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配信日:2011年3月22日

「ブランド価値と地域連携 〜蚕糸が繋ぐネットワーク」
有限会社ミラノリブ 代表取締役社長 笹口 晴美氏 インタビュー


『日本国内で販売される純国産の絹を使っている製品は僅か0.6%以下。この危機的状況をなんとかしたい』と語る笹口氏が代表を務める(有)ミラノリブは、群馬産の絹にこだわった桐生産絹100%のオリジナルニット製品の企画・製造・販売を行っている。絹糸における新技術や繭のトレーサビリティなどの新しい発想と地域の連携を図る(有)ミラノリブの事業展開は、地域活性化の新しいビジネスモデルとしても注目されている。

――御社は群馬産の絹にこだわった製品展開をされていますが、いろいろな問題意識もあって起業されたところもあると思います。それについてお聞かせください。

ミラノリブ 笹口社長笹口:私はメーカーに勤めていたバブル時期の大量生産・大量消費での輸入拡大の傾向の中、今後日本のものづくりが、コスト面から絶対に危機的な状況を迎える事を肌で感じてきました。日本のメーカーとしては生き残るためには、大量生産とは全く違う形のものづくりが必要だと考えていました。また、私は生まれも育ちも桐生で、身近にあった養蚕を洋装に転じて、生活の中に取り入れたいと長年思っていました。その中で、養蚕の危機的状況もあり、なんとかそれを残していきたいという強い思いもありました。そこで、ニーズの多様化に対応したバイオーダーで群馬産の絹でのオリジナルニットの企画・製造・販売を行うミラノリブを1998年5月にみどり市で創業しました。そして、製品作りをプレゼンできるような工場と店舗が一体となった空間での「ものづくり」をしたいとの思いから、平成17年に繊維産業自立化事業の採択を受け、ニット製品の工場と店舗一体型の拠点を桐生に移転しました。今は地域に点在している職人の方々の技術を結んで桐生ブランドとしての発信をしていきたいと思っています。

上州座繰り 繰糸工程――地元に愛着を持ってやっていらして、その中でも養蚕農家さんとも連携した製品作りをされていますが、ここまでには多くのご苦労があったと思いますが。

笹口:蚕糸という原料は同じでも、ニットの糸作りは和装とは全くの別物で、当初は洋装の糸づくりから開発が必要でした。ニットは今まで誰もやった事のない分野なのです。嫁ぎ先の家業が80年以上、3代にわたるニット・メーカーで、そこで技術的なものは培われていましたが、繭の選定、糸作り、撚糸などは全て一からやりました。地元の繊維工業試験場や蚕糸技術センターのご指導もいただき、適正品種を選別し、その中で技術も確立していきました。形になるまでは、糸作りだけでも1年近くはかかっています。当社では群馬県のオリジナル蚕品種「ぐんま200」で基本データを整え、お客様とのコンタクトを重ねながら試行錯誤を重ねていきました。
繭の状態で染色した絹糸で誕生した新しい色合いのスカーフ 今年で9年目を迎える養蚕農家との連携も、当時は古い慣習の中で、農協さんが農家をしっかり管理していて直接つながることは非常に難しい事でした。農家は繭を作ることで完結となり、個人個人の繋がりはありませんでした。しかし、品質をしっかり追求していくと、やはり川上に上らざるを得ないと考えていた私は、その原点の養蚕農家と繋がりたいとの思いが強くありましたので、県庁のご指導をいただきながら、産業機関他のご支援や農協さんのご支援もいただき、間に入る仲人的な方のお力もあって、本当に素晴らしい技術を持った農家の方と繋がる事ができました。ニットの特徴的な技術であるリンキング工程とても熟練された高度な技術を要求される。当社は特約契約というかたちで、農家が作った繭を買い上げる補償をしていますが、農家にとっても安心して繭を作る事ができる環境の整備が第一です。また、当社では繭にトレーサビリティ(商品履歴)を取り入れていますが、作った繭が製品になり、販売されていく過程が見える事で、農家の方もとてもモチベーションが上がります。「今年も良い繭を作るからね」ということで、お互いに元気をいただいて、本当にありがたくものづくりをさせていただいています。そして、情報交換もさせていただいて、農家のお声やご苦労を聞きながら、またそれをお客様に伝えていくという私の使命もあります。そのようなストーリー性のあるものづくりは、当社のブランド・コンセプトの一つでもあります。そして、多くの思いの結晶が製品となり、それを手に取ったお客様が感動して下さったり、そのお声をいただく時が一番嬉しい瞬間です。
 また、世界遺産の登録が間近と言われる富岡製糸場ですが、地元に繭の農家が無いということだけは避けたいし、それが受け継がれている事が一番の価値ではないかと思いますので、そういった面でも連携をとって、なんとか残していこうという取り組みをさせていただいています。

