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配信日:2011年1月20日

2011年の経済社会展望

日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科
教授・研究科長

井出 亜夫


日本経済社会が抱えた課題が未解決の中で2010年代が始まろうとしている。わが国経済社会の未来像は「グローバル社会におけるわが国の関わり、新しい市民社会の形成」がキーワードとなるのではないか。

 21世紀最初の10年が終り、次の10年が始まる。日本経済社会が20世紀末の10年に抱えた課題に明確な解決の手がかりが見えない中で2010年代が始まろうとしている。
 日本経済社会は、明治維新、戦後改革に次ぐ第3のパラダイムの最中にあり、年ごとの事態を展望することは、余り意味を持たない。歴史の大きな転換期には、鳥の目で観察するとともに時の目、すなわち歴史の目での観察が不可欠である。
 さて、経済のグローバル化は情報化社会の進展とあいまって一層加速され、先進国中心に世界経済が展開した時代は過去のものとなりつつある。成長センターとしてのアジア諸国、BRICSの台頭等から明らかなように、世界の問題は、G7の世界からG20 の世界、さらには国連等より広いフォラムでの議論が不可欠となっている。 21世紀の市場経済システム、なかんずく社会的共通資本としての金融制度のあり方、地球環境問題の処方箋、国連ミレニアム・ディヴェロプメント・ゴール、20世紀においては援助の対象としてしか考えられなかった途上国マーケット(BOP)の開発等々の問題はこれを如実に語っている。
 こうした中で、わが国近代化に当たって構築された、政治、経済、社会の諸制度は至るところに制度疲労が観察され、一方、来るべき経済社会のあり方に関し、将来像が描かれていない。「坂の上の雲」、「官僚たちの夏」に象徴される近代国家の建設、経済成長による経済大国への道に代わるわが国経済社会の未来像は一体何であろうか。
 私は、外にグローバル社会におけるわが国の関わり・貢献であり、内に新しい市民社会の形成(新しい公共)がキーワードとなるものと確信している。55年体制と呼ばれた政治体制は崩壊し、政権交代が行なわれたが、期待された新政権は、新しい制度設計を提案できず、下野した政党からも新時代を展望するトータルな提案が見られない。

 そこで100年前のわが国の状態を顧みて手がかりを得たい。アジアにおいて近代化の先鞭をきった明治の維新は、近代的インフラの建設、殖産興業を成功裏に進めたが、日露戦争の勝利以降軌道をはずし、1910年日韓併合、1915年対華21か条の要求と世界史の歩みに逆行した道を歩み始めた。
 その間、一方において、大正デモクラシー運動、普通選挙法も展望されたが、他方、治安維持法による思想弾圧等健全な民主主義国家建設の道を歩めなかった。
 日本国憲法の制定による戦争放棄、民主主義諸制度の展開、経済成長による国民生活の向上は、紛れもなく戦後のわが国発展の成果であるが、成熟社会、少子高齢化社会へと進んだ今日、膨大な財政赤字と低成長経済に直面し、その解決に要する政治改革、行財政改革、社会保障制度改革、経済構造改革、教育改革等の課題に解を見出していない。これらの課題について様々な問題提起はなされているが、国民の理解を深め、合意を得るには未だ大きな道程がある。長年右上がりの成長に慣れてきたわが国では、負担と受益のバランスについての国民的成熟が欠け、また、行政府においても自らの組織と役割に関わるスクラップ&ビルド、これを巡る国民合意形成の経験と訓練が不足してきたことは否めない。その意味において、新しい公共の形成が不可欠である
 国際社会の進展を観察すれば、一方において、地域紛争問題は楽観し出来ないが、欧州連合(EU)の形成、各地における地域経済統合が進み、主権国家を超える新しい歴史も進展している。わが国は、近代化における成功、失敗、工夫、克服の歴史を客観化し、特に近隣のアジア諸国との間でこれを共有する努力が必要である。世界史における日本の役割はまさにその一点にあるといっても過言ではあるまい。

 最後に、昭和初年にグローバル市民社会を先取りした宮沢賢治の一文を紹介し、2010年代の展望に代えたい。
「・・・我らは一緒にこれから何を論ずるか・・・世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない 自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する この方向は古い聖者の踏みまた教えた道ではないか 新たな時代は世界が一の意識となり生物となる方向にある 正しく強く生きることは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて生きていくことである 我らは世界の真の幸福を訪ねよう・・・」


 
 
 

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