最新号 メールマガジンの登録・解除・変更 バックナンバー お問い合わせ

配信日:2011年1月20日

伝統の継承と断絶、クール・ジャパンの行方は?

共同通信社
編集局次長

細田 正和


2010年の日本文化は総体的には沈滞していた。注目されたのは、歌舞伎界出身女優の活躍やオタク文化が生んだ女性タレントたちの活躍。伝統の継承と断絶という両面が浮かぶ。菅政権が狙うクール・ジャパンの浮揚は可能か?

 政治の停滞、経済の低迷、国際関係の混乱…いいところのなかった2010年の日本社会。「文化」という切り口から総括してみても、同じように「あまり冴えなかったね」と言わざるを得ない。新しい表現や作品、気鋭の芸術家が現れなかったわけではないが、それらがかたまり≠ニなって、世界に発信できる現代日本文化の潮流を産みだすには至らなかった、という意味である。
 そんな中ではあるが、いくつかの新鮮で興味深い事例を思い起こすことを通じて、2011年の日本文化の行方を占ってみたい。

 少しは希望が持てたのは、映画という表現ジャンルにおける2人の女優の活躍である。寺島(てらじま)しのぶは、奇才若松孝二監督による低予算映画「キャタピラー」で、日本女優としては35年ぶりにベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を得た。太平洋戦争中の農村を舞台に、中国戦線から復員した傷痍軍人と妻の関係を通して戦争の矛盾を描いた作品で、寺島は、両手足を失った夫の世話に追われる妻という難役を熱演した。
 歌舞伎の名門に生まれた彼女は、もし男だったら、時代を代表する歌舞伎俳優になっていたろうが、女性だったおかげで歌舞伎の舞台には立たず、その御利益で日本映画界は1人の天才女優を得たことになる。受賞の弁も良かった―「顔がきれいなだけが能じゃない。私は土臭い農家の役もできる貴重な存在になりたい」。
 もう1人は、寺島とは逆に、テレビ界でキャリアを積み、独特な個性で人気女優となった深津絵里である。主演映画「悪人」は、人気作家吉田修一が、出会い系サイトという新風俗をからめて殺人を見つめた小説。この映画化作品で深津はモントリオール世界映画祭の最優秀女優賞に輝いた。
 この2人の栄誉は、映画という日本の大衆芸術において、その伝統が新しい才能に受け継がれたという理解の仕方で間違いはないだろう。

 一方、そのような「継承」を否定し―むしろ笑い飛ばし―、いわば伝統文化とは絶縁した純粋ポップカルチャー≠ニ呼ぶべき分野で活躍したのが、オタク文化が産みだしたアイドルグループ「AKB48」である。
 彼女たちは生身のスターというよりも、2次元の世界から飛び出たようなアニメキャラクターを連想させる。まことに、東京・秋葉原のオタク文化が産み落とした「萌え」という珍妙な感受性を実体化させたようなグループである。
 ボブ・ディランや「イージー・ライダー」で感受性を磨いた筆者の年代にとって、何よりの驚きだったのは、2010年の日本では、音楽CDの年間ランキングのトップテンが、このAKB48と、ジャニーズ事務所の男性アイドルグループ「嵐」の2組によって独占されたことである。幼いアニメキャラのような女の子たちに萌える<Iタクたちと、さわやかで可愛い男の子たちに黄色い声援を送る10代〜40代女性―このかけ離れた2つのかたまりが、現代日本文化をけん引しているという苦い認識も、避けては通れないのである。
 まとめて言えば、伝統を忘れてはいないが、そこから断絶した珍奇さにも熱狂するというのが、現在の日本の大衆文化となるだろうか。
 こんなことを考えながら新聞を読んでいたら、興味深い記事に出会った。2010年12月22日付毎日新聞によると、日本政府は、わが国が得意とするアニメやマンガ、ファッション、食など「クール・ジャパン」と呼ばれる文化産業の輸出規模について、2020年には現在の2・5倍〜4倍に相当する12兆円〜17兆円を目指す方針を固めたという。記事は「菅直人政権が将来の主力産業に据えるクール・ジャパンで目標を設定するのは初めて」と書いている。
 私なりの文化論から見れば「絵に描いた餅」のような目標だが、叶うなら、私の認識が悲観的なのであって、首相の方が楽観的かつ正確であってほしいものだ。こんな皮肉な感想が浮かんだ年末だった。


 
 
 

〒105-0001
東京都港区虎ノ門1丁目1番20号 虎ノ門実業会館2階 一般財団法人 貿易研修センター
TEL:03-3503-6621
FAX:03-3501-0550
E-mail:iist-emg@iist.or.jp