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配信日:2011年3月22日

地域の資源と人材を活性化する農商工連携

東京農業大学
教授

門間 敏幸


現在,日本中で大きな注目を集めている農商工連携は,食と農を核とした地域資源の活用と人材の活性化を促進して,日本の新しい地域の発展の基盤を創造する挑戦である。

1.農商工連携が目指すもの
 今,農商工連携が大きな注目を集めている背景には,生活・環境・持続・地域をキーワードにした21世紀の新たな価値観,産業構造変革に対する人々の熱い期待がある。日本経済はバブル崩壊,リーマンショックによる世界的な経済危機を経験するとともに,日本経済の成功の方程式を模倣したアジア諸国の追い上げを受けて経済成長は停滞し,国民全体にさらなる経済発展に対する閉塞感がただよっている。
 こうした状況の中で日本は,先進国として安定した経済成長と豊かな暮らしを実現する新たな成長モデルを世界に示していかなければならない。世界と競争する企業においては,世界有数のものづくり技術の再構築を考えるとともに,進出した国の発展との共存共栄を目指す「新たなグローバルスタンダード」創造する必要がある。一方,疲弊が著しい地方経済については,(1)地域経済の活力を高め,持続的な雇用システムを創造する,(2)原料生産から最終商品の生産までを地域単位で実践することにより,付加価値を高め新たな人材の確保と活用を目指すことが重要である。そのためには,高効率・低コスト・グローバルスタンダードを基本とした「大規模ものづくりモデル」から,地域の風土・文化,そして作り手の思いや技が伝わるローカルスタンダードを基本とした「ソフト地域ビジネスモデル」の発信が重要である。
 現在の農商工連携の取り組みの背景には上記のような根本的な考え方があり,地域の特性を活かした多様な取り組みが,多様な人々を組織化して実践されている。産業クラスター等の取り組みに対して,農商工連携はより小規模でかつ個性的な実践が可能であることから,地域の注目度は高い。特に地域の農林漁業者,食品加工,食品小売,外食を中心とする商工業者が全て参加し,固有の気候風土と長い伝統と文化に育まれた郷土性豊かな商品・サービスの開発と消費者への提供は,新たな人材の確保と活躍の場を提供し,地域活性化の起爆剤となることが期待されている。特に食と農とそれに関わる産業は,すべての地域で多くの人々が参加できる産業であり,日本中いたるところで実践できる取り組みである。また,日本の食は「日本食ブーム」の中で世界の食となりつつあるといった状況も忘れてはならない。
 農商工連携の取り組みは決して地域の中にとどまるものではなく,この取り組みによって蓄積されたヒト・モノ・カネ・技術・ノウハウといった経営資源は,世界のローカルスタンダードをリードするものである。世界が日本の地域の取り組みを評価するという状況を創造していかなければならない。

2.地域資源と人材を活性化した農商工連携の成功モデル
 現在,全国で農商工連携に関わる取り組みがどのように行われているかを評価することができる貴重な資料が,農林水産省と経済産業省が協力して2008年7月にとりまとめた「農商工連携88選(以下,88選と略記)」と「地域を活性化する農商工連携のポイント〜農商工連携ベストプラクティス30を参考に(以下,ベストプラクティス30と略記)〜」である。この「88選」及び「ベストプラクティス30」は,今後の農商工連携の展開を考える極めて重要な情報を含んでいる。農商工連携の取り組みは,中心となる主体に従って「農中心型」「商中心型」「商工中心型」「工中心型」「研究開発型」「公・民一体型」「直売型」と類型化することができる。
 ここでは紙面の制約から「農中心型」「商中心型」そして「公・民一体型」の成功モデルについて解説する。農が中心となって農商工連携を展開する契機は多様であるが,一般的にはカリスマ農家が出現して,(1)不安定な市場取引からの脱却,(2)地域や空間的に離れた全国の仲間の組織化,(3)農協組織からの離脱と独自の農協組織化(専門農協型組織の形成),(4)ブランド農産物の生産,(5)消費者ニーズ対応型組織の構築(そのための参加農家の意識統一と技術革新の内部化と仲間への普及,安全・安心システムの確立)が目指される。一定のビジネス規模に達して経営が安定化すると,加工やサービス部門への挑戦が始まり雇用拡大と優秀な人材確保が目指される。さらには,地域内での多様なビジネス展開,地域資源活用・食育等,様々な社会貢献を実践し組織の持続的な発展の基盤の形成が目指されている(図1:PDF260KB)
 「商中心型」のケースは多様であるが,ここでは商店街の活性化を目ざす都市の商店街と,農業の活性化を目指す地方の市町村との連携事例について紹介する。図2(PDF309KB)に示したように,ここでは都市の商店街に農村部の市町村が契約を結んでアンテナショップを開設するという発想から取り組みが始まっている。まだ,こうした取り組みは始まったばかりであるが,経済活動を伴うこうした新たな交流ビジネスモデルが成立することによって,多くの都市の商店街と農村部の市町村の交流が活性化する大きな可能性を秘めている。
 「公・民一体型」では,多くの場合,公が第3セクターなどの形で整備して運営してきたが,利益確保等の面で様々な制約に直面している経営を民間に任せて,その活性化と経営改善を図るというケースが多い。図3(PDF260KB)は,こうした取り組みを「地域資源まるごと活用農商工連携モデル」と呼び,その発展プロセスを整理したものである。ここでのポイントは,外部人材の登用と地域資源を活用した多様な事業展開である。こうした多様な事業展開は人材の能力を大きく開花させ,その後の多様なビジネスモデルの開発,さらなる人材の確保につながり,地域全体の活性化を生み出していく。

3.農商工連携の成功条件
 農商工連携の成功事例の分析から農商工連携が成功するためのポイントは,次のように整理できる。
(1)取り組みに参加する農・商・工の持続的な「WIN-WIN」関係を構築すること。持続的な「WIN-WIN」関係構築で重要な事は,お互いの生産・商慣行の認識・理解と改善に対する意識の変革である。地域活性化のための農商工連携は,単なる利益優先のビジネスを超えて,お互いの経営が持続できる共存共栄型地域産業の創造による雇用・生活の場の創造にあるという共通認識の形成が重要である。
(2)商品開発の原則は,「お客様が得をしたと感じられる商品」にある。そのためには,商品の機能(味,信頼性,機能性,社会性,生産者のメッセージ),価格,パッケージ,物語,接客サービス,アフタケアー,社会貢献等の視点から消費者・利用者の効用を高める工夫が必要である。
(3)販路開拓と商品は表裏一体の関係にある。すなわち,販路を前提とした商品開発が必要であり,商品ができてから売り先を考えるというのでは成功は望めない。
(4)商品・サービスが優れ「消費者・利用者が得をした」と言う強い実感が得られる商品については,口コミで広がり特に戦略的なプロモーションは必要ないであろう。特にインターネットが普及した現在では,こうした口コミ情報は広がりやすい。こうした口コミ情報を知った消費者が当該商品・サービスに関する情報を得ようと,ホームページにアクセスするので,ホームページ情報は充実させておく必要がある。


 
 
 

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