また、世界市場に出るのなら、彼らが考える以上の製品づくりが必要で、そのためにはコストも無視して、長く作り続けていく事が重要でしょう。小さいけれど凄いメーカーというイメージを作りたいと思っています。玉市松:オリジナル紋様欧米のガラスメーカーを見れば当社も大企業になれるだろうとは思いますが、大企業にする必要性もないでしょう。
 また、パリ、ロンドン、ニューヨークに続き、「クール」を東京発でどんどん海外展開する方向も面白いですね。ただ、それには、きちっとしたパートナーがいなければ難しいですね。

──非常に興味深いお話をありがとうございました。

江戸切子の店 華硝
http://www.edokiriko.co.jp/


 
 
 

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