――「CHIJILA」ブランドの展開がありますが、このブランドへの思いをお聞かせださい。

笹口:桐生に拠点を移転した時点で、群馬産の絹のブランド化を目指していくことを責務としていく強い気持ちがありました。その時に立ち上げたのが、「CHIJILA」です。このマークには全ての思いが表現されています。伝統産業である絹織物の世界では「ちぢら」が出るという表現をしますが、蚕が糸をつくり出す様子と糸のウェーブは「ちぢら」と呼ばれ、一つの枕詞として絹の特徴を表わす本質の言葉なのです。私は絹の本質を大事にした製品作りをしたいという思いを込めてこの「CHIJILA」というブランド名を付けました。また、ニットの編地名から付けた社名の「MILANORIB」の「M」のモチーフでもあり、生産者と消費者と養蚕農家を繋ぐという思いや、無限の可能性という意味などいろいろな思いを含めて、当社独自の製品作りのコンセプトをお客様に納得していただき、お客様に育てていただけるブランドであるように努めています。
桐生本社店内 現在「CHIJILA」はカタログ通販では、三越さん、高島屋さん、家庭画報さん、一部生協でもやっています。販売媒体としては、主は店頭販売ですが、その他カタログ、ネット、百貨店、またTVショッピングや展示会などがあります。中でもTVショッピングの勢いは新しい販売の形だと感じます。価値観を伝えられる画像の力、メディアの影響力の凄さがありますし、カタログの誌面も多くを語っていただけます。そういう流れの中で、消費者は商品の裏側、製品の物語性に非常に興味を持たれていると感じます。

――国内市場の他、海外へも展開していきたいという思いはありますか。

笹口:私は絹のニット素材をやっていくと心に誓って立ち上げた時に、絶対にヨーロッパへの展開と思っていたのです。桐生の絹織物は歴史的な背景もありますので、富岡製糸場が世界遺産になることによって、第二の文明開化で、また何かができるのではないかという夢のような気持ちも持っています。
 また、シルクにこだわり、国産、地元の桐生にこだわったことによるネットワークは、絹の素材の関係の方も、農家も含めて、はかり知れないものを構築させていただきました。また、国の農商工連携88選への選出や地域資源の認定をいただき、繊維を問わず全国の産地の方々とのネットワークができ、異分野の事業者の方々との企画の動きも出ています。
 また、シルクは肌に優しいので、ボディケアなどの健康と美に関するアメニティの開発もさせていただいています。欧米のブランドさんと素材としての「CHIJILA」のダブルネームで一緒にやっていく等、欧米では日本の素材を高く評価していると感じています。

――絹産業で桐生自身を盛り上げていくという動きもあるのでしょうか。また、御社の場合、地元との連携はどういう意味をもっているとお考えですか

笹口:桐生の伝統産業である絹織物ですが、日本の絹を主流で使うのはとても難しくなっていて、養蚕農家も淘汰されてしまうくらい減少し、国の補助金も打ち切られるので、ここ1〜2年が正念場だと感じています。3年前から農家との提携システムいうことで、当社が行ってきた養蚕農家との連携をモデルとした国の事業が立ち上がりましたが、繭を買い上げる業者も減少し、農家も後継者不足といった問題があります。
 ただ、こういった川上の農家を守るための施策だけでなく、一番大事なのは出口への施策だと私は思うのです。繭を作っても出口がなく流通できなければ意味がありません。この出口部分を強化すれば、逆に遡って「繭がこれだけ欲しいから作って」と言えるわけです。そうすれば若い方も入ってくる可能性があり、それがなければ意味がないことだとすごく感じています。この出口の部分の支援がなかなかないので、そこは自分たちで切り開いていくしかないということです。
 また、桐生は絹織物の産地でありながら、ブランド力が不足しています。産地の持つ高い技術力をブランドとして発信することがなかなかできない。それも地域の特徴なのかもしれませんが、桐生としてブランドをアピールできれば、人を呼び込むことができると思っています。
 そして、桐生には優秀な職人さんがたくさんいらっしゃるのですが、点在しているので、それをつなぐ役目をしたいと強く感じていますし、その技術を継承していかなければいけないと思っています。桐生本社 工場内での作業そこで、技術継承に繋がればと上州座操りの講習会を開いたりしています。あとはインターンシップ等で、地元の工業高校や専門学校などの生徒さんを受け入れていますが、そんな学生さんとものづくりを繋げていくような受け皿をなんとかできないかと思っています。
 まちづくりを活性化しようという動きは民間レベルでも始まっていて、絹を媒体にした活性化推進という事で、商業と教育とものづくりとの観点から桐生以外の地域からの参加者とのネットワークづくり等を通して、桐生の価値観や魅力を再発見して学ぶ機会も増えています。そして、それと共に若い人を巻き込んだネットワークができると、活性化の可能性ももっと広がっていくと思っています。
オーロラ 群馬シルクの上品な光沢と 純銀のきらめきを散りばめたストール また、伝統産業というと民芸・工芸となってしまう傾向にありますが、私はこの養蚕や絹文化をビジネスに取り込んでいきたいと思っていて、そうでなければ守れないと思っています。伝統はしっかりと受け継ぎながら、きちんとリニューアルして進化させていくことで残していけるのではないかと感じます。民芸や工芸として止まってしまっては、そこで終わってしまいます。
 桐生に限らず、日本人の感性でつくられる製品は海外へ自信をもって発信できるジャパン・ブランドになると思います。私も技術とともにそれを残していきたいし、残し方は必ずあると思うので、なんとかその技術を残して海外に発信できるようなブランド力を強化して、価格ではなくて付加価値を高めていく努力もしていきたいと思います。日本から是非伝統のものづくりを無くさないように頑張っていきたいと思います。
(有)ミラノリブHP http://www.milanorib.com/


 
 
 

